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二人で一人の剣姫  作者: 白玖
第五章 白くて甘い日々
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50 異世界クッキング

 ホワイトデー。

 それは白の国特有のイベント。

 普段お世話になっている人や、好意を寄せている人に、白い贈り物を送る日である。


 ホワイトデーと言う名前だが、やることは日本で言うバレンタインデーの要素も含まれている。


「ソフィアに白い贈り物を送っても、意味が通じないわよね?」

『赤の国にはないのか? レッドデー的なイベント』

「戦いのお祭りで、ステージを血で赤く染めるイベントの事を言うらしいわ。レッドデー」

『物騒だな!?』


 セラフィナが帰国してから4ヶ月余り。

 ソフィアと何度か手紙のやり取りを行い、次はセラフィナが送る番となった。

 セラフィナは自室で、手紙の内容を考えている最中だ。


「ソフィアから誕生日のお祝いを貰ったから、私もお返しに何か送りたいのだけど……難しいわね」

『個人的な意見だけど、友達同士の手紙のやり取りって、もっと軽いものだと思うぞ? 内容的にも、重量的にも』

「重量は大事よね……」


 セラフィナは先日誕生日を迎え、10歳となっていた。


 ソフィアの贈り物は、羊の置物だ。

 以前、羊が好きだと手紙に書いてことからのチョイスであろう。


 10センチ程度の机の上に置くのにちょうどいい大きさだったが、赤の国でのみ採掘される希少な金属で作られていた。

 それは見た目以上に重く、セラフィナの腕力では持ち上げられない品だったのだ。


『誕生日のプレゼントなんだし、お返しはソフィアの誕生日にするとして、今回は普通の手紙でいいんじゃないか?』

「そうね……でも、もう少し考えてから――」

「姫様、キテラです」

「どうぞ」


 セラフィナが悩んでいると、部屋にノックの音が響き、キテラがやって来た。


「姫様が頼まれましたものが届いています。全て第3厨房に贈ればよろしいですか?」

「それで構わないわ。第3厨房は空いている?」

「はい。本日の使用予定はありません」

「分かったわ。ありがとう」


 セラフィナは、小綺麗で動きやすい格好に着替えると、第3厨房に向かった。


                    ・

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 第3厨房。

 文字通り、場内にある3つ目の厨房だ。


 王族の食事を作るメイン厨房、兵士や使用人の食事を作る第2厨房、そして祭事の時などに使用する第3厨房。

 普段は使われていない為、セラフィナは偶にこの場所を使わせてもらっているのだ。

 もっとも実際に何かをするのは、モトキの方だ。


「ふむ……よし、頼んだ物は全部届いてるな。それじゃあ去年のリベンジの予行練習といくか」

『去年も別に失敗って訳じゃないと思うけど』


 昨年のホワイトデー。

 モトキが目覚めてから半年が経ち、それまでに多くの人の世話になってきた。

 それに対して、セラフィナとしてではなく、モトキとしてお礼が出来ないかと考えた結果、ホワイトデーに菓子を送ろうと考えたのだ。


「どうせなら地球の料理を再現しようと思ったけど、あの頃は全然上手く出来なかったんだよなぁ……」

『城の国の料理は、すぐに覚えられたのにね』


 モトキは、イサオキとエアに美味しいものを食べさせるためにと、20ヵ国の料理を習得していた。

 もちろん味も栄養バランスも完璧である。

 その為、たとえ別の星だろうと、新しい料理や調理法を覚えることは簡単であった。


 しかし地球の料理を再現しようとすると、今までの経験と常識が全く通用しなくなったのだ。


「食材や調味料の名前が同じだからと言って、見た目だけで、味が全然違うんだもんなぁ……。味が近かったとしても、含まれてる成分が違ったりで……詐欺だよ、あれは」

『でもモトキが作ったロールケーキは、美味しかったわよ』

「あれは、こっちにあるケーキの形を変えただけだから。この世界の既存の料理なら、城の料理人に作ってもらっても同じだ。それじゃあ俺の感謝の気持ちを伝えきれない。だからリベンジなんだ」


