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二人で一人の剣姫  作者: 白玖
第二章 白の国の姫
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16 魔力と魔術

 シグネに呼び出され、セラフィナはキテラと共に城の裏庭に来ていた。


「それで、相談したいことって何なの?」

「ああ、エドブルガのことだ」


 食卓での話の流れから予想は付いていた。

 そしてこれから話す内容がセラフィナにとって良い内容でないことも。


「私にエドブルガと一緒に、リシス叔母様の稽古を受けろなんて言わないわよね?」

「エドブルガと一緒に、リシストラタの稽古を受けてくれ」

「言わないでよ!」


 案の定であった。

 セラフィナは、話を聞いただけで涙目である。


『そんなに嫌なのか?』

「いやー……」

「そんなこと言わずに頼むよ。お前も見ただろ? エドブルガの寂しそうな顔を。姉として放っておけるのか?」

「兄として構ってあげなさいよ! 元々シグネが原因なんだから!」


 もっともな話である。

 しかしエドブルガは、国の将来の為に早急に強くなりたく、それは延いては王位を継ぐエドブルガの為だ。


「大丈夫だ! リシストラタの稽古は丁寧だから、セラフィナでも出来る内容で教えてくれる! それに昨日も言ったけど剣の修練は王族の義務だ!」

「秘術を継承する王や、戦うことが仕事の騎士と違って、魔術研究者になる私には使い所がない技能じゃない! それにちょっと健康になったからって、私が貧弱なのは変わらないのだから時間の無駄よ!」

「今、筋トレやってる時間を剣の稽古に変えるだけなんだから変わらないだろ!?」

「散歩の方がよっぽど有意義よ!」


 2人の相談はどんどん熱を上げていき、次第に言い争いになっていった。

 お互いの主張は一向に平行線で、このままでは本格的に喧嘩に発展しかねない状況だ。

 そんな状況だというのにモトキはそれを見て安心した気持ちになっている。


(セラフィナも子供らしく喧嘩するんだな。妙に大人びてるから年相応な姿見て、何か安心する)


 兄妹なら時には言い争い喧嘩をすることもある。

 喧嘩するほど仲がいいという言葉もあり、弟と妹のことが命より大事なモトキですら経験があることだ。

 だからモトキは口を出さずに静観するつもりであった。

 しかし喧嘩の内容が悪かったのだ。


『あくまで俺個人の意見だけどエドブルガが可哀そうだ』

「うっ……」


 モトキに心の急所を突かれて、セラフィナは言葉を失ってしまう。

 セラフィナにとって、そしてシグネにとっても、エドブルガは大事な弟である。

 その弟を押し付けあって喧嘩するなど酷い話だ。


「ごめんなさい、熱くなりすぎたわ。……分かった、引き受けるわ」

「え? どうした急に」

「エドブルガの為もあるけど、それは延いては国の為よ。だったらこの国の姫として無視するわけにはいかないわ」

「そうか。引き受けてくれて助かった、ありがとう」

「けど私の体じゃ本当に居るだけで、一緒に訓練なんて無理だから、シグネも時間が空いたら構ってあげないと駄目よ」

「ああ、流石に自分勝手にやりすぎたって反省してる。あとで俺もリシストラタの訓練に参加するよ」


 話がまとまり、2人も仲直りしたようでモトキもニッコリだ。

 時には喧嘩をするのもいいが、やはり家族は仲良しなのが1番である。


「けどその前に、昨日のあの技もう1回見せてくれよ。覚えるから」

「いや、だから……」


 セラフィナは言い淀む。

 昨日は何故あんなことが出来たか本当に分からない為、分からないと答えた。

 しかし今は、アレはモトキがやったことだと分かっている。


『俺は別に教えてもいいけど。元はと言えば俺のせいだし』

(私があんな技を使えるってこと自体が問題なのだけど……まあ1回くらいなら誤魔化せるか)


