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二人で一人の剣姫  作者: 白玖
第五章 白くて甘い日々
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54 セラフィナにとってのモトキ

(むぅ……。昨日の顔の紅潮と心臓の高鳴り……。いわゆる恋の症状よね。神の加護で病気にはならないのだし)


 セラフィナは、心の中の部屋の机の前で考え事をしていた。

 寝たことで冷静になった頭で、昨夜の感情を考察しているのだ。


(私はモトキに好意的な感情を向けている。それは今更疑う余地がないわ)


 セラフィナは、紙に思い付いたことを箇条書きしていく。


 モトキは毒で死にかけていたセラフィナを助けた命の恩人である。

 利用されていると知った上で、セラフィナの剣として戦うと誓ってくれた。

 セラフィナだけでなく、シグネやエドブルガの為にも、全力で戦ってくれる。

 セラフィナのしたいことを肯定し、後押しし、時には協力してくれる。

 そしてセラフィナに好意を寄せてくれている。


 そんなモトキにセラフィナが好意的な感情を向けるのは、至極当然な事であった。


(……私の想像上の人物かと思うくらい、私にとって都合がいい存在ね、モトキって。けどモトキは1年以上前から、そんな感じだったわ。好きとか可愛いとか何度も言われた。それが嬉しかったり、照れ臭かったりしたこともあるけど、今回のはそれとは違ったわ……)


 セラフィナは、今と今までの違いが分からなかった。

 なぜ今になって、そのような感情を覚えたのか。

 そしてこの感情は本当に恋と呼べるものなのか。

 自分の感情が理解できないのだ。


 そして理解できないことは、研究者として放置したくなかった。


(私はモトキの事を具体的にどう思っているの?)


 モトキは現在、セラフィナの自室で羊毛フェルト人形のエアを作っている。

 いつもの様な早業ではなく、魂を込めるかのように、ゆっくり丁寧な作業だ。


(……モトキはブラコンのシスコン。イサオキとエアの為って言ったら、何だってやるし、出来るようになるまで頑張る狂人。顔は……自称イケメン?)


 セラフィナは、モトキの事を分析しだす。

 異世界である地球の出身であるモトキの顔は、セラフィナからしたら外国人の顔である。

 その為モトキの容姿が優れているかは、いまいち判断が付かなかった。


 それでもモトキ曰く――。


「病院の女性患者と看護師の大半が、恋の病を患ってしまう程の、究極イケメン神のイサオキ。世界三大美女の上に、唯一の存在として輝く、傾国ならぬ傾星の美女のエア。しかも2人ともまだ幼さが残っていて、今後更に美男美女として成長することが確定していた全宇宙の宝だ。流石に2人には負けるけど、そんな2人と同じ遺伝子を持つ俺がイケメンじゃない訳がないだろ?」


 との事だった。


 セラフィナは、イサオキとエアの顔を知らない。

 モトキが作っている羊毛フェルト人形は、かなり可愛らしくディフォルメされている為、参考にならない。

 心の中の世界では、思ったものを自由に作り出すことが出来るはずだが、イサオキとエアを模したものだけは、1度も作ろうとしなかったのだ。


(モトキの事だから、だいぶ贔屓目に見ている可能性があるのよね。エアなんて、お母様より美人だって話だし。四色祭のミスコンの審査員として参加しておいて、優勝を掻っ攫う伝説を残したお母様より……)


 しかしリツィアを、エアの次とはいえ、美人と評したその美的感覚は正常と言えるだろう。

 そして、やっていることに対して自己評価が低めのモトキが、自分の事をイケメンと評するのは、かなり珍しいことだ。


(……まあ、整った顔立ちはしているわよね。でもあの時は見えない状況だったし、顔じゃないわね。なら……性格?)


 モトキは基本的に、優しく甘く尽くす性格である。

 自分の内に置いた相手に対しては、殊更その傾向が強くなる。

 その1番内側にいるのがイサオキとエア、そしてセラフィナだ。


(たぶんモトキ自身は、その内側に含まれてないわね。少し気に入った私の為に、自分の命を差し出したりしたし)


 現在は、セラフィナと肉体を共有している為、無茶なことを控えていた。

 それでも緊急事態だったり、要所要所でその片鱗を見せることがたまにある。


(私もモトキの事は言えないけどね。モトキは私が無茶をしても味方をしてくれるけど、私が逆の立場だったら……あまりいい気はしないわね)


 セラフィナは少し反省した。

 口には出さないが、自分もモトキに不快な思いをさせている気がしたのだ。


 そして今のモトキが無茶をするとしたら、それはセラフィナに原因がある。


(私はモトキを含めて、守ってくれる人がたくさんいるけど、モトキには私しかいないのよね……。無茶をしないように気を付けないと)


 モトキの性格を分析した結果、庇護欲のようなものを抱く結果となった。

 しかしそれは、恋とはまた違った感情だ。


(モトキの性格で特質する点って、他にはブラコンでシスコン……家族を大事にしているところ? その気持ちは共感できるけど、それこそ最初から分かっていたことよね)


 モトキは、ブラコン・シスコンの化身のような存在だ。

 それがモトキそのものであり、モトキという存在を認識する前提条件といっても過言でもない。


(顔でもなく、性格でもない。だったら私は何にドキドキしたの?)


 次に思い付いたのは、地位や財産である。


(これは私が持っている要素よね。他には……お菓子作り?)


 モトキの再現する地球の菓子は、皆に好評である。

 当然セラフィナも大好きだ。


(え? ひょっとして私って、お菓子に釣られてモトキを好きになったの? 10歳にもなってそんな理由で――)

「セラフィナ?」

「ひゃい!」


 セラフィナは、背後からモトキに声を掛けられ、肩を叩かれると、驚いて変な声を漏らした。

 机の上にある、思ったことを箇条書きした紙を、クシャクシャに丸めると、ファイヤーショットで焼き払う。


「な、なに!?」

「いや、お前こそどうした」

「なんでもないわよ! それより何でモトキがここに!?」


 心の中の部屋は、表に出ていない時の待機場所である。

 2人が同時にこの場所に現れるのは、セラフィナの肉体が意識を失った時だけだ。


「何度も呼び掛けたんだけど返事がないし、そろそろ俺も限界だから、仮眠をとって様子を見に来たんだ。もう夕方だぞ?」

「嘘っ!?」


 セラフィナは、かれこれ10時間近く考え事をしていたのだ。

 この1年余りで、モトキの魂の損傷は半分以上直り、表に出ていられる時間もかなり伸びた。

 それでも1日中外に出続けることは出来ないのだ。


(魔術以外でこんなに集中したのって初めて……)

「それで昼食の時にリツィアさんに頼まれたことがあるんだ」

「お母様に?」

「来月に四色祭ってお祭りが、無色の大陸であるだろ?」

「ええ、今年は私達も行くわ」


 四色祭とは、3年に1度、無色の大陸で行われる祭典。

 世界中の人が集まり、様々な競技で順位を競う大会。

 スポーツに限定しないオリンピックのようなものだ。


 その審査員は、各国の王族が務めている。

 今まで病弱だったセラフィナが四色祭に行くのは、今年が初めてである。


「ひょっとして私に、何かの協議の審査員をするように言われたの? 魔術関連の競技なら喜んで――」

「いや、王闘って競技に参加しないかって」

「王闘!? 何で私が!?」


 それはセラフィナの好まぬ、体育会系の競技だった。

 そしてセラフィナの初めての四色祭が始まる。


第五章はこれで終わりとなります

次の章より登場人物が一気に増えます

混乱した場合は登場人物解説をご覧ください




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