 モトキは燃えていた。

 昨年のホワイトデーから1年かけて、この世界の食材と人の味覚への理解を深めた。

 今の自分なら地球の料理を再現できるという自信を得たのだ。


 料理はイサオキとエアの為に身に着けた技術である。

 それが別の世界に来た程度で否定されるのは我慢できないのだ。


『それで今年は何を作るの? 白いお菓子と言えばアイス?』

「あれは氷がないと作れない」

「暑い時期にこそ食べたいのに……ままならないわね」

『氷の魔術が普及してくれれば今の時期でも作れたんだけどな』

「あの術式は、複雑で煩雑すぎて、今の私には手に負えないわ……」


 アイスは牛乳や卵といった、動物から採れる材料が殆どな為、さほど苦労せずに再現することが出来たのだ。

 白の国は、寒い時期には雪が降るので、それを利用したのだ。

 それを皆に振舞ったところ大好評だった。


 しかし今は、地球で言うところの秋頃なので、作ることが出来ないのだ。


「この世界にない白い菓子。前回失敗した杏仁豆腐を作る。それをフルーツポンチにして食べるんだ」

『おー。よく分からないけど味見は任せて』

「ああ、1番に食べさせてあげるとも」


 モトキは食材を取り出すと、テキパキと調理を始めた。

 以前は右腕を失ってから、あまり間がなかったこともあり、かなり危なっかしかったが、今ではプロ顔負けの動きである。


 しかし妙なことに、モトキは同じものを2つ別の鍋で作っていた。


『料理の事は分からないけど、それって両方同じよね?』

「この世界で杏仁豆腐を美味しく作るには、ある隠し味を加える必要があるんだ。俺の経験から、それを2つに絞ったんだけど、やっぱり実際に作って食べ比べるのが確実だからね」


 そう言ってモトキが取り出した2つの隠し味。

 大根おろしとホワイトピーマンのペーストである。


「……自分で選んだ食材なのに拒否感が凄い。なんで俺は杏仁豆腐に大根とピーマンを入れようとしてるんだ……」


 モトキは未だに慣れない世界観のギャップに目を瞑り、2つの鍋にそれぞれの隠し味を入れる。

 出来たものを冷水で冷やすと、後は完成を待つだけだ。


 後片付けを済ませ、セラフィナが本を読みながら時間を潰していると、2人の来客があった


「いらっしゃい。美味しそうな気配に釣られてきたのかしら?」

「はい、味見役が必要かと思ったのです!」

「こらこら、違うだろうに……」


 来たのはフラマリオとカリンの兄妹だった。

 モトキの料理が目当てのカリンと違って、フラマリオは何やら悩みを抱えてそうな顔をしている。


「とりあえず試食はして行って。2種類作ったから味比べしてほしいのよ」

「そういうことでしたら……」

「是非に!」


 モトキが2種類のフルーツポンチを出すと、セラフィナを合わせて3人に試食をしてもらう。

 杏仁豆腐の新触感がとても好評だ。


「いやはや、良いものをご馳走になりました」

「お粗末様。それで、どっちの方が美味しかった?」

「どちらも美味しいですけど、あえて優劣を付けるとしたら、こっちですね」

「私もカリンと同意見ですな」

『私もね。これってどっちを入れた方だっけ?』

「ホワイトピーマンのペーストの方だな」

「ピっ!」


 先ほどまで笑顔だったカリンが固まる。

 カリンはピーマンが苦手なのだ。


「まったく気付かなかったです……。美味しかったことに変わりはないのですけど、こう……上手く言葉に出来ないです……」

「こら、カリン! 申し訳ありません、セラフィナ様」

「苦手な食べ物があるのは仕方がないさ。それをどう美味しく食べさせるかも料理人の仕事だからな」

『いつから料理人に……』


 試作品の杏仁豆腐を完食すると、カリンがせめてものお礼にと、器を洗うこととなった。

 セラフィナは表に出ると、フラマリオの方へと向き直る。


「それでフラマリオ。私に何か話があるのよね?」

「はい、このフラマリオ、セラフィナ様に相談したいことがありまして。よろしいでしょうか?」

「よろしいわよ。けど私に相談って……魔術関連?」

「いえ、実は……れ、恋愛相談に乗って欲しく!」

「キテラの?」

「何故それを!?」


 気付いていないのは、キテラ本人だけである。

 こうしてセラフィナの恋愛相談が始まった。


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