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二人で一人の剣姫  作者: 白玖
第四章 魔術の祭典
48/662

47 友達

「お姫様、おめでとうです! 初参加で9位なんて凄いですよ!」

「うちの姫さんの方が凄いけどな! なんたって8位だ!」

「あー……うん」

「そうだねー……」


 魔術コンテストを終え、アステロセンターホールの前で、セラフィナ達はカリン達と合流した。

 しかし2人は未だにボーっとしている。


 セラフィナもソフィアも、魔術界の歴史に残る偉大な記録を残した。

 しかしフリージアが残した、氷属性の魔術と言う偉大過ぎる伝説により、すっかり掻き消されてしまったのだ。

 当然優勝した。


「本当の天才ってああいうのを言うのね……。まだまだ未熟だとは思っていたけど、そういう話じゃななかったわ……」

「うん……。一生勝てる気がしないよ……」


 悔しい訳ではなかった。

 悔しいという感情すら湧きあがらないほど、圧倒的な存在を当たりにしたのだ。

 才能というどうしようもない壁に、挫折感を覚えた。


「お姫様だって十分天才ですよ!」

「姫なら次は優勝だぜ!」

「2人は魔術に詳しくないから……」

『そうだな。直接見た俺でも何が凄いのか全然分からなかったし』


 他の参加者達も、フリージアの魔術に感動を覚えると同時に、決して叶わないという絶望感を感じるものが多かった。

 それは実力があり、自分の魔道に自信があるほどに、顕著に表れている。


「姫様、気持ちは分かりますが、もっと気を強く……」

「まあ、仕方がないわな。あれは今までの魔術の常識をぶっ壊す代物だ。今後の魔術界の前提がひっくり返っちまったよ」


 本コンテストで5位という、優秀な魔術研究者であるオルキスであったが、セラフィナやソフィアと比べると平然としていた。

 対船酔いと言う、オンリーワンすぎる魔道故に、あまりショックを受けていないのだ。


「あっ、セラフィナちゃーん、ソフィアちゃーん」


 優勝トロフィーを持ったフリージアが駆け寄ってきた。


「やっと見つけたわぁ。記者やファンの人に囲まれて、中々出て来れなかったのよぉ。まだ帰って無くてよかったわぁ」

「フ、フリージアさん!」

「優勝おめでとうございます!」


 セラフィナとソフィアは優勝を祝う。

 薄紫の女性として会っていた時とは違い、2人ともガチガチに緊張している。


「ありがとう。 それでどうだった? ビックリしたぁ? 凄いでしょう」

「は、はい。まさか氷属性を再現するなんて……」

「そっちじゃなくて、私の正体のことよぉ」

「あ、そういえば名前隠していましたね。氷の魔術の衝撃が大きすぎですっかり忘れていました」

「えー、そんなぁ……」


 フリージアはガッカリして肩を落とした。

 よっぽど正体に対して驚いてほしかったようだ。


「ねぇ、2人は私の魔術をどう思ったぁ?」

「はい! 凄かったです! 今まで誰も再現できなかった氷属性の魔術を――」

「うん、氷属性は横に置いておいてねぇ。私の魔術の出来栄えに付いて聞きたいのよぉ」

「えっ……」


 セラフィナとソフィアは互いに顔を見合わせる。

 それから少し悩んだ後、意を決したように息を飲み、フリージアの方に向き直った。


「し、失礼を承知で言わせてもらいます! あの術式は酷い出来でした!」

「ととととてもフリージアさんが作った術式とは思えませんでした!」

「……」


 2人は皆から絶賛された、フリージアの魔術を真っ向否定した。

 フリージアはそれを聞き、沈黙しながらプルプル震えている。


(い、言っちゃったー! これ絶対怒るわよ!)

(魔術研究の第一人者に喧嘩を売ったと思われるよ! どうしよう……)

「あなた達……」

「「ひぃいいいいいい!」」


 フリージアは2人に笑顔を向けると、思いっきり抱きしめた。


「あなた達ならそう言ってくれると思ったわぁ。ありがとー」

「「……へ?」」


 怒られるどころか、お礼を言われたことに、2人は戸惑っている。

 そんな2人の気など知らず、フリージアは2人に頬擦りしていた。


「他の研究者の人にも、審査員の人にも、観客の人にも、同じことを聞いたけど、誰もそう言ってくれなかったわぁ。みんな氷属性に盲目になってるのよぉ」

「ど、どういうことですか?」

「分かるように説明してくれよ」


 カリン達も事態を飲み込めず戸惑っている。

 オルキスだけは何かを察したようで、半笑いの表情でその場を見守っていた。


「あのね、フリージアさんの術式は、凄く綺麗なの。あらゆる構造が緻密に計算されていて、それが細かく洗礼されているから、まるで美術品を見ているかのような気にさせられるのよ」

「だけど今回の術式……。パッと見は纏まってるけど、いろんなところが雑で、ボクの知ってるフリージアさんの術式とは全然違ったの……」


 フリージアは2人の言葉を聞き、うんうんと頷きながら、満足そうな顔をしている。


「あなた達の術式は、とっても綺麗だったわねぇ」

「はい、私はフリージアさんの術式に憧れたから、魔術研究者になろうと思ったので。術式の形には拘りたかったのです」

「ボクもです。そこは凄い時間をかけて、満足が行くまで何度も作り直しました」


 セラフィナは脳に刺激を感じるたびに、何度も術式の微調整を繰り返してきた。

 その執念が、より少ない魔力で、より高威力の魔術を作り上げたのだ。


「あの術式は私が組んだものよぉ。けれど時間が足りなくて未完成なのよぉ。魔力の消費量とか最悪よぉ。だから今年は出場を辞退しようと思ったのだけど、青の国の王様が出ろってしつこくてぇ……」

