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二人で一人の剣姫  作者: 白玖
第三章 強い剣を目指して
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33 地竜の脅威

 地竜は3人に向かって、大口を開けながら真っ直ぐに突っ込んできた。

 モトキはセラフィナと入れ替わり、シグネと共に前に出る。


「ロックウォール!」


 エドブルガが足の術式を起動させ、地竜の前に岩の壁を出現させた。

 しかし地竜はそれを意に返さず、岩の壁を突き破り、そのまま進み続ける。

 誘拐犯のリーダーが、何やら高笑いしながら叫んでいるが、地竜に集中しているモトキ達の耳には届いていなかった。


 エドブルガはセラフィナとシグネの足元に岩の壁を突き出し、地竜に向かって高く打ち上げる。

 2人はそれぞれ地竜の両目に剣を突き立てた。

 貫くことは出来なかったが、激痛によりその歩みを止め、悶える。


 2人は落下しながら、地竜に向かって幾度となく剣をぶつけることで減速して、地面に着地した。

 しかし目と違って、その体は丈夫な鱗に覆われている為、モトキの木剣は勿論、シグネの鉄剣でも微かに傷をつける程度だ。

 だがそれは想定通りの事で、その目的はエドブルガから意識を外すことだった。

 地竜が2人に気を取られている隙に、エドブルガは右腕の術式に大量の魔力を流し込む。

 その右腕を高く掲げると、空中に無数の巨大な石の槍が出現した。


「ガイアファランクス!」


 エドブルガの下から高速で打ち出された石の槍は、地竜の鱗を貫き、その肉体を貫いた。

 血が流れ、地竜に明確なダメージが与えられていく。


「利いてるぞ! そのまま押し切れ、エドブルガ!」

「っ! いや、そこから離れろ!」


 地竜は口を大きく開くと、その口内から閃光、ブレスが放たれる。

 ブレスは石の槍を破壊し、エドブルガを襲う。

 ブレスが着弾すると、周辺が爆発し、爆風が3人を襲う。


「くっ、エドブルガー!」

「大丈夫! 何とか避けた!」


 モトキの呼びかけにより、エドブルガはブレスが着弾する直前に、自分の足元に岩の壁を突き出し回避したのだ。


『今のがドラゴンブレスってやつね。本来なら城を吹き飛ばす威力があるはずだから、予想通りまだ弱いみたい』

「それでもあんなのくらったら一溜りもない!」


 ブレスが着弾した地面は大きく抉れている。

 だが1番の問題は、その攻撃力ではなかった。


「見ろ! 地竜の傷が塞がっていくぞ!」

「回復の魔術!?」

『いえ、あれは魔術じゃないわ。強大な生命力からなる治癒よ』


 石の槍に貫かれた箇所は、既に塞がってしまった。

 流れた血こそ戻らないが、地竜の戦闘力は微塵も低下していない。


「一気に倒さないと駄目ってことか」

「そういうことよ。エドブルガ! 災害には災害をぶつけてやりなさい!」

「あの魔術は僕には制御できないよ!」


 セラフィナは表に出ると、エドブルガに指示を飛ばす。

 エドブルガには切り札というべき強力な魔術があった。

 しかしそれはセラフィナのお手製で、まだ十分に作りこまれていない未完成品なのだ。

 その為コントロールが非常に難しく、正確に当てることが出来なかった。


「一歩間違えば姉さん達を巻き込むし、魔力も殆ど使い切るから後が続かない!」

「けれど地竜を倒せる可能性があるとしたら、もうあれしかないわ!」

「だったらやっちまえ! 失敗したら俺がフォローしてやる!」

「……分かった! でも失敗したらごめん!」


 具体的にどうフォローするかは不明だが、もはや活路はそこにしかなかった。

