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二人で一人の剣姫  作者: 白玖
第二章 白の国の姫
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19 全力と限界

「こいつで間違いないな?」

「はい、間違いありません」

「これで大金が貰えるなんて、チョロい話ですね」


 煙が晴れると3人の男がセラフィナ達を囲うように現れた。

 見るからにガラの悪そうな連中で、腰には剣を下げている。


「よし、誰かが来る前に連れて行くぞ」

「「おう!」」


 男Aの指示を受け、男Bが子供1人入りそうな大きさの箱を開け、男Cがセラフィナに近づき手を伸ばす。

 男Cがセラフィナに触れようと態勢を低くすると、セラフィナが突然起き上がり男Cの顎を蹴り上げる。

 男Cは衝撃で脳が揺れ、脳震盪を起こし、その場に倒れこむ。


「は?」

「え? 何――」


 突然のことに男達は動揺し、その隙にセラフィナは素早く男Bの持つ箱の陰に隠れるよう移動し、完全に見失った状態から背後に回り、首の両側に挟み込むよう手刀を叩き込む。

 男Bは脊髄にショックを受け、男Cと同様にその場に倒れこんだ。


 セラフィナは男Bが倒れる力を利用して腰から剣を抜き取ると、体を回転させ、遠心力を利用し、男Aに向かって剣を振るう。

 それで男Aを倒す予定だったが、男Aは既に剣を抜いており、セラフィナの一撃は弾かれてしまった。


「くそっ、ここで決めたかったのに……」

『モトキ!』


 セラフィナにこんな流れるような戦闘行為はもちろん出来ない。

 煙には睡眠導入効果があったようだが、セラフィナには神の加護があったため効果がなかった。

 煙を吸って、シグネとエドブルガが倒れるのを見て、セラフィナと入れ替わったモトキが倒れるフリをする。

 大の男を3人同時に相手にすることは不可能と判断したモトキは、チャンスを窺っていたのだ。


「ちっ! やりやがったな、このガキが!」

「あんたは何者だ! 目的は!」

「あ? 言う訳がねぇだろうが!」


 男Aはモトキに向かって剣を振り上げる。

 モトキの奪った剣は、当然木剣よりも遥かに重く、セラフィナの体では保持し続ける出来ない為、その場に捨てて男Aの剣を避ける。

 続けて男Aは剣を振り回すが、モトキはそれを全て難なく避けていく。


(剣に関しての知識はないけど、こいつが剣の素人なのは分かる。無駄に大きくて雑な動き。先の行動を読めばセラフィナの体でも十分に避けられる)

『ねえモトキ、大丈夫なの?』

「ああ、ここは俺に任せておいて。でも念のため入れ替わったらいつでもファイヤーショットを打てるように準備だけしておいて」

『わ、分かったわ』


 セラフィナは突然のことに動揺が隠せなかった。

 対してモトキは、今まで散々イサオキとエアの為にと護身術の鍛錬を積んできた為、冷静だ。


 モトキは地面を強く踏み込み、男Aの剣を掻い潜り、懐に潜り込むと顎に向かって殴りかかる。

 しかし男Aは後ろに下がることでそれを難なく避けてしまった。

 モトキも仕切りなおす為に、後方へ飛んで距離をとる。


(流石に真正面からまともに行ったら通用しないか。さてどうする……)


 セラフィナの身体能力で大人の男を倒すには頭を狙うしかない。

 しかし態勢を低くしていた先ほどの2人と違い、男Aは真っ直ぐ立ち上がっている。

 セラフィナが小柄なこともあり、2人の高さの差は致命的なものだった。


「何なんだこのガキは! 話と違うじゃねぇか! そもそも何で寝てねぇんだ!」

『話?』

「どうやら誰かに依頼されてきたみたいだな。誰に頼されたかなんて、どうせ教えてくれないんだろ? だったらもうお前に用はないよ。さっさと終わらせる」

「ガキが! 舐めるんじゃねぇ!」


 モトキは強気な態度で男Aに食って掛かる。

 しかし実際は致命打を与える方法がなく攻めあぐねていた。


(持久戦は出来ない。セラフィナの体力、俺が表に出ていられる時間、気絶させた2人の仲間。本当にさっさと終わらせないと詰むな)


 更にシグネとエドブルガを人質にでも取られたら、手出しが出来なくなってしまう。

 その為モトキは、2人を背後に守るよう立ち回らなくてはいけなかった


 幸いなことに男Aはモトキの挑発的な物言いに激昂しており、モトキに意識が集中している。

 モトキの狙い通りではあるが、それは諸刃の剣でもあった。


 集中力が増したことにより、男Aの剣速が少しずつ上がっていき、モトキはより早く反応しなければならなくなった。

 隙を見ては接近して攻撃を仕掛けてはいるが、来ると分かっていて、しかも子供以下の腕力ではまるで効いてはいない。


(意識外からの攻撃じゃなきゃ通じない。どうする? どうやればいい? 俺はこういう時の対策を散々考えてきたはずだ!)

