ちょっと! あいつ失礼じゃないですかぁ!?
私は鏡の前に立ち、指輪を前に掲げる。
指輪に魔力を注ぎ、そして祈る。
前と同じく頭のなかに術式が流れてくる。
「さぁ、お願いね指輪ちゃん!」
指輪は私の手を離れ、宙に浮いた。
またあの青い光が渦を巻き始める。
「なんか、前の時と違うなぁ……」
「大丈夫か、マスター」
「う~ん、頭に浮かんだとおりにしてるだけだから、なんとも……」
心配になりながらも、しばらく見守ることにした。
その数秒後、指輪が強く光る。
そして。
ビームが発射された。
「ええ~!?」
「おいおいおいおい!!」
バニラとチョコもびっくりの展開に。
お風呂場の時とぜんぜん違うんだけど……。
鏡の方はと言うと、なぜかバリアのようなものでビームを受け止めている。
両者互角の戦い。
「まさかこっちの世界でこんな光景を見れるなんてな」
さすがのチョコも引きつった笑いを浮かべている。
でもこのままじゃ鏡のむこうに行けないよね。
「がんばれ~、指輪ちゃ~ん!」
「お、お姉ちゃん……」
バニラに変な顔をされたけど、とりあえず応援してみた。
「あ、ちょっと強くなったぞ」
「ほんとだ」
「よし、もっと応援しましょう!」
なぜか応援が有効らしいのでみんなで声援を送ることにした。
「がんばってくださ~い!」
バニラの応援でまた少し強くなった。
「この戦いが終わったら結婚しようって言ってるぞ!」
チョコの応援……のようなものでかなり強くなった。
でも嘘ついちゃダメだよ……。
「バニラが」
チョコがひとこと付け加える。
あ、なんかビームが弱くなった。
「ちょっと! あいつ失礼じゃないですかぁ!?」
「あいつって……」
バニラがほっぺたをふくらませてすねている。
なんかかわいい。
ふくらんだほっぺを指でプニプニする。
何回か続けていると、バニラの表情が二へ~っと崩れる。
かわいいなぁ。
しかしこのままでは鏡のバリアが破れない。
同じように思ったのかチョコがまた叫ぶ。
「お~い! もし勝てたら一緒にお風呂に入ろうって言ってるぞ~!」
ビームは特に変化なし。
「……マスターが」
チョコがぼそっとそう付け加える。
すると指輪が強烈に輝き、今までで一番の光が鏡に飛んでいく。
それはバリアを突き破り、鏡まで到達した。
しばらくすると、辺り一面が青い光につつまれる。
その後、光の玉が降り注いだ。
鏡を見ると、そこには違う世界が映し出されていた。
つまり、むこうの世界に繋がったみたいだ。
「どうやら鏡の魔法は解けたみたいだな」
チョコも確認したし、間違いなさそうだ。
バニラは指輪を捕まえて私のところに戻ってきた。
「あれでやる気出すなんて、エッチな指輪ちゃんですね~」
「本当に意思を持ってるみたいだよね」
私はバニラから指輪を受け取り、指にはめた。
そしてふたりでチョコの隣まで行く。
「じゃあ行こうか、鏡のむこうへ」
「ああ」
「はいっ!」
この先はどこにつながってるんだろう。
チョコたちの言うように、あの世界と同じ場所なのか。
それともまた違う世界なのか。
少々の不安を抱きつつも、やっぱりどこか懐かしさを感じる。
それを信じ、私はふたりの先頭に立って鏡の門をくぐった。
その先に広がっていたのは、自然豊かな世界。
あの時、夢の中でお姉ちゃんと再会した場所に似ている。
目の前にはお花で仕切られた道があり、その先は泉のように見える。
後ろを振り返れば、そこは世界の端っこみたいに崖になっている。
慎重に下を覗き込むと、ただ青空と白い雲のような空間が続いていた。
空を見上げても同じ。
なんだか距離感がつかめない。
天島に行った時と似ているような感覚だった。
「これ落ちたらどうなるんでしょうね~?」
いつの間にか隣りにいたバニラが、恐る恐る下を覗いて言った。
危ない、今のでちょっとビクッとして落ちかけたよ……。
私たちふたりに対して、チョコは全く怯えた様子はなかった。
「落ちたら上から降ってくるんじゃないか? ハハハ!」
「え~……」
でも本当にそうなりそうな気がしないこともないんだよね。
「チョコは怖くないんですか?」
「まあ、落ちても変身して飛んで戻ってくればいいしな」
チョコの答えにバニラは「それもそうですね」と言って立ち上がった。
「あれ、落ちたらまずいの私だけか」
空飛ぶ魔法ってあるのかな。
ふたりが人の姿じゃ飛べないってことはなさそうかも。
「マスターなら転移魔法とかで帰ってこれるんじゃないか?」
「お姉ちゃんならなんとかしそうですよね」
あれ?
私ってそんな感じになっちゃったの?
なんかどんどん普通の乙女から遠ざかっていく~!




