なんで動画にしなかったの、私……
「あの、それよりかなでさん」
「はい?」
モカさんがいきなりシャキッともとに戻る。
まじめな話かな。
「ろ、録音……」
「……」
戻ってなかった。
もじもじとしながら顔をそらし、チラチラこちらを見てくる。
スマートフォンをちょこんと両手で胸の前に構えていて、
その姿はとてもかわいらしい。
「え~っと、なんて言ったらいいですか?」
「『モカお姉ちゃん、だ~いすき♪』でお願いします」
「レベル高いのできましたね!」
それ一番最後にお願いしてきた分じゃないですか!
「い、いきますよ」
「あ、やるんだ……」
言わないでハノちゃん。
恥ずかしさのあまり、手を胸の前でもじもじしながら顔をそらす。
そして視線だけを上目遣い気味にモカさんにむける。
「モカお姉ちゃん、だ~いすき……」
「……」
「……」
言った~、恥ずかしいよ~。
「ぐわ~っ!」
な、何!?
モカさんが突然崩れ落ち、両手を地面についた。
「だ、大丈夫ですか?」
「なんで動画にしなかったの、私……」
そこですか。
泣くほどそこですか。
とりあえず肩を貸してモカさんを立ち上がらせる。
反対側をハノちゃんが支えてくれた。
やさしいなぁ、私のお嫁さんは。
そんなハノちゃんに癒されていたら。
ハノちゃんがモカさんとコソコソ話し始める。
「あのモカさん、今の音声、私にも送ってほしいです」
「あら、お仲間? いいけど、私の名前が入っちゃってるわよ?」
「大丈夫です、あとで編集しますから」
あの~、近くて聞こえてるんですけど……。
「……あなた、そんなことができるの?」
「はい、この前めがみさまにPCをもらったんです」
「ふふふ、あなたとは長い付き合いになりそうね」
「ハノと申します。よろしくお願いします」
「改めまして、モカです。よろしくね」
何盛り上がってるの、この人たち……。
「あの、それよりモカさん」
「え? あ、何かしら」
「お姉ちゃんのいる場所ってわかりますか?」
ちょっと強引に話を戻してみた。
「知ってるわよ」
「私も知ってます」
「え?」
モカさんだけでなく、ハノちゃんも知ってるなんて。
一体どういう存在なんだろう、あの人。
「お姉ちゃんのところまで連れて行ってくれませんか」
「いいわよ、でもその前に」
「?」
「動画を撮らせてください」
「あ、私も……」
話が戻ってしまった。
うぅ、なんで私のなんかをそんなに欲しがるの?
「じゃあ私も二人の動画を撮ります」
「え?」
「ふぇ?」
私だって動画欲しいもんね。
くくく。
ということで、三人で動画を撮り合うことに。
ああ、高性能なムービーカメラが欲しい~。
そういえば、なんでこの二人は
私たちの世界のデバイスを持ってるんだろう。
モカさんは、まぁ分かるけど。
ハノちゃんは、こっちの世界の一般人じゃないのかな。
お姉ちゃんにもらってるみたいだけど。
……まぁいっか。
これが私のいいところ。
細かいことは気にしない。
多分。
私はモカさんに上からのぞき込むような姿勢で、
『よしよし~、かなでちゃんかわいい~、今日はお姉ちゃんと一緒に寝ようね♪』
という言葉を希望。
ハノちゃんには上目遣いでの『私をお嫁さんにしてください……』をお願いした。
ふふふ、永久保存だね。
「これがかなでさんの趣味なのね……」
「覚えておきます……」
これ、お願いする方もかなり恥ずかしいよね。
モカさんがあんなだったからあまり気にしてなかったけど……。
まぁ、それ以上にいいものが手に入りましたので、
良しとしましょうか♪




