55 王達の集い
四色祭。
それは世界中の人が集まる競技の祭典である。
しかし、その審査員を王族が務めるという性質上、四色の4人の王が一堂に集う機会でもあった。
四色祭の前日。
無色の大陸にある迎賓館には、会食を行う為に、セラフィナ達を含んだ、各国の王と王族が勢揃いしていた。
それぞれの国ごとに分かれて席に座り、会食が始まるのを待っている。
「ここに居るのが全員王族とその護衛騎士。何というか……壮観ね。みんなからオーラのようなものを感じる気がするわ」
『ああ、俺もそう思うけど――』
モトキはセラフィナを通して辺りを見回す。
『白の国の王族って少なくない?』
王位を継ぐ条件に、国の名前と同じ髪色であることが含まれている為、王族の大半は同じ髪色をしている。
例えばカリストのように、護衛騎士でありながら王族と同じ髪色の物もいるだろう。
それを考慮しても、白の国以外の王族は20人前後いる。
それに比べて白の国の王族は、イオランダ、リツィア、リシストラタ、シグネ、セラフィナ、エドブルガ、ララージュの7人しかいないのだ。
イオランダが席を外している為、更に少なく見える。
「お父様のお父様である前王ヴィグディスは、側室を作らず、子供も2人しか作らなかったのよ。その王妃であるランペティアも、早い内に亡くなっているわ。どうもナノンお母様の身内で、体があまり丈夫じゃなかったらしいわ。だから人数が少ないのよ」
『その前王は? イオさんの父親なら、まだ50か60代だろ?』
「もともと冒険家だったらしくて、お父様に王位を託した後、旅に出たそうよ。それから1度も戻ってないから、私も会ったことがないのよ」
モトキは、祖父母とは孫を溺愛するというイメージがあった。
実際モトキが両親を亡くした時は、かなり気を使ってもらったのだ。
『まあ全ての家族が仲良しこよしとは限らないか』
「そうね。私もお母様の両親は大っ嫌いだし。話したことは無いけど」
リツィアの両親は、リツィアを精神的に追い詰め、セラフィナを殺すように誘導した元凶である。
その為、リツィアの事は欠片も恨んでいないが、その両親は憎くて仕方がなかったのだ。
「姉さん、何か言った?」
「ん? 何も言ってないわよ?」
口元を隠し、小声でモトキと会話していたが、少し感情的になった為、声が大きくなり、隣の席に座るエドブルガに聞こえてしまう。
セラフィナは慣れた様子で誤魔化し、しばらく大人しくすることにした。
他にも気付いた者がいたが、セラフィナが頻繁に独り言を呟くことは、既に周知の事実である。
「お待たせしました。これより各国の王により、開宴の挨拶となります」
アステロの市長である男性の司会の下、会場の脇から4人の王が歩いてくる。
先頭を歩くのは40前後の太った青髪の男性、青の国の王、アンキセス・B・エルブルース。
いかにも腹の中に脂肪以外の一物がありそうな雰囲気を纏っている。
我先にと、他の王達より前を歩いていることからも、プライドの高さが伺えた。
2人目は妖艶な雰囲気で褐色赤髪の女性、赤の国の女王、エルザ・R・ドレッドノート。
ソフィアの手紙には、3人の兄と2人の姉と1人の弟がいると書かれていた。
しかしとても7児の母とは思えないほど、若々しい見た目をしている。
3人目は、お馴染みの白の国の王、イオランダ・ホワイトボード。
王の中で1番若い為か、それともセラフィナとモトキが見慣れている為か、他の王と比べていまいち迫力がないように感じられる。
最後に現れたのは、日本の着物のような服装で杖を持った黒髪初老の男、黒の国の王、ツルギサン・K・ツヅラ。
厳格な頑固老人といった見た目で、イオランダの次であることもあり、その場に立っているだけで迫力がある。
そして4人とも、セラフィナ同様、宝石のように煌めく金色の目をしていた。
4人は舞台の上に上がり、横一列に並ぶ。
そしてアンキセスが一歩前に出た。
「おほん! 四色の王を代表し、青の国のアンキセスが挨拶をさせて頂く!」
勝ち誇ったような顔で挨拶を行うアンキセスに対して、エルザとツルギサンは不満げな顔をしている。
他の王族達も、国ごとに同様の反応をしている。
白の国だけが、王も王族も平和そうな顔をしていた。
(白の国は、全体的に緩めだって聞いてたけど、これはこれで問題な気がする……)
白の国は、他の国と比べて闘争心が控えめなのだ。
もちろんそれは全体的な話であり、個々人となると話が変わってくる。
四色王国は、全て友好国ではあるが、もし戦争が起きたとしたら、白の国は真っ先に潰されるだろう。
そうでなくともアステリアには、魔人という人類の天敵や、竜種という人類の脅威が、ランダムで発生するのだ。
モトキは白の国の将来が少し不安になった。
(お母様、怖い顔をしているけどどうしたのかしら?)
全員が平和そうな顔をしている城の国の王族の中で、唯一リツィアだけが不満げな顔でイオランダを見ていた。
それに気付くと、イオランダはリツィアから目を逸らした。
(……リツィアさんが、イオさんを尻に敷いている限り、大丈夫そうだな)
「明日は3年に1度の四色祭である! これは我々の始祖たる女神アステリアへ、人類の成長を示すための場である!」
モトキは以前にセラフィナから聞いた話を思い出す。
今から何千年もの昔、この世界と同じ名を持つ女神アステリアが、四色王国を作った。
金色の瞳は、女神の血縁を意味するのだと。
「我々王族は、女神アステリアの名に恥じることの無いよう、厳正で公平な審査を行うことをここに誓う!」
アンキセスが宣言を終えると、会場を拍手の音が包む。
満足気にアンキセスは、他の王の元まで下がる。
アステロの市長が4人の王にワイングラスを配ると、代わりにイオランダが前に出た。
不満げだった表情のリツィアは、一転して満足そうにしている。
白の国の王族も、他の国ほど極端ではないが嬉しそうだ。
「四色際は明日。今宵は国同士の垣根を越えて、存分に交流を深めてほしい。四色王国の絆と平和が永遠であることを願って――」
イオランダはワイングラスを額に近付けた後、前方に高く掲げた。
「乾杯!」
「「「乾杯!」」」
王達の挨拶が終わり、王族達の会食が始まった。




