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二人で一人の剣姫  作者: 白玖
第二章 白の国の姫
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14 姫の恩返し

 どこまでも広がる真っ白な空間。

 そこにポツンとある1つの箱にセラフィナとモトキは腰掛けていた。


「ミタカ モトキ……。ファミリーネームが先に来るなんて変わっているのね。それで今更なんだけど、あなたが私の命を救ってくれたのであっているわよね?」

「まあ……一応はそうなるかな」


 モトキはこれまでの経緯を掻い摘んで説明した。

 魔王によって魂を傷つけられたこと、魂の管理所のこと、神の加護のこと、セラフィナが毒殺されようとしたこと、そして自分の魂をセラフィナに譲渡したことを。


「正直それで神の加護がセラフィナのものになるか分からなかったし、そもそもこの神の加護が毒物に対しても有効かどうかは賭けだったけど上手くいったようでよかった。魂が消滅しないでセラフィナの中に残ってたのは想定外だったけど」


 モトキの魂は魔王に傷つけられたとき以上にボロボロになっているが、セラフィナの体の中で少しずつ治癒していき、最近意識を取り戻したのだ。

 それからはセラフィナが見ているものをテレビに映る番組のようにモトキも見ていた。

 そしてセラフィナが木剣で叩かれそうになったとき、生前覚えた護身術を反射的に使ってしまったのだ。


「意識を取り戻したなら何で言わないのよ。あなたは私の命の恩人なのよ? お礼くらい言わせてほしいわ」

「別に恩を売りたかったわけじゃないから。俺はそもそも生まれ変わることに否定的だし、俺が要らないものを捨てたら、たまたま君にとって有用なものだった程度の話だから気にしなくていいよ」

「あなたがどう思って私を助けたとかは最悪どうでもいいのよ。重要なのは私があなたに助けられて感謝しているって事実なの」

「感謝の押し売りはよくない……」

「私はこの国の姫よ? 王族を助けといてただで済むと思っているの?」

「えー……」


 あらゆる行動には責任が伴うものである。

 それが善行であろうが悪行であろうが、何を求めていようが求めなかろうが関係ないのだ。

 そしてモトキが行った行動に対する責任は、決して小さなものではなかった。


「私はあなたに対して最高に感謝をしているわ。なのに言葉だけのお礼で終わらせては王族の名折れよ。本来なら勲章なり爵位なりを授与するべきなのだけど、モトキには肉体がないからそれは無理。だから何か私にして欲しいことはない? 私に出来ることなら何でもするわよ」