 エドブルガは覚悟を決めると、両手を突き出し握り合わせる。

 すると両手を囲うように、円形の術式が現れる。


「あれは発動までに時間がかかるわ! その間は動くことが出来ない!」

「それまでエドブルガを守ればいいんだな!」

「そういうこと!」


 モトキとシグネは地竜に向かって駆けた。

 襲い掛かる地竜の爪や足を掻い潜り、指や足首などの関節を重点的に攻める。

 決して傷を付けることは出来ないが、それでも多少の痛みはあり、地竜は2人に釘付けとなった。


「よし、このまま――」

「ベストラ! 向こうの奴から殺れ!」


 誘拐犯のリーダーは、セラフィナ達では地竜を倒せないと確信していた為、今まで具体的な指示を出さなかった。

 しかしセラフィナ達があまりにも心折れず、勝利を信じながら戦うので万が一を考えてしまったのだ。


 地竜は2人を無視して、エドブルガに向かって真っ直ぐ駆け出す。

 2人はすぐに追いかけたが、体格差がありすぎてまるで追い付けない。


「エドブルガ!」

「くそっ! 追い付け――シグネ! 私を投げて!」


 セラフィナが強引に表に出ると、自分をエドブルガの下に投げるよう指示する。

 シグネは、セラフィナ1人では地竜の足止めは無理だと思ったが、何か考えがあるのだろうとセラフィナの腕を掴み回転する。

 十分に遠視力で加速すると、セラフィナを矢のように打ち出した。

 判断が早かったこともあり、セラフィナは地竜を追い抜く。


『よし、あとは俺が――セラフィナ?』


 モトキは着地するために表に出ようとするが、セラフィナはそれを拒否した。

 案の定、セラフィナは着地を失敗し、エドブルガの前に体を擦りながら落下することとなる。


「姉さん!?」

『セラフィナ! 何をやって――』

「何があっても術式の発動を止めないで! ……ごめんね」


 セラフィナは何とか起き上がるが、地竜はもう目の前で、とても迎撃できる状態ではなかった。

 地竜はエドブルガを喰らおうと、口を大きく開けて、頭から突っ込んできた。

 セラフィナはエドブルガを押しのけ、地竜との間に割り込む。


「あぁあああああ!!!」


 地竜の牙がセラフィナの右腕に食い込む。

 皮膚を裂き、筋肉を裂き、骨を裂く嫌な音が聞こえる。


『セラフィナ!』

「姉さん!」

「セラフィナ!」


 セラフィナの判断は早く、的確だった。

 地竜がエドブルガに向かって駆けだした瞬間、エドブルガを守る方法はこれしかないと判断したのだ。

 そしてモトキには、この決断を即決することは出来ないであろうと。


「姉さ――!」

「術式を止めるな!」


 セラフィナは駆け寄ろうとするエドブルガを制止した。

 その声は激痛により震え、目から涙があふれてくる。

 だが守る為に、勝利する為に、セラフィナの覚悟は微塵も揺らがない。


 セラフィナは自分の体を捩り、地竜に噛み付かれた右腕を切断した。

 痛みは既に上限に達していたので今更だ。


 切断面からは大量の血が溢れ、地竜に降りかかる。

 そして切断された右腕は、喉を通り、地竜の体内に入っていった。


「地竜! まだ誰にも見せたことがない、魔術コンテスト用の私のオリジナルを披露してあげるわ!」


 魔術とは本来攻撃に用いるものである。

 だがそれは長い年月の間に、魔術は様々な分野に枝分かれしていった。

 カラコンのようにお遊びの物や、身を守ったり、生活を豊かにしたり。


 しかし子供が魔術に興味を持つのは、大抵が攻撃用の魔術。

 それも大威力で派手なものが好まれる傾向にある。


(魔力の少ない私でも使える大威力の魔術! 血を燃料として対象を燃やす諸刃の剣!)


