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二人で一人の剣姫  作者: 白玖
第四章 魔術の祭典
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49 ただいま

 白の国の王イオランダは、国務に勤しんでいた。

 しかし無意味に立ち上がっては、部屋をグルグル歩き回ったり、チラチラと外の様子を窺ったりと、集中力がまるでない。

 リツィアは、そんなイオランダを見て溜め息を付く。


「あなた、少しは落ち着いてください」

「しかしだな、セラフィナが無事に帰ってくるか心配で……。こんなに長い間離れていたのは初めてだし……」


 イオランダは、今までどれだけ忙しかろうと、日に1度は絶対に、子供達の顔を見てきた。

 だと言うのに、セラフィナが無色の大陸に旅立ってしまった為、もう10日余りも顔を見ていない。

 元々が病弱だったこともあり、その心配は一入だ。

 そして単純に寂しかった。


「心配しなくともセラフィナは、既に帰国の最中ですよ」

「だがもし、何かトラブルにでも巻き込まれたら……」

「そのようなことがあれば、知らせがすぐに届きますよ。便りのないのは元気な証拠です」

「そ、そうだな……」


 ソフィアが誘拐され、セラフィナが助けに行って怪我をしたことは、相談の結果なかったことにされた。

 旅先でトラブルが起きたと知られれば、今後の外出がし辛くなるからだ。


 キテラとカリンには報告の義務があり、セラフィナに黙っているように言われた際は、かなり渋った。

 しかし報告をすれば、セラフィナを危険な目に遭わせた責任を取らされ、良くてセラフィナの担当から外され、最悪解雇されてしまう。

 2人ともセラフィナに大恩があり、担当を外されるなど考えられなかったので、止むを得ず黙っていることに同意した。


 オルキスは、白の国の魔術発展の為に、一瞬で同意した。


 そんなこともあり、リツィアはセラフィナが危険なことに首を突っ込んだことを知らないのだ。


「セラフィナは魔術コンテストでしっかりと成果を残していますよ?」


 リツィアは、今朝白の国に届いた、無色の大陸の新聞を取り出す。

 そこには小さくだが、セラフィナが載っている。

 イオランダもその新聞を穴が開くほど読み込み、セラフィナの記事を額縁に入れて、自室に飾っていた。


「セラフィナが頑張っている間、父親のあなたが腑抜けっぱなしだったと知ったらどう思うことか……」

「それは困る! 私はいつだって子供達が誇れる立派な王でなくてはいけないのだ!」

「その通りです。ですから頑張って仕事に励みましょう」

「そうだな!」


 イオランダは先程までとは一転、とてつもない集中力で、あっと言う間に仕事を終わらせるのだった。

 セラフィナが、魔術の事になると集中力が跳ね上がるのは、イオランダのこういう所が似たのだろう。


                    ・

                    ・

                    ・


 魔術コンテストを終えてから10日後。

 セラフィナ達の乗った馬車が、城へと帰ってきた。

 イオランダは、それに合わせて本日の国務を全て終わらせて、門の前でセラフィナの帰りを待っていたのだ。


「姫様、お手をどうぞ」

「ありがとう、キテラ」

「セラフィナー!」

「あっ」


 キテラに手を取られながら、セラフィナが馬車から下りてきた。

 するとイオランダは、セラフィナに抱き着こうと駆け寄る。

 しかしセラフィナはそれをスルーして、イオランダの横を通り過ぎた。


「ララージュー」

「ねー、ねー」


 セラフィナは、リツィアの抱えているララージュに一直線だった。

 ララージュは、セラフィナに気付くと無邪気な笑顔を向ける。


 セラフィナが無色の大陸へ行くことへの最大の懸念事項は、ララージュと離れ離れになることだ。

 産まれて1年に満たないララージュとの20日間は、とても長い時間だ。

 その間に忘れられたりしたら、セラフィナは一生消えない心の傷を負ったことだろう。


 モトキの影響もあってか、セラフィナのブラコンシスコンは、かなり顕著なものとなっていたのだ。


 イオランダはそんな光景を微笑ましく思いながらも、寂しそうに見つめている。


「セラフィナ、はしたないですよ」

「失礼しました、お母様。セラフィナ・ホワイトボード。ただいま戻りました」

「お帰りなさい、セラフィナ」


 帰国の挨拶を済ませると、セラフィナは両腕を大きく広げた。

 リツィアがララージュを護衛騎士のフラマリオに預けると、セラフィナが思いっきり抱き着いた。


「いつまでも甘え癖が抜けませんね」

「20日ぶりだから特別なんです」


 リツィアは若干呆れながらも、セラフィナの頭を軽く撫でる。

 2人の間に蟠りは一切なかった。

 そんな2人の様子を、イオランダは羨ましそうに見ている。

 そして次は自分だと思い立つ。


「セラ――」

「お帰りなさい、姉さん」

「お帰り、初めて無色の大陸はどうだった?」

「シグネ、エドブルガ、ただいま」


 イオランダの声を遮って、シグネとエドブルガが駆け寄ってきた。


「ええ、見るもの聞くもの全てが初めての事ばかりで、とても充実した日々だったわ」

「四色祭の時とは違った感じなんだろうな。俺も平時のアステロに行ってみてぇな」

「あれ? それどうしたの? 姉さんが髪留めなんて付けてるの珍しいけど」


 セラフィナは、ソフィアに贈ってもらった赤い髪留めを付けていた。

 とても気に入っている為。基本的に常に身に着けているのだ?


「へ、変じゃないわよね?」

「うん、凄く似合ってるよ」

「ああ、セラフィナに合った色だと思うぜ」


 自主的にお洒落などしたことのないセラフィナは、少し気恥しかった。

 それでも初めての友達からのプレゼントを褒められて、嬉しく思う。


「とても気の合う友人が出来たの。これはその子からの贈り物よ」

「ひょっとして新聞の写真に一緒に写ってた?」

「赤の国の姫だよな?」

「ええ、そうよ」

「あなた達、ここで話し込んでいては邪魔になるわ。続きは部屋でお茶でも飲みながらゆっくりしましょう」

「「「はい」」」

『セラフィナ、ちょっと待った』


 セラフィナ達は、いつも食事を行っている部屋に向かおうとする。

 しかし一向に重要なことに気付かないセラフィナを、モトキは呼び止めた。


『ほら、あそこ……』

「あっ」


 そこには皆の輪に入る機会を逃し、寂しそうにしているイオランダの姿があった。

 その表情は、とても一国の王とは思えない。


「……え? お父様、いつからそこに?」

「いや……今来たところだ」

『セラフィナが馬車から下りてきた時点で、既に居たよ。男親特有のぞんざいな扱いでスルーされてるかと思ったら、本当に気付いてなかったのか……』


 最初にララージュに意識を奪われてから、まるで示し合わせたかのように、イオランダに意識を向ける機会が奪われていたのだ。

 これは全て偶然であり、決してイオランダを故意に無視したわけではなかった。


「気付くのが遅れてごめんなさい!」

「お、おぉ!」


 セラフィナはイオランダに謝りながら、思いっきり抱き着く。

 普段はイオランダの方から抱き着くので、セラフィナから抱き着いてくれたことに、イオランダは歓喜した。


「ああ……無事に帰って来てくれて本当に良かった。おかえり、セラフィナ」

「ただいま、お父様」


第四章はこれで終わりとなります

この章はセラフィナのみが主人公で、ソフィアがヒロインでしたが

次回からダブル主人公に戻ります

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