 モトキの意思を無視して話がどんどん進んでいく。

 だが困ったことに何でもすると言われても、特にして欲しいことはない。

 しかしモトキ以外にはあることを思い出した。


「じゃあ長生きして。それが俺に対する最大のお礼になるから」


 それはバンから託された願いだ。

 一度は放棄したとはいえ、再びそれを成せる機会が巡ってきたのなら、なるべく果たしたかった。


「分かったわ。次は?」

「次!? いや、俺は魂を修復するために長い時間が必要って話だから、決して適当に答えたわけじゃ――」

「そう、だけど足りないわ。だから次」


 セラフィナ的には、命を助けられたお礼には全く足りなかったのだ。

 これで釣り合いが取れると思ったモトキもモトキではあるが。


「いや……もう俺のことは夢の存在だと思って忘れてくれていいから。その方が絶対セラちゃんの為だから。ね?」

「どういうこと?」

「ほら、自分の中に異性が住んでるんだよ?お風呂とかトイレとかでももれなく俺がいるんだよ?嫌じゃん」

「あなたにとって羞恥心って命よりも大事なもの?」

「そうじゃないけど……5年後10年後、年頃になれば絶対辛くなるから、今のうちに手を打っておいた方がいいよ」


 セラフィナはそれを聞き少し考える。

 そして何かを閃くと、モトキの服をひん剥きだした。


「え!? ちょっ! やめっ! 何すんの!」

「いいから大人しくしていて。体が割れたら大変でしょ」

「もう既に大変なことに――ぎゃー!」


 セラフィナは魂も虚弱で貧弱だったが、それでも崩壊寸前のモトキの魂よりはよっぽど力強かった。

 モトキはセラフィナのされるがままに素っ裸にされると全身を凝視された。


「こんな幼い子供に……」

「よし、これで私が今後何を見られてもお相子よ。他に何か問題がある?」

「君のメンタルの逞しさが問題だよ……」


 勝ち誇った顔をしているセラフィナに対し、モトキは涙目だ。

 自分のことを蔑ろにしがちなモトキにだって、最低限の羞恥心くらい残っている。


「本当に俺のことは放置してもらって構わないから……」

「あなた、随分と欲がないのね。二度目の人生にも関心が薄かったみたいだし。あなたの世界の人はみんなそんな感じなの?」

「いや、俺は特異な例だと思う。俺の欲しいものはイサオキとエアに通ずるものだけだから、2人のいない第二の人生に関心が持てないんだ」

「そう……あなたにとって大事な人達だったのね」

「うん、俺の命よりも大事な弟と妹だよ」


 モトキはとても悲しそうな笑顔で笑っている。

 セラフィナは漸くモトキという人間のことを少し理解できた。


「それがあなたの願いなら、確かに私にはどうしようもないわね。勝手なことばかり言ってごめんなさい」

「構わないよ。勝手なのはお互い様だしね」


 しばし無言の時が流れる。

 今のモトキは心の底から何も求めておらず、セラフィナにもそれは十分に伝わってきた。


「……私って結構自分勝手な性格なの。だから先に謝っておくわ、ごめんなさい。これからモトキの気持ちを無視するわ」

「え?」


 モトキの気持ちは分かった。

 しかしモトキの悲しそうな笑顔を見て、セラフィナは何もせずにはいられなかったのだ。

 夢の中で意味があるかは分からないが、セラフィナは大きく息を吸い、箱の上で仁王立ちし、モトキに向かって高らかに告げた。


「いい! 私の中に住まわせてあげるのだから、その見返りとして私にお礼をさせなさい! これは白の国の王女としての命令よ!」

「こんな傲慢なお礼初めてだよ! そもそも俺、君の国の国民じゃ――」

「いいから私に叶えられそうな願いを捻り出しなさい! 脱がすわよ!」


 その物言いはもはや暴君のそれだった。

 また脱がされたら溜まったものではないと、モトキは必死になって頭を回す。


 イサオキとエアがいないこの世界に、生前のモトキが求めるものが何もないのは考えるまでもないことだ。

 ならば死後のモトキならどうだろうか?

 そう、転生先を探すモチベーションを上げるために臨んだことが1つあったのだ。


「そうだ、こう白くモコモコで、馬車を引いてる動物って分かる?」

「羊のこと?」

「え、あれ羊でいいの?」


 モトキが城の前で見た動物は、確かに羊に似ていたが明らかに別の動物だ。

 後に調べて分かったことだが、翻訳の加護はある程度はモトキの知識から見た目が近いものの名称が自動的に割り当てられる傾向があった。

 例としてセラフィナは見た目こそ地球人と似ているが、厳密には他の世界の別の生物である。

 しかしそれでも人間という種族名で翻訳されているのだ。


「まあいいや。俺はあの羊のフカフカの体毛を思いっきりモフりたい。それが俺の願いだ」

「なるほど、分かったわ。白の国の姫セラフィナ・ホワイトボードの名に懸けて、必ずあなたに羊をモフらせてあげる!」


 セラフィナはさっそく羊をモフる為の計画を立て始める。

 ようやくセラフィナを納得させる願いが決まり、モトキはホッと肩を落とした。


「でもそれだけじゃまだまだ足りないから、羊をモフるまでに次の願いを考えておいてね」

「一体どれだけ願えば満足してくれるんだよ……」


 願い事には納得したが、セラフィナの感謝の心ははまだまだ満たされてはいなかったのだ。

 モトキはセラフィナに転生したことをほんの少しだが後悔しだした。


(とんでもない子に転生しちゃったな。まあ普通じゃないことは最初から分かってたけど)


 狂っているという自覚のあるモトキからしても普通ではないと言わしめるセラフィナ。

 そんなセラフィナだからこそモトキは惹かれ、死ぬことを惜しんだのだ。


 モトキはついにセラフィナに抗うことを諦め、苦笑いを浮かべなら立ち上がった。

 第二の生を何もしないで過ごすことは不可能だと悟ったのだ。


「俺の願いなんだし、俺に出来ることがあれば手伝うよ。待ってるだけじゃ暇だしね」

「そう? なら遠慮なく知恵を貸してもらうわ、モトキ」

「あんまり頭いい方じゃないからお手柔らかに、セラフィナ」


 セラフィナとモトキ。

 本来出会うはずのない2人はこうして出会い、交わり、始まった。

 二人で一人の姫の物語が。


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