だって~、怖いんだもん♪
モカさんがお姉ちゃんをたたき起こした後。
私たちは再びバルコニーに出ていた。
ここから直接天島に移動するらしいけど、一体どういうことだろう。
そう疑問に思っていると、お姉ちゃんが空の方を指さす。
その先にはさっきここで見ていた空に浮かぶ島があった。
「あそこに見えるのが、かなでにあげる島よ」
やっぱりそうなんだ。
「どうやってあそこまでいくの?」
転移魔法が使えるモカさんはいいとして。
私みたいな普通の女の子があんなところまで行けるのかな。
普通の女の子がね。
「ふふふ、見ててよ~」
お姉ちゃんはなんだか楽しそうに言うと、一枚のカードと水色の宝石のついたペンダントを取り出した。
そのカードをペンダントに当てると、カードが光って消えた。
そしてペンダントが宙に浮いて光をまとう。
宝石部分から光線のようなものが天島にむかって伸びていく。
光線がものすごい速さで天島に到達すると、今いるバルコニーから天島の間に橋が架かった。
虹色のきれいなきれいな橋だ。
「うわ~、なにこれ……」
目の前で起きた、あまりにもファンタジーな出来事。
最近は非現実的なことをたくさん体験したけど、これにはまた驚かされる。
「どう? すごいでしょ」
お姉ちゃんが自慢げに胸を張っている。
サプライズ成功! といった表情。
確かにすごい。
「じゃあ行きましょうか」
お姉ちゃんはそう言って、先に虹の橋を渡っていく。
本当に歩けてるよ……。
どうなってるんだろうと、手で触ってみる。
何かに触れているような感触はないのに、その先には進まない。
これを歩くのか……。
怖い。
私が一歩目をためらっていると、ハノちゃんが先に前にでた。
数歩進んでこちらに振り返る。
「大丈夫ですよ、かなでさん。慣れてしまえば怖くないです」
ハノちゃんはどんどん前に進んでいく。
初めてではないってことかな。
私は恐る恐る足をのせてみる。
おお……。
確かに乗っている。
一歩踏み出してみる。
おお……。
確かに歩ける。
少しずつ前に進んでいくと、下は島から出て海の上へ。
それでも慣れてくると普段と変わらないくらいの速さで歩けるようになった。
もし落ちたら海の中だよ。
でも後ろにモカさんがついてくれてるのでなんとなく安心できる。
ああ、風に乗っている気分だよ~。
空を歩く、この開放感、気持ちいい~。
ぜひみんなにも体験してもらいたいなぁ。
余裕が出てきた私は、両手を広げてクルクル回ってみる。
「かなでさん、そんなことしてたら危ないですよ」
「えへ、ちょっと楽しくて」
ハノちゃんが振り返りながら注意をしてくれる。
しかしすっかり安心しきっていた私はクルクル回り続けていた。
「まぁ、落ちたりはしないんだけどね、魔法かかってるし」
そんなお姉ちゃんの言葉が聞こえたその時だった。
私の足がもつれてバランスを崩す。
でも大丈夫、きっとこの辺に見えない壁が……。
「な~い!」
ああ、落ちていく。
みんな今までありがとう。
本当に幸せだったよ……。
「めがみ様、かなでさんが落ちました……」
「え、なんで!? 魔法で落ちないはずなのに!」
ああ、風が気持ちいい……。
なんで私こんなに落ち着いているんだろう。
逆さまに見える島を見ながら、もうすぐ海に落ちるなぁとのんきなことを考えている。
衝撃に備え、目をつむる。
何の意味があるのかわからないけど、こうしちゃうもんだね。
しかしその衝撃はいつまで経ってもこない。
恐る恐る目を開けると、モカさんの顔が近くにあった。
モカさんにお姫様抱っこされている。
助けてくれたんだ……。
「モカさ~ん……、怖かったよ~」
「よかったわ、間に合って」
モカさんは私をおろすと、頭をなでてくれた。
お姉ちゃんとハノちゃんもかけよってくる。
「かなでさん! 大丈夫ですか!?」
「まさか魔法無効化能力が効くなんて……」
「モカさんの転移魔法がなかったら大変なところでした……」
そっか、転移魔法で助けてくれたんだ。
「ありがと~モカさん~」
「いいのよ、でもその能力は制御できるようにしておきたいわね」
勝手に魔法無効化とか確かに危険すぎる。
魔法前提の世界でこんなことが起こってたら、いつか他の人まで巻き込みかねない。
そんなの絶対に嫌だ。
「モカさん、今度制御方法教えてくれませんか?」
「うん、でも今は危ないから手をつないで渡りましょうか」
「はい! ありがとうございます」
そう言って私はモカさんの腕に抱きつく。
「かなでさんはこんなに甘えん坊だったかしら?」
「だって~、怖いんだもん♪」
「なら仕方ないわね」
モカさんの柔らかな笑顔と柔らかなふくらみに癒される。
それを見てハノちゃんが「む~」とふくれる。
あら、やきもちかな、かわいい。
それからお姉ちゃんがぷんぷん手を振りながら叫ぶ。
「いちゃいちゃしすぎー!!」