 そう思いセラフィナはシグネの頼みを聞き、モトキと交代する。


「この技は白羽返しと言う名前で、前に書庫でたまたま読んだ本に書いてあって、何となく気に入ったから覚えたものなんだ」


 そういう設定だ。

 その実態はイサオキとエアが悪者に襲われた際に守るために、モトキが我流で編み出した護身術の1つだった。


 モトキはキテラに頼み、シグネに向かって木剣を打ち込んでもらい、それを横から動きを指示して覚えさせた。

 喋り方がセラフィナとだいぶ違うが、一人称さえ間違わなければ大丈夫だろうと、とりあえずモトキ任せで話している。


「はぁっ!」

「よっ、てりゃ! よし、覚えた!」

「早くない!?」


 シグネは10分もしないうちにモトキの技を覚えた。

 ただ形を真似ただけでなく、完全に自分のものにしているのだ。


『シグネの運動センスは歴代王族の中でも随一らしいわ。「5年後には追い抜かれているかもしれません」ってリシス叔母様も言っていたし』


 ちなみにエドブルガは素直で実直であるが、物覚えは普通である。

 更にシグネより1歳年下となれば、一緒に訓練をしたくなくなるのも仕方のないものであろう。


(リシスさんって、この国の副騎士団長なんだよね? とんでもない話だ――っ!)

『どうかしたの?』


 突如モトキの頭に刺すような痛みが走る。

 痛みに鈍感なモトキでも痛いと感じるほど強い痛み。

 それに続き体がどんどん重くなっていき、身動きが取れなくなっていく。


『これってひょっとして……。モトキ、入れ替わるわよ』

(ま、待って! 今入れ替わると凄く痛い――)


 モトキの意思を無視して強引に入れ替わる。

 しかし先ほどまでモトキが感じていた痛みや体の重さは、セラフィナには全く感じられなかった。


(ふーん、なるほどね)

「サンキュー、セラフィナ。この後エドブルガにも教えてくるよ」

「教えるのはいいけど、私から教わったのは秘密にしておいてね。他のことも出来るって思われたら困るから」

「そうか? まあそう言うなら黙ってるけどよ」

「お願いね。今日は疲れたから稽古はまた明日ね」


 そう言ってセラフィナは自室へ戻っていった。


                    ・

                    ・

                    ・


「モトキが感じたっていう痛みは、長時間表に出続けたことでモトキの魂に負荷がかかったからじゃないかと推測するわ」

『あー、それっぽいかも』


 それは無茶な転生をした代償とでもいうべきものである。

 現在、モトキの魂はボロボロで辛うじて1つに繋がっている状態だ。

 そんな状態で普通に活動できる方がおかしいのだ。

 

「今後魂の修復が進めば表に出ていられる時間が延びるのか。休憩を挟みつつだとどれ位活動できるのか。激しい運動や脳を酷使する場合の影響はあるのか。調べることは沢山あるけど、何にしても現状は私の代わりに剣の稽古に出てもらう案は使えないわね」

『え? それって俺にやらせるつもりだったの?』

「あんな技を使えるくらいなのだから、体を動かすのは嫌いじゃないでしょ? 私達はもう一心同体なのだから適材適所で行きましょう」

『確かに嫌いじゃないけど……体よく利用されてる気がする』


 実際にそうする気満々である。

 しかし一方的に利用するのではなく、モトキの要望も出来る限り叶えるつもりである。

 セラフィナの願いを聞くことで、モトキも自分の願いを言いやすくなるのではという狙いもあった。


「それはそれとして、今は羊をモフる計画を進めましょう」

『眼の色を変える魔法――じゃなくて魔術を作るんだったね。俺の世界には魔術は空想上の存在だから力になれないな』

「そうだったわね。なら少し魔術について説明しておきましょうか。まず私達の世界の人間は、体内に魔力と呼ぶエネルギーを生成する器官があるの。魔は酸素や血液のように、生命活動を維持するために体内で循環させる必要があるものよ」


