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二人で一人の剣姫  作者: 白玖
第四章 魔術の祭典
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46 魔術コンテスト

「さあ、いよいよ始まります! 第294回世界創作魔術コンテスト! 今年はどんな素晴らしい魔術を我々に魅せてくれるのか! それではさっそく最初の選手の登場だ!」


 ついに魔術コンテストが開始した。

 アステロセンターホールの中央ステージで自作の魔術を披露する男。

 それを見た観客の歓声と拍手で、会場は大いに盛り上がる。


 それから行われる術式の解説を、観客は静かに聞いている。


 セラフィナ達は、オルキスの控室の窓から、その様子を観戦していた。


『なんか……極端』

「お、お祭りだけど研究者の集いだからね……」

『あのディスプレイとかどういう仕組みなんだ?』


 中央ステージの参加者が良く見えるように、会場に設置された4枚の巨大ディスプレイにより、大きく映し出されていた。

 しかし前提として、この世界に電気は存在しない。


「きゃん……観客席の魔力がいい感じで――」

『セラフィナ?』


 大雑把に説明すると、魔力を使って映し出されている。

 魔力を多く持った観客から、日頃から少しずつ魔力を分けて貰い、貯め込み、こういったイベントの際に放出しているのだ。

 ちなみに城の地下にも、同じように魔力を貯め込む設備がある。


 セラフィナはそれを説明しなかったが、どうにも口が回らなかった。


『大丈夫か? さっきから視界がブレてるぞ?』

「し、心臓がおかしい……。まるで病気になったときみたいに――いいえ、それ以上に心臓がバクバクいっているわ。心臓が爆発しちゃいそう……」


 人前に出て何かをする経験のないセラフィナは、とてつもなく緊張していた。

 とてもこれから発表をできる精神状態ではない。


「セラフィナ、こっち向いて」

「え?」


 ソフィアはセラフィナの額に手の平を当てて、術式を起動させる。


「ニュートラルマインド」


 ソフィアの魔術によって、セラフィナは体をヒンヤリしたものが通るのを感じる。

 するとさっきまで壊れそうなほど暴れていた心臓は、少しばかり落ち着きを取り戻した。


「今のは……精神安定の魔術?」

「そう、体内の血流を平常に近づけることで、緊張を和らげることが出来るの。調子はどう?」

「ええ、さっきよりだいぶ楽になったわ。ありがとう」

「よかった。ボクもすぐ緊張しちゃうから、この魔術が手放せないの。使ってもまだドキドキしてるけどね」


 セラフィナは、ここまで緊張したのは人生で2度目である。

 1度目は、先ほどハゲに挑もうとした直前の事だ。

 そしてその時はどうやって緊張を和らげたかを思い出した。


「……一緒にいるから。こんなに緊張している私じゃ頼りないと思うけど、私が助手として傍にいることを忘れないで。私も忘れないから」


 モトキのように、絶対の安心を与えることなど出来ない。

 それでも、傍にいることで少しでも緊張を和らげたいと思ったのだ。


「……うん、一緒に頑張ろうね」

「ええ」


 落ち着きを取り戻したセラフィナは、コンテストの観戦を続ける。

 2人は見たことのない魔術に驚いたり感心したり、時には駄目出ししながら、自分達の出番を待った。


 モトキは、魔術を披露する場面では興味を示していたが、その後の術式の解説は一切理解できなかった為、少々退屈な時間を過ごしている。

それでも、セラフィナとソフィアの楽しそうな声を聴くのは心地よかった。


 そしてコンテストが後半に差し掛かった頃に、ついにソフィアの出番が回ってきたのだ。


                    ・

                    ・

                    ・


「さあさあ、続きましては、弱冠9歳で今回の最年少参加者の1人! 巷で話題の赤の国の姫! ソフィア選手の登場だ!」


 手を振りながらステージに上がるソフィア。

 それに続いて、助手のセラフィナがステージに上がる。

 歓声の声に交じり、戸惑いの声が聞こえる。


 最年少であることと、赤の国の姫という情報。

 そしてディスプレイに映し出される金色の瞳は、良くも悪くも注目を集めるのだ。


 しかし、魔術に対する2人の集中力は凄まじく、そんなことは意に返さない。


 ステージの上には、ソフィアが事前にスタッフに用意して貰った、泥水の入った巨大な水槽が用意されている。

 ソフィアはその中に右腕を突っ込むと、術式を起動させた。


「パーフェクトアクアフィルター!」


 水槽の中の泥水が、見る見ると透明な水へと変わっていく。

 それは船の中で使った、理論純水を作り出す魔術である。


 透明になった水槽の中に、セラフィナが木剣を投げ込むと、あっと言う間に溶けてしまった。

 既存の魔術を昇華し、まったく別の効果の魔術を作り出したことが大いに反響を呼んだ。

 終わった頃には、最初のように戸惑いの声を漏らす者はおらず、割れんばかりの拍手が送られた。


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                    ・

                    ・


 ソフィアの発表が終わり、数人の説明を挟んだ後、セラフィナの出番が回ってきた。


「続きましては先ほどのソフィア選手と同じく最年少! おっと、ここで緊急速報だ! なんとこの選手は白の国の姫という情報が入って来たぞ! それではセラフィナ選手の登場だ!」


 セラフィナとソフィアは、先ほどと立ち位置を入れ書いてステージに上がる。

 ディスプレイには、ソフィアの時と同様に、セラフィナの金色の瞳が映し出された。


 まさかの2人目の姫。

 そして金色の瞳に、会場は再びざわついている。


 ステージに用意されているのは、金属の鎧。

 ソフィアは、キテラに教わった通り、注射器でセラフィナから血を抜き取る。

 それを鎧に賭けると、ソフィアは術式を起動させた。


「ブラッドフレア!」


 鎧に掛かった力噴き出る、高温の炎が、金属の鎧を溶かしていく。

 それだけではただの高威力の火属性魔術だったか、ソフィアのアクアボールを当てても消えなかったことと、その後の解説で判明した、圧倒的な消費魔力の少なさが、観客を大いに驚かせた。