 それはセラフィナも例外ではなく、セラフィナは今でも子供なのだ。


「滾れ我が血! 術式強制発動! キースペル、セラフィナ3式バージョン4.2!」


 地竜に付着した血が、体内に侵入した血が、そして血まみれの右腕が、流星のように赤く輝く。


「ブラッドフレア!」


 地竜の顔と口内から大量の炎が噴き出す。

 セラフィナの右腕が地竜の内臓を焼く。

 本来は献血程度の血での発動を想定していた魔術のため、右腕を丸々代償にしたブラッドフレアの威力は、セラフィナにも想像できなかった。

 地竜は炎を消そうと悶えるが、炎の勢いは増すばかりである。


「無駄よ! 体内の私の血が全て燃焼しきるまで、この炎は決して消えない! 止める為の魔力が足りないからね! エドブルガ!」

「うぁあああああ!」


 エドブルガはあらゆる感情を吐き出すように咆哮する。

 絡ませた両手を解き、地竜に向かって掲げる。


 それはセラフィナが初めて作ったオリジナルの魔術。

 ロマンと破壊力を追求し、白の国ではエドブルガ以外に発動すらできない欠陥品。

 そして発動した際に、城に甚大な被害をもたらしたことから、災害と呼ばれることとなったエドブルガの切り札。


「ディザスターグランド!」


 それは無属性の魔術。

 魔術と呼ぶにはあまりにも杜撰な魔力の暴力。

 荒れ狂う魔力の結晶が地竜の横に放たれる。


「外した!」

「その時は俺の出番だ!」


 シグネは地竜を踏み台にし、エドブルガの魔術に接近する。

 近付くと吹き飛ばされそうになるほどの魔力に臆することなく、その魔術に剣をぶつけた。


「魔術返し!」


 それはシグネが編み出した白羽返しから着想を得た派生技だった。

 魔術の中心を剣で捉えて、剣ごと蹴り飛ばすことで魔術の軌道を変える神業。

 一歩間違えれば巻き込まれて死ぬどころか、そもそもそんなことが可能なのかという疑問を一切考慮してない荒業。


 軌道を変えたディザスターグランドは、地竜の脇腹を抉り、胴体を真っ二つにした!

 地竜の上半身は地面に落下し、絶叫し、悶え苦しむ。


「よっしゃあ!」

「まだよ! 地竜はまだ生きている! このままじゃまた回復するわ!」


「その通りだ! ベストラ! ブレスでそいつらを薙ぎ払え!」


 リーダーの指示により、地竜は口を大きく開きブレスを履く態勢に入る。

 その先にいるのはセラフィナとエドブルガ。

 しかしセラフィナは右腕を失った激痛で、エドブルガは魔術の反動で動けなかった。

 シグネは2人を助けようとするが、地竜を挟んで反対側にいる為、間に合わない。


(せめて姉さんだけでも!)

「待て!」


 エドブルガが岩の壁をだし、セラフィナを上空に逃がそうとすると、表に出てきたモトキによって制止される。

 モトキはエドブルガの剣を握り、地面に体を安定させる。


「打ち出すならなるべく高く! 地竜の頭上に飛ばしてくれ!」

「わ、分かった!」


 エドブルガは残った魔力の全てを振り絞り、モトキを上空高く打ち出す。


『ごめんなさい。右腕……モトキの利き腕、無くなっちゃった……』

「セラフィナ、君の――いや、お前の愛、確かに見せてもらった! 今度は俺の番だ!」


 モトキは空中で逆さの態勢になり剣を構える。

 空中に浮いた状態の為、鉄の剣でも、片腕でも構えることが出来た。


「セラフィナ、戦いにおける強さに必要なものって何だか分かるか?」

『え? 力……筋肉? あとは足の速さとか』

「どっちも正解。だけど正解はまだまだ一杯あるんだ。その1つはセラフィナにも」


 セラフィナには思いつかなかった。

 虚弱な体質なセラフィナに戦いに向いている要素など、なけなしの魔力くらいのもので、セラフィナが曲がりなりにも戦えるのはモトキの技術によるものが大半だ。


「セラフィナの体はバランス感覚に優れている。俺が無茶な体勢で飛んだり回ったりしても、1度も転んだことはなかった。それは右腕がなくても健在だ」

「私ついさっき転んだのだけど……」

「それは運動の経験不足が原因だ。慣れればあの体制からでも着地で来たさ。だからセラフィナの体は戦いに一切向かないなんてことはない」


 上へ行こうとする慣性と、下へ行こうとする重力。

 それがちょうど釣り合いが取れた時、モトキは虚空を踏み込んだ。

 それはイサオキとエアが高所で危機に陥った時の為に習得した技術である。


「だからこれは俺だけじゃない。俺達2人が繰り出す一撃だ。ここまで頑張ったんだ、最後まで一緒に行こう、セラフィナ」

『……うん!』


 虚空を蹴り、重力の落下と合わせて加速する。

 右目から白い――銀色の稲光が走る。

 利き手と逆の左腕なのに、右腕で剣を握っているような一体感。

 それはセラフィナとモトキ、2人で1人の腕だった。


「「はぁあああああ!」」


一閃。

その一撃は、すれ違い様に地竜の首を両断した。


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