 これは呼吸と同じで、普段は無意識で行っているが、やろうと思えば意識的に行うことできる。

 モトキがセラフィナの体を動かしているとき、今までになかったものが体の中を駆け巡っているような感覚を覚え、それから意識的に行っている。

 しかしこの世界の人のように生まれながら行っていたわけではないので、無意識に行うことはできなかった。


「魔力は本来、生命活動を維持する分しか生成されないんだけど、稀にそれ以上の魔力を生成することが出来る人がいるの。私もその1人よ」


 セラフィナは左腕を伸ばし意識を集中させると、赤くぼんやりと光るパターンが浮かび上がった。


「これは予め体に書いてある術式に魔力を流し込んだ状態よ。この状態からキースペルと言う一定の言葉を唱えることで、特別な力――魔術を使うことが出来るの」

『特別って例えばどんな?』

「手から火を出したり水を出したりね。人には地水火風の4つ属性の何れかがあって、その属性と同じ、または属性のない魔術が使えるの。私だったら火ね」


 それはまるでアニメや漫画やゲームの様な話だった。

 地球では空想の産物である魔術がこの世界では普通に存在している。

 モトキは改めて別の世界に来たのだと実感した。


『この世界は不思議な世界だね』

「あなたの方がよっぽど不思議だと思うわよ」


 セラフィナに自分の魂を宿したり、神の加護で毒を無効化したりと、確かに自分の存在は手から火や水を出すよりよっぽど摩訶不思議であるとモトキは納得した。


「それで魔術には物の色を実際とは違うように見せるってものがあるから、それを応用できないかと思っているのよ」

『それをそのまま使っちゃ駄目なのか?』

「一定の空間に色を被せるって魔法だから動いたらバレるわ。そもそも魔力が足りないのよ。私って辛うじて魔力の生成量が生命活動を上回っている程度だから」


 魔術を使うと、それに応じて魔力が消費される。

 セラフィナの場合は魔力消費量が極小の魔術1回が限度であり、それを超えると倒れてしまうのだ。


「とりあえず1度見せてあげるわ。日に1度しか使えないからよく見ていてね」

『はーい』


 セラフィナは左腕を窓の外へと伸ばし、人差し指と中指を突き立てる。

 再び左腕に魔力を流し込むと、腕に刻まれたパターンが赤くぼんやりと光り魔術を発動する準備が整った。


「これでキースペルを唱えると指先から火の玉が飛び出すからね。ファイヤーショット!」


 そう唱えるとセラフィナの指先から魔術による火球が飛び出し、空に霧散する。

 火の玉は握り拳程度の大きさで、飛距離は20メートル程度と、セラフィナとしては非常に不満な結果であったが、モトキは初めて見た魔術を称えて拍手を送った。


「今のが魔術か。凄いねセラフィナ」

「全然凄くないわよ。本当だったらもっと大きくて遠くまで……あれ?」


 セラフィナは普段の自分と違う違和感を覚えた。

 いつもはファイヤーショットを使うと疲労感に襲われるはずなのだが今はそれがない。

 それどころかもっと打てそうな気までした。


「ファイヤーショット! ショット! ショット!」


 試しにと3回連続で魔術を使ったが問題なく発動した。

 そしてまだまだ打てそうな気がするのだ。


『1回しか使えないんじゃなかったのか?』

「そうよ、そのはずなのよ! これって私の魔力が上がっているってこと!? ひょっとしてモトキが目覚めた影響!? それとも神の加護のおかげ!?」


 セラフィナは歓喜に震えた。

 魔術が大好きなのに魔力不足により碌に魔術が使えないことに、今まで散々歯痒い思いをしてきたのだ。

 そして今、夢にまで魔力がセラフィナの体の中に宿っていた。


「だったら……ヒートスキン」


 これなら他の魔術も使えると、今度は右腕に魔力を流す。

 セラフィナの体が一瞬ぼんやりと光るがすぐに消え、体中の力が抜けてベッドに倒れこんだ。

 魔力の枯渇である。


『セラフィナ! 大丈夫か!?』

「な、なんで……」


 どうやら魔力がセラフィナの体の中に宿ったのは勘違いだったようだ。

 まだ日も高い時間だが、セラフィナはそのまま眠ってしまった。


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