かなで、来てしまったのね……
さてさて、体を隠すように急いで服を着た私。
なんか、このフリフリを着ていると不思議と力があふれてくる。
……ような気がする。
「かなでさん、よく似合ってますよ」
「え、そうかな……」
「よければその服あげます」
え、別にいらない……。
まぁ、でも、ハノちゃんが一回着てるしね。
もらっちゃおうかな。
「よし、じゃあお姉ちゃんのところに行きましょうか!」
「はいっ」
私とハノちゃんは、さっと部屋を出ようとする。
その時、後ろでモカさんがつぶやいた。
「やっぱり、かなでさんは履かない人……」
「はっ!?」
改めて準備完了した私たちはハノちゃんの家を出る。
夜なので空はもう暗くなってしまっているけど、
辺りは建物からの不思議な色をした明かりで照らされている。
目の前に広がる自然たっぷりの景色。
少しむこうには海が見える。
ここは私の住む場所と同じく島みたいだ。
そして広い。
家と家の間隔も、道も、かなり広くとられている。
のんびりと暮らせそうな、そんな場所に見える。
まぁ私たちの住むところも島だからまだ広い方だけど。
私がふらふらと周りを歩いていたら、モカさんに呼び止められる。
「かなでさん、そっちじゃないわ、こっちよ」
「あ、は~い」
そうだった。
お姉ちゃんのところに行くんだった。
「よければ明日、この辺りを案内しましょうか?」
「え、いいの?」
「はい、お姉ちゃんのためですから」
ハノちゃん、かわいいなぁ。
出会ったばかりなのにいろいろあったおかげで
かなり打ち解けてるよね。
こうしてデートの約束まで。
フフフ。
「ところで、お姉ちゃんの家ってどの辺なんですか」
「あっちの海の方よ」
モカさんの指さした方を見ると、
少し高くなったところに一軒だけ建物があった。
あんなところに住んでいるのか。
近い。
あのお姉ちゃんが近くにいるんだ。
いまさらになって少し緊張している。
私は気持ちを落ち着けながら、
ハノちゃんとモカさんについていった。
5分ほど歩いてお姉ちゃんの住む建物の前までたどり着く。
ここがお姉ちゃんの家か……。
ハノちゃんの家と同じく、かなり大きい。
私たちの住むシェアハウスくらいの大きさがある。
海沿いでこの大きさの家。
なかなかに高そうである。
お姉ちゃん、私を置いていい生活してるじゃない?
「じゃあ、入りましょうか」
そう言って玄関の扉を開くモカさん。
「勝手に入っていいんですか? いくらお姉ちゃんの家でも……」
「いいのよ」
いいんだ……。
そういえばお風呂入り合ったりしてるくらいだから、
こういうところはゆるいのかな。
平和って素敵。
モカさんの先導でお姉ちゃんの家を進む。
玄関からリビングに入り、そこから階段を上る。
廊下の奥までいくと『めがみ』と書かれた
ネームプレートのある部屋があった。
モカさんは扉をノックすると、返事も待たずに入り口を開けた。
……遠慮しないなぁ。
お姉ちゃん相手だから?
それともこういう文化なのかな。
中に入ると部屋の明かりはついていなくて、
月の光に照らされていた。
誰もいない……?
「多分、バルコニーね」
そう言って部屋を突っ切り、バルコニーへ。
大きく立派なバルコニーの一番奥。
月明かりに照らされる女性の姿が。
海を眺めているのか、後ろ姿しか見えないけど、
間違いなくお姉ちゃんだった。
私のお姉ちゃんは、こんなにもきれいな人だったのか。
あまりに神秘的な姿に、声をかけることができなかった。
そんなとき、お姉ちゃんが月に手をかざした。
すると海の方から強い風が吹いた。
「ううっ!」
風が止み、再び顔を上げると、
お姉ちゃんはこちらをむいていた。
「お姉ちゃん……」
「かなで、来てしまったのね……」
「え?」
「これは偶然? それとも必然? なんて残酷な運命……」
お、お姉ちゃん?
「かなでさん、ハノちゃん、帰りましょうか」
「そうですね」
「はい」
私たちはお姉ちゃんに背をむけ、歩き出す。
「まってまって! かなで、モカー!」
せっかくの雰囲気も、感動の再開もすっかり吹き飛んでしまった。
まぁ、お姉ちゃんだしね。
仕方ないか。




