て、天使の舞……です
脱衣所で服を脱ぎバスタオルを巻きつける。
みんなもうあがっているだろう。
そう思っていたんだけど。
扉を開けると、いろはちゃんが変なポーズをしていた。
そして目が合って固まる。
「……」
「……」
いろはちゃんの顔がみるみる赤くなっていく。
そしてプルプル震え始める。
さらにいろはちゃんのまわりでなにか光りだす。
「キャー!」
「ひゃ~!」
なんか飛んできたー!!
何、今のー!?
……。
ひとまず、無事に生存し、いろはちゃんを落ち着かせる。
ふたりでお風呂につかりながらさっきのことを聞いてみる。
「あの、さっきのは一体……」
「て、天使の舞……です」
「天使の舞?」
舞ってたの? あれ……。
「あの舞に何かあるの?」
「えっと、最後まで終わらせると……」
「うん」
「体力と魔力が全回復して、体が柔らかくなって、
心がきれいになって、天に昇るような気持ちになれるんです」
「う……ん?」
どこかのゲームのような効果が混ざっている……。
「なんかよくわからないからやってみたい!」
「ふえ!?」
なぜかすごく驚かれる。
「あのかなでさん……、実はですね」
「なになに?」
いろはちゃんが耳元でささやくように天使の舞のやり方を教えてくれる。
顔が近い。
こそばゆい。
すべてを聞き終えた私の顔は、きっと真っ赤になっていると思う。
「これはひとりじゃないと恥ずかしいね」
「ひとりでも恥ずかしいですよ……」
いろはちゃんの顔も真っ赤になっていた。
「いろはちゃんがあまり人とお風呂に入りたがらないのは、これのせいなんだ」
「はい……」
「ここじゃないとダメなの? 自分の部屋とか」
「えっと、魔力が必要で……、ここ以外ではダメでした」
魔力……。
いろはちゃんはやっぱり魔力を扱えるのかな?
お昼も私の体調を回復させてくれたし。
もしかしたらここの維持が自動でできているのも、
いろはちゃんのおかげなのかな?
私も魔法を使えてしまうから、人のことは言えないけど……。
いろはちゃんはいったい……。
「あの、大丈夫ですか? ボーとして」
「えっ、あぁ、うん、大丈夫だよ」
考え事していたら、心配をかけてしまったみたいだ。
赤い顔でのぞき込まれて、かなりドキッとした。
この可愛さの前に細かいことはどうでもよくなってしまう。
なんか流されている気がしないこともないけど……。
「あ、私早く出たほうがいいよね」
「待ってください」
お風呂からあがろうと立ち上がったら、
腕を引っ張られて引き止められる。
「いろはちゃん?」
「あの、せっかく一緒に入ってるんですから、もう少しだけ」
やっほーっ!
いろはちゃんとのお風呂が認められたよ~。
長かったよ……。
「あの……、かなでさん。むこう側の世界へ行くんですか?」
「え?」
いきなり異世界の話を切り出されて驚いてしまう。
やっぱり無関係ではないということなんだね。
「いろはちゃんってどこまで知ってるの?」
「おそらくかなでさんが思ってる以上には知っていると思いますよ」
「そっか」
「それでも全然です。私はお母さんからの情報しか知りません」
「いろはちゃんのお母さんか……」
やっぱりそのあたりの人が情報を持ってるのかな。
お姉ちゃんとも知り合いだもんね。
「行ったらしばらくは帰ってこれないんですか?」
「どうだろう、お姉ちゃんは帰ることはできるって言ってたけど」
「かなでさんのお姉さんですか?」
「うん。この前、夢の中で話したんだ……っておかしいよね」
「いえ、そういう魔法があると聞いたことがありますから」
いろはちゃん、本当に詳しいんだね。
しばらくふたりで月を見上げる。
少したってから、いろはちゃんがこちらに顔をむける。
「私も連れて行ってください……と言っても聞いてはくれませんか?」
「……ごめんね。まずはむこうの様子を確認したいんだ」
安全かわからないところに、いろはちゃんを連れてはいけないからね。
「あのっ、できる限り早く帰ってきてくださいねっ」
「うん、努力するよ」
心配してくれてありがとね、いろはちゃん。
またふたりで月をながめる。
う、そろそろのぼせてきたよ……。
「あの、かなでさん」
「何?」
「やっぱり、一緒に天使の舞、やりますか?」
「ええ~!?」




