かなで~、お楽しみだったようで
夕暮れ時。
楽しい時間も、もうすぐ終わりがくる。
私はいろはちゃんとバニラの三人で観覧車に乗っていた。
「きれいな夕陽です~」
「そうだね」
バニラは窓に張り付くようにして外の景色を眺めている。
むこうの世界でも同じようにこの空は見れるのかな。
「今日は本当に楽しかったですね」
そう言いながら、私の肩にもたれかかってくるいろはちゃん。
それに気付いてバニラも反対側に寄ってくる。
そのままゆっくりと時間が過ぎる。
そして頂上近くまできたところで、いろはちゃんが「あっ」と
何かを思いついたようでスマートフォンを取り出す。
「みんなで記念写真を撮りませんか?」
三人で寄り添いながら、夕陽を背景に写真を撮る。
それを転送してもらい表示をする。
これはいい写真が撮れている。
プリントしてあの寂しい部屋の壁に貼っておこうかな。
しばらく眺めていた写真を閉じた瞬間のことだった。
両側から私の頬にキス。
私は少しの間固まってしまった。
そしてゆっくりといろはちゃんの方に振り向く。
少し赤くなっているいろはちゃん。
目が合うと、はっと顔を伏せる。
なにこれ、可愛い。
反対側のバニラの方に振り返ると、いたずらっ子のようにニッと笑っている。
「いつかお姉ちゃんが本気で私のこと好きになれるように頑張りますね」
バニラが告白のような宣言をする。
そしていろはちゃんも顔を伏せたまま視線だけこちらに向け、
「今日は二人のかなでさんということで……」
と言った。
頬に熱を感じる。
二人はさらに私の方に寄ってくる。
そのまま残りの時間は、ゆっくり静かに過ぎていった。
観覧車から降りると、後ろからユウキたち三人も追いついてくる。
「かなで~、お楽しみだったようで」
「ななな何が!? 何もしてないよ!」
「え、いや、冗談だったんだけど……、まさかお前本当に……」
ユウキの言葉に冷静に対応できず、
その私を見てユウキの目が点になっていた。
そしてジト目に変わる。
やめて、そんな目で見ないで!
私が何かしたわけじゃないよ~。
「バニラ? 顔が赤いぞ、大丈夫か?」
「だ、大丈夫です。何もされてないですから」
「いや、別にそんなこと聞いてないんだが……」
チョコが心配をして声をかけている。
バニラも冷静じゃないね、やっぱり恥ずかしかったのかな。
あ、思い出したらまた恥ずかしくなってきた。
「いろはも赤くなってるよ? 暑かったの?」
「え!? あ、そうですね、いろいろあつかったかもしれませんね……」
両手を頬に当てて視線をそらしながら、
マロンちゃんに意味深な言葉を返すいろはちゃん。
いやいや、誤解が生まれるような言い方はやめて~!
「お、お前ら本当に何してたんだ!?」
ほら~。
まぁいいけどさ……。
みんな遊園地の魔法にでもかかっているのかな?
今日だけで、ほっぺキス三人ゲットだぜ。
前にモカさんにはおでこキスしてもらったし、あとは……。
「ユウキもしたかったらしていいんだよ?」
「何をだ!?」
とぼけているけど顔が赤いよ?
あ、これはキスよりももっとすごいの想像してるなぁ?
もうユウキったら~。
「やだな~、キスだよ?」
「ななっ、キ、キス!?」
「ほっぺでいいよ」
「お前頭おかしくなったか?」
ユウキは真っ赤になってモジモジしている。
あら可愛い。
しばらくするとユウキが近づいてきて、
そして。
ほっぺにキスをしてくれた。
あれ?
「ふん。これでいいんだろ」
それだけ言うとそっぽむいてしまった。
ほ、本当にしてくれたよ?
あのユウキが!
「私もだ」
そして反対側にチョコもキス。
ちょっとちょっと。
何が起きてるのこれ。
本当に魔法にでもかかってるの?
全員分のほっぺキスイベント回収しちゃったよ。
うわ~。
なにか起こりそう……。