「未完成とはいえ氷属性の魔術なんて、出場したら優勝間違いなしですから」

「青の国としては是が非でも出場してほしいですよね……」

「あの王様……資金提供してくれるのは嬉しいけど、魔術に対する理解が足りないのよぉ」


 常に穏やかで、笑顔を絶やさなかったフリージアは、かなり不満そうな顔をしている。

 自分の魔術にも、コンテストに出場することも、本気で嫌だったのだ。


「だけど今では出場して良かったと思ってるのよぉ。あなた達に合えたからねぇ」

「そ、そんな、私達なんて――」

「なんて、なんて言わないのぉ。ちょっと甘いところもあるけど、あなた達の術式は素晴らしかったわぁ」

「フリージアさんにそこまで……光栄です!」

「ありがとうございます」


 フリージアは、抱えていたトロフィーを地面に置くと、手を伸ばし術式を起動させる。


「エアースラッシュ」


 フリージアの指先から放たれた風の刃は、優勝トロフィーを左右に裂いた。


「何をしているのですか!?」

「せっかくのトロフィーを!」

「こうしないと2人に上げられないものぉ。最初に優勝した時の以外は、こうやって将来有望そうな人にプレゼントしてるのよぉ」


 そう言って2つに割れたトロフィーを、セラフィナとソフィアに差し出した。

 2人は戸惑いながらも、トロフィーの片割れを受け取る。

 割と重量があった為、セラフィナは転びそうになったが、どうにか堪えた。


「いつか私を追い抜いて、ちゃんとしたトロフィーを取ってねぇ。楽しみにしてるからぁ」


 そう言ってフリージアは去っていった。


「凄い期待されちゃった……」

「うん、あのフリージアさんに……」


 2人はトロフィーをギュッと抱きしめて向かい合う。


「私、フリージアさんの期待に応えたいわ」

「うん、だからいつかフリージアさんを追い抜いて……」

「「優勝しよう!」」


 決意を新たにして、同じ想いを抱いた2人は笑いあった。

 皆はそんな2人を温かく見守っている。


「けれどまずは、今年の魔術コンテストをちゃんと終わらせないとね」

「今年の? まだ何かすることがあるの?」

「あなたと友達になるのよ」

「あっ」


 ソフィアも含めて、セラフィナ以外全員が忘れていた。

 2人があまりにも楽しそうにしていた為、既に友達になったような気でいたのだ。


「まずは私があなたと友達になりたい理由ね」

「うん、コンテストが終わったら教えてくれるって言ってたけど……」

「もうどうでもいいと思うの」

「えっ!?」

「だって私達、既に結構仲がいいと思わない? 昨日まで抱いていた感情なんて、それに比べればちっぽけな理由よ」

「うん……うん?」


 最初に抱いた理由は、ソフィアが自分と同い年で、魔術研究者で、姫だからである。

 しかしそれではあまりにも打算的であった為、昨日一晩、口説き文句を考えたのだ。

 しかし結局ピンとくるものが思いつかなかったので、勢いで誤魔化すことにした。


『いい理由が思いつかなかったから、なかったことにしたな?』

(そ、そんなことないわよ……)

『あんまり後先考えないで、勢いで誤魔化そうとするのは、セラフィナの悪癖だぞ?』

(うぐっ……)


 モトキの言葉がセラフィナに突き刺さる。

 実際、頻繁に返り討ちに遭っているのだ。

 しかし今はこれで押し通すしかない。


「私が9位で、ソフィアは8位……。今回は私が負けちゃったけど、あなたにとって強敵と書いて友と呼べる関係になれたかしら?」

「うん、なれたよ。だけどね……」


 ソフィアは両手を組んでモジモジとしている。

 俯いた顔は、若干赤らんでいた。


「敵じゃなくても友達って呼べる関係になりたいの。……駄目?」

(よっしゃぁあああああ!)

『おめでとう、セラフィナ』


 セラフィナは心の中で両手を挙げて勝鬨を上げる。

 モトキは、セラフィナがコンテストで入賞した際に使おうと思っていたクラッカーを鳴らした。

 セラフィナが意気消沈していた為、使い所を失っていたのだ。


「もちろん構わないわ。私達は友達よ、ソフィア」

「うん、よろしくね、セラフィナ」


 2人は笑顔で握手をする。

 キテラ達はそれを茶化すように拍手を送った。

 2人は少し恥ずかしそうにするが、満更でもなさそうだ。


「もう、やめてよ」

「あ、それじゃあ……」


 ソフィアは、両手でセラフィナの頬に触れると、目を瞑り顔を近づける。


「え?」

『ちょっ! まさか――』


 ソフィアは、お互いの額をコツンと合わせる。

 それから5秒くらいして、セラフィナは解放された。


「今日はもう遅いし、僕等は宿に戻るね。セラフィナ、また明日」


 そう言って、ソフィアはカリストと共に、手を振りながら去っていった。


『キスでもされるかと思った……』

「ある意味キスよりも重いわよ、あれ」

『そうなの!?』


 モトキは、セラフィナの剣として誓いを立てた時の事を思い出す。

 そのときもセラフィナは、ソフィアと同じように、額を合わせてきた?


(サラッと流してたけど、あれってどういう意味だったんだ!? ソフィアちゃんも

どういう意図で――)

(……ま、いいか)


 その日は色々なことがあった為、セラフィナはそれ以上脳を使いたくないと、深く考えることを止め、皆と宿に戻ることとした。


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