「ちょこまかと、鬱陶しいんだよ!」


 男Aの剣がついにモトキの動きを捉えた。

 横薙ぎの一撃がモトキの顔に迫る。

 それは回避不可能な一撃だ。


(負ける、セラフィナの体じゃこれが限界なのか? ……違う、俺は全力だけど限界を引き出せてない)


 人間の体は100パーセントの力を出すと、自身の筋肉を壊してしまうため、脳にリミッターが設けられている。

 これは本来意識的に外すことは難しいものだが、モトキは訓練によりある程度外れやすくなっているのだ。

 その為、このような危機的状況ならまず間違いなく外れるはずなのだが、今はその手応えがなかった。


 理由は分かっている。

 今モトキが戦っているのはセラフィナを、そしてシグネとエドブルガを守るためだ。

 そこにイサオキとエアはいない。


(こんな小さな子供たちのピンチに限界を引き出せないなんて。本当に俺はどうしようもない奴だな。知ってたよ……)


 モトキは自分自身を軽蔑し、どうしようもない状況に諦めた。

 モトキが死を覚悟すると自分が死んだ時の記憶が走馬灯として蘇る。

 魔王に殺された時のことを。


(そういえばあの時も首を切られたっけ……)

『モトキ!』


 モトキが諦め、考えが止まりそうになったその時、セラフィナの声が響いた。

 不意に掛けられた声がモトキの脳に強い刺激を与え、刻み付けられる。

 そして思い出す、今の自分が誰なのかを。


(何をやってる、ミタカ モトキ! 今の俺はセラフィナだ! だったらセラフィナの大切なものを守る為に――狂ってみせろ!)


 セラフィナの全身の筋肉が唸りを上げる。

 モトキは迫る刃に噛みつくことで、男Aの剣を受け止めた。


「なっ! そんな馬鹿な!」


 完全に勝利を確信していた男Aは、信じられないものを見るようにモトキを見ている。

 モトキは男Aの動揺を見逃さず、その状態から右手で男Aの剣を持っている右腕を固定し、左手を男Aの顔に伸ばし、セラフィナと交代する。


『眼だ! 眼を狙え! 撃ちまくれ!』

「ファイヤーショット! ショット! ショット!」

「がぁあああああ!」


 男Aの顔に無数の火球が注ぎ込まれる。

 ファイヤーショット自体の威力は大したものではないが、それでも目に当たれば痛いし、何より視界を封じられた。


『適当なタイミングで手を放して半歩下がれ! その後、あの箱に向かって撃ったら、即交代だ!』「ショット!」


 セラフィナが男Aの右側にある、男Bの持っていた箱に向かってファイヤーショットを打つと、その逆方向に回り込む。

 撃ち抜かれた箱は大きな音を立てて破壊され、男Aは反射的にそちらに振り向き、モトキに背後を晒した。


(意識外、隙だらけだ!)


 モトキは壁を蹴り、男Aよりも高く飛び上がり、首に全力で膝を叩き込む。

 全身の力を限界まで引き出した一撃に筋肉繊維がミシミシと悲鳴を上げているが、それでも構わず降りぬいた。

 男Aは後方からの不意の一撃にバランスを崩し、前のめり倒れそうになる。

 その隙にモトキは男Aの頭を掴み体重を掛け、顔面を地面に叩きつけた。


「はぁあああああ!」

「ぐがあっ!」


 叩きつけられた男Aは一瞬体を跳ね上がらせるが、すぐに力なく地面に伏した。

男Aが気絶していることを確認すると、モトキは手を放して辺りを警戒する。


『や、やった!』

「残心を怠るな。こいつ等に依頼した奴。他にも仲間がいる可能性が――っ!」


 突如モトキを激しい頭痛が襲う。

 それは長時間表に出て、魂が疲弊した時に起こるものだ。


『大丈夫!?』

「くっ、まだ10分経ってないのに……ごめんセラフィナ……」


 そう言うとモトキはセラフィナの中に戻っていき、そのまま眠ってしまう。


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