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「処刑」

 シャノルマーニュ十二勇将が消え水浸しになった草原にバラバラになり動かなくなったガルグイユを見る。

 ……残るは。

 王都に視線を向ける、すると騎士が次々と門から出てくるのが視線に入った。皆オレ達に武器を向けて囲もうとしているようだ。


脅威(きょうい)が去った途端にこれか」

「どうして? ボク達ガルグイユを倒したのに」

「王からしたら排除したいんだろうな、3人は逃げても良いんだぞ」

「シャンも逃げるんでしょ? 」

「いや、オレは逃げない」


 セレンに向かって説明をする。

 ……オレにはまだ革命というやるべき事が残っているからだ。


「そう、それならワタシも残るわ」

「ボクだって」

「アタシも」


 3人が宣言する。頼もしい仲間達だ。彼女達がいたからここまで来れたのだろう。


「分かった」


 いざとなれば逃げ出す事は出来るので了承するのと騎士に囲まれるのは同じタイミングだった。


「奇術師だな? 」

「ああ」

「ついて来い、これより広場にて貴殿(きでん)処刑(しょけい)を行う」

「分かった」


 了承すると3人と共に腕を拘束(こうそく)され連行された。


 〜〜

 処刑場はいかにも簡素(かんそ)な作りで3メートル程のお立ち台の上にギロチンが置かれていると言う構造だった。既に処刑人と王がお立ち台の上で準備をしていた。

 ……ギロチンか、あの時と同じだな。

 ドランと同じ物が使用されるところに運命を感じながら階段を昇る。ふと騎士や民の顔を伺うと皆、気まずそうな顔をしていた。

 ……これなら、上手くいきそうだな。

 革命の成功を確信した矢先頰に痛みが走る。王に殴られたのだった。


「手こずらせおって……これより、奇術師ジャンの処刑を行う! 」


 王が堂々と宣言をすると何人かの騎士が拍手をした。


「さてジャンよ、最後に言い残す事はあるか? 」


 大人しくギロチンの合間に首を挟むと王が勝ち誇り尋ねる。オレが力を使い果たしたと思っているのだろうか?

 ……待っていた、この時を。


「何でオレ処刑されるんですか? 」

「何でって貴様は奇術師なばかりか王宮に無断で足を踏み入れたからだろう」

「それはガルグイユを倒すためだろ! オレがガルグイユを倒そうと闘っていた間こんなの呑気に作って何が王だ! 」


 王が声を荒げたので負けじと声を荒げ叫ぶと民衆達がザワつき始めた。


「ほら自ら口にしたな? ガルグイユの件は自作自演(じさくじえん)であろう、ビッグファザーと協力していや貴様自身がビッグファザーなのではないか? 」

「そんな訳ないじゃない」

「哀れな子娘、貴様は今『催眠術(ヒプノシス)』にかかり正常ではないのだ。こいつをやったらどれだけ恐ろしい行為に加担させられていたのか気が付くであろう」


 思わず声を上げたセレンの反論を王はひらりと躱す。


「なるほど、それならガルグイユが現れた洞窟に行くと良い、確かあの洞窟は焼かれていないはずだからまだビッグファザーの死体があるはずだ、そこを占い師にでも天職を鑑定(かんてい)して貰えばハッキリする」

「ぐっ……だがビッグファザーとの共犯説は……」

「奇術師のオレの為に自ら命を差し出して茶番をしてくれるなんて出来た人間なんだな、ビッグファザー、いや”奇跡の会“は、それと協力してくれたシャノルマーニュ十二勇将も」

「そうだ、シャノルマーニュ十二勇将と一緒に戦っていたよな」

「伝説の戦士達が自作自演なんかに協力するはずがない! 」


 オレの言葉に再び市民が声を上げる。


「……っ、催眠術(ヒプノシス)だ! 催眠術(ヒプノシス)で皆にガルグイユがいる等とかけたのだ」


 ずっと考えていた反論ばかりするので即座に言い返すと絶好の機会がやって来た。


「それならば何で王は平気なんだ? もしかして天職、【王】の力で『催眠術(ヒプノシス)』が効かないのか? 」

「そ、その通りだ」

「それならばもっと見せて下さいよ【王】の力を。皆が『催眠術(ヒプノシス)』にかかっているのだとしたらそれを解く、もしくはオレを黙らせる事位、簡単でしょ? 」

「……」


 王は言葉を失う。

 ……無理はない、だって本当の天職は【王】ではなく【商人】なのを騙して振る舞って来たのだから。これがオレの切り札だ。

 以前『読心術(テレパシー)』で手に入れた切り札を今切った、その効果は本人ばかりでなく市民達にも抜群のようだった。


「おい待て俺達は今まで【王】でないのに仕えていたのか? 」

「どういう事だ答えろ! 」


 観客からブーイングが上がる、すると1人の女性が水晶を抱えて前へとやって来た。


「それなら、私が占いましょうか? 」


【占い師】のようだった。


「よせ、止めろ! 」


 王は止めるも女性はそれを無視して続けるそして水晶に浮かんだ文字に言葉を失った。


「おいどうし……た」


 倒れた女性を支えた男が代わりに水晶に浮かんだ文字を見て叫ぶ。


「【商人】だ! この男は【王】ではない! 」


 この一言を皮切りに市民の怒りは爆発した。


「【王】だと思って我慢して仕えてやっていたのに」

「こいつを殺せ」

「死ねええええええ」


 怒号を前に王はすくみ上がりながらも水晶を指差す。


「に、偽物、あれは偽物だ」

「ですがああやって水晶に