 そして最後にはソフィア同様、割れんばかりの拍手で締めくくられた。


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                    ・


「き、緊張したぁ……」

「う、うん……。ニュートラルマインドの効果を受けても、こんなに緊張するなんて……」

「けど私達、上手に出来たわよね?」

「うん」


 結果はまだ出ていないが、2人は既に満足感を感じていた。


「姫様方、そろそろオルキスの出番の様ですよ」


 一般参加者の発表が終わり、前回の優秀成績者の出番が回ってきた。

 それは今までの参加者と比べ、明らか何高レベルな魔術ばかりで、2人は感動の連続であった。


「続きましては、前大会6位。船酔いのオルキス選手の登場です!」

『何その二つ名!?』


 有名な選手には二つ名が付けられていた。

 オルキスは毎年、船酔いを克服する為の魔術で参加していた為、このように呼ばれるようになったのだ。


「バランスボード!」


 オルキスは巨大な水槽の上に小舟を浮かせ、その上に仁王立ちする。

 しかし小舟は揺れている、オルキスは地面から垂直に立ち続けて、微動だにしなかった。


「あれは足元に置いてある石が、揺れに対応して変形することで、揺れを相殺する魔術よ」

『オルさんって凄かったんだな』

「私の師匠にして、白の国最高の魔術研究者よ? 凄くない要素がないわ」

「おーっと! オルキス選手が嘔吐したぞ!」


 オルキスは揺れを相殺した上で船酔いした。

 これも毎年の事である。


「あそこまでやっても船酔いするんだね……」

「克服出来ないから、毎年同じ方向性の魔術で参加しているのよ……」


 少々見っとも無い姿を晒したが、それでも魔術自体の完成度は非常に高かった。

 昨年6位の実力は伊達ではないのだ。


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                    ・


「あれ? そういえば薄紫さんは?」

「そういえば、まだ出てないね。ひょとして参加してないの?」

「そんなはずは……」


 コンテストももう終わるというのに、ここまで薄紫の女性は現れていないのだ。

 ソフィアを救出した際に、大量の魔力を消耗してしまった為、出場を辞退してしまったのではないかと心配する。

 そしてコンテストはクライマックスを迎えた。


「さあ最後はこの人! 初参加は僅か10歳で3位という前人未到の記録から始まり、その後12年で8度の優勝という、驚異の戦績を誇る、天才魔術研究者! フリージア選手だー!」

「どーもぉ」


 派手な演出の中を、ゆったりとした声と動きで、手を振りながら出てきた1人の女性。

 その女性はセラフィナ達が見覚えのある、薄紫色の髪をしていた。


「薄紫さん!?」

「あの人がフリージア選手!?」

『嘘っ!?』


 セラフィナ達は驚愕した。

 優れた魔術研究者である気はしていたが、それでも稀代の天才魔術研究者であるフリージアであるとは思ってもみなかった。

 彼女のふんわりとした雰囲気が、セラフィナ達のイメージの中のフリージアとは、あまりにも懸け離れていたからだ。


「それでは行きまーすぅ、アイスショットぉ」


 フリージアは腕を伸ばすと、指先から氷の塊を作り出し、打ち出した。

 しかしそれは的を大きく外れて、観客席の方に飛んで行ってしまう。


「あぁ、すみません、大丈夫ですかぁ」


 フリージアは慌てて観客に謝罪する。

 会場は静まり返る。

 フリージアの事を注視しながら、誰一人として声を発さない。


『……え? あれで終わり? あんな小さな氷を、あらぬ方向に飛ばしただけで?』


 モトキは拍子抜けしていた。

 今回のコンテストで1番地味な魔術な上に、前回の優勝者や、稀代の天才という肩書に期待していたので余計にそう思う。

 セラフィナも放心したように、声を出せないでいる


「「「うぉおおおおお!!!」」」


 会場が一気に歓声に溢れる。

 人々の声と拍手の振動で会場が揺れるほどだ。

 セラフィナ達も同様に歓声を送り、涙まで流していた。

 状況が理解できないのはモトキだけだ。


『え? 今の何が凄かったの? ……あっ、フリさんが風属性なのに、水属性の魔術を使たからか?」

「あれは……氷属性よ!」

「うん、間違いないよ。まさか再現される日が来るなんて……」

『氷属性? 魔術の属性は、地水火風だけじゃ――』

「皆さんご覧になられたでしょうか! 我々は伝説を目の当たりにしたのです! 魔人にのみ許された魔法の力! 氷属性が魔術により再現されたのだー!」

「「「うぉおおおおお!!!」」」


 会場は今までで――それこそ過去293回の中でも最高の盛り上がりだ。


「凄い……感動で死んじゃうかも……」

(うわぁ……1人素でいる俺の場違い感が酷い……)


 魔法、それは魔人が使う特別な力。

 それを人間が真似ようと、術式により再現したのが魔術である。


 魔法には、魔術と同様に地水火風の4つの属性がある。

 しかしそれに加えて、1つの属性に別の属性の要素を加えた、氷爆金木の派生属性が存在するのだ。

 風か水属性に、もう一方の要素を加えたものが氷属性である。


 人類が魔人の魔法を模倣しようと300年余り。

 今まで誰も成しえなかった派生属性の一端を、フリージアは再現してみせたのだ。


 そして興奮冷めやらぬまま、第294回世界創作魔術コンテストは幕を閉じた。


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