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二人で一人の剣姫  作者: 白玖
第三章 強い剣を目指して
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25 刺客

 その日もリシストラタは不在で、セラフィナとエドブルガは2人で稽古をしていた。

 昨夜のこともあり、モトキはより一層、稽古に熱を入れている。

 それに応じるかのように、エドブルガも激しく打ち返す。

 そしてモトキを返り討ちにした。


「まだまだ! もう一本だ!」

「受けて立つよ、姉さん!」


 エドブルガが魔人と戦っても死なないよう強くする。

 その為には稽古相手のモトキも強くなる必要がある。

 強くする為に強くなることを繰り返すのに夢中になった2人は、休むことを忘れて稽古を続行しようとした。


「姫様、弟王子様、少し休憩にしてはいかがですか?」


 ずっと稽古を続けている2人を見かねたキテラは、お茶と軽食を持って休憩を勧めた。

 セラフィナも少し根を詰めすぎだと思っていた為、強制的に入れ替わりキテラに同意する。

 するとセラフィナの体からドッと汗が噴き出す。


(これ、明日筋肉痛が酷い奴じゃない?)

『ごめん。ちょっと張り切りすぎたかも』


 脳のリミッターが外れやすいモトキは、集中しすぎると意図していないタイミングでも、あっさりと限界を引き出してしまうことがあるのだ。

 今回は寸でのところで休憩になった為、地獄の筋肉痛は回避できた。


「姉さん、今日は一段と張り切っているね。どうしたの?」

「あなたの姉として、いつまでも情けない姿ばかり見せられないのよ。油断していたら追い抜かれちゃうわよ」

「油断なんてしないよ。せっかく姉さんと稽古が出来るのに、気を抜いていたら勿体ないからね」


 セラフィナは精一杯強がるが、エドブルガは真正面から受け止めてきた。

 実際はモトキが稽古をしている為、セラフィナは少々罪悪感に駆られる。


(だからと言って私がやろうとは思わないけどね。運動は嫌)


 2人がリラックスしながら談笑をしていると、突如エドブルガが何かを感じ取った。


「……姉さん、何か嫌な気配を感じがしない?」

「え?」


 モトキが表に出て感覚を研ぎ澄ませる。

 生前のモトキは、イサオキとエアを狙撃から守る為に、2キロ以上先の敵意を感知できるよう鍛えていた。

 セラフィナの体では感覚が違う為、範囲は狭くなってしまっているが、それでも人並み以上には敏感だ。


「……あっちの方だね。数は1人。明らかに敵意を向けてる」

「やっぱり……」

「侵入者でしょうか」

『ひょっとして刺客かも……』


 エドブルガは、自分の想い過ごしである可能性を考えていたが、モトキが同意したことでそれは確信に変わった。

 エドブルガは、術式を起動させた右腕を伸ばし、気配のする方向に魔術を放つ。


「ストーンショット!」


 伸ばした右腕の何もない空間に、5センチほどの石礫が出現すると、気配のする方に一直線に飛んで行った。

 石礫が目標に命中する直前、そこから人影が飛び出し、セラフィナ達に向かって駆け出す。

 キテラがセラフィナ達の前に守るように立つと、魔術を発動させ、右腕を払うように振う。


「ファイヤーウォール」


 すると手を向けた先の地面から炎が壁のように吹き出し、飛び出してきた不審者の行く手を阻んだ。


「ロックウォール」


 続いてエドブルガが地面を思いっきり踏み込むと、地面から何本もの岩が突き出し、不審者の左右と背後を囲む。


「これが魔術か。セラフィナのファイヤーショットとは比べ物にならないな」

『私は魔術師じゃなくて研究者だから! 2人に刻んである術式は私のお手製なのだからね!』

(剣オンリーならまだしも、魔術を使われたら一生勝てそうにないな)


 術式を刻む者が同じでも、魔力の量によっては使う魔術の規模が段違いだった。

 キテラは炎の壁を消すと、先頭に立ち不審者に近付き包囲する。

 不審者は魔術に驚いたのか、地面にへたり込んでいた。


「い、いきなり何をするんですか!? このカリンに何の恨みが!?」

「城内にいる謎の不審者とか、普通に排除の対象だよ。姉さんが命を狙われたばかりだし」

「腰に提げている剣を抜いていたら、包囲ではなく焼き殺していたところです」


 不審者の正体は少女だった。

 歳はセラフィナと同じか少し上程度であろう。

 金髪の長めの髪を、左側頭部に纏めて垂らしている。

 そして腰には剣を提げていた。


「あなたは何者ですか? 目的は? 事と次第によっては命の保証は出来ませんよ?」


 姿は見えないが、いつの間にか庭の周りには、多数の気配が集まっていた。

 騒ぎを聞きつけた兵や隠密が、いつでも飛び出せるように待機しているのだ。

 もはや少女に逃げ道はない。


「……この子、どっかで見たことがある気がする」

「え? 姉さんの知り合い?」

『この世界でモトキが知っている城以外の人って相当限られるわよね?』

「誰だったっけなぁ……」


 モトキが城以外の人と会った機会など、転生先を探していた時と、羊に会いに行った時だけである。

 セラフィナが覚えていないとなると、前者か、後者でたまたま見た相手が印象に残ったかのどちらかだ。

 そうでなければモトキの勘違いであろう。


「……金色の瞳、つまりは王族! つまりはお姫様! あなたがシグネの妹様ですね!」

「はい、シグネの妹です。君はシグネの知り合い?」


 エドブルガは、周囲を取り囲んでいる兵士の1人を呼びつけ、シグネを連れてくるように耳打ちした。

 現在、シグネは騎士候補生の訓練で、場外に出ているのだ。


「はい! 私は騎士訓練生のカリン! もうすぐ生まれると噂の王子または王女様の護衛騎士になる為に参りました!」

「お呼びじゃありません。あなたのような不埒者はお呼びじゃありません」

「そんな念入りに否定しなくても!」


 立ち上がりポーズを決めて名乗りを上げる騎士候補生の少女、カリン。

 キテラはそんな彼女を道端に四散した生ゴミでも見るかのように、冷たい眼で見下している。


「えーと、カリンだっけ? 護衛騎士は、騎士団の中でも実力・人格共に優れた者が厳しい試験を突破して、王がその中から選んだ1人のみが就くことが出来る役職なんだ。だから騎士候補生にはその資格は――」

「普通はその通りですね! しかしシグネは、自分の妹を倒すことが出来れば、私にその試験を受けさせると約束したのです!」

「そうなの!?」

『どうしてそんな約束したの、シグネ!』


 俄かには信じられなかったが、カリンのあまりに真っ直ぐな瞳と、自信満々な顔と声は、とても嘘をついているようには見えなかった。


「兄さんなら何かの間違いで言うかも……。身分もバラしてるし……」

「兄王子様、余計なことを……」

「そういう訳で、お姫様! いざ尋常に勝負です!」


 カリンは腰の剣を抜き勝負を挑む。

それと同時に様子を見ていた兵と隠密が飛び出した。


「みんなストップ! 大丈夫だから! 大人しくしてて!」


 モトキが制止すると、兵と隠密は後退して再び姿を隠した。

 カリンが抜いた剣は、立派な鞘に収まっていたが刀身は木剣であり、とりあえず危険はないと判断したのだ。


『え? ひょっとして勝負を受けるの?』

「本当にシグネがそんなことを言ったとしたら無下には出来ないよ。それにちょっと確認したいこともあるんだ。エドブルガ、石の壁引っ込められる?」

「う、うん」


 エドブルガが足で地面をトントンと二回踏むと、カリンを取り囲んでいた岩が地面に沈んでいった。


『モトキに考えがあるなら私は止めないけど、気を付けてね』

「ありがと、ここは(わたし)に任せて、2人はちょっと下がっていて」


 2人は納得がいかながったが、モトキに言われた通り後ろに下がった。

 2人とももしもの時の為にいつでも動けるように待機している。


「勝負を受けてくれるのですね! ありがとうございますです!」

「試験についてはシグネに確認してからだけどね。でも勝負は受けるよ。君って結構強いよね?」

「騎士訓練生の中では実質1番です!」

「シグネより!? 予想以上に凄いな!」

「……シグネは候補生レベルではないのでノーカウントです」


 先ほどまで自信満々だったカリンの顔が一気に陰る。

 どうやらシグネにかなり手酷い目にあったようだ。


(でもシグネが規格外なだけで、この子が強いことに変わりはない。俺の剣が騎士候補生に通用するか確かめる!)


 モトキは強くなっている実感はあったが、エドブルガに負け続けている為、どの程度力が付いたか測りかねていた。

 カリンがシグネを除いた騎士訓練生の中で1番ならば、良い物差しになると考えたのだ。


「エドブルガ、開始の合図を頼む」

「分かった。2人とも準備はいいね? それでは開始!」


 2人は開始の合図と同時に相手に向かって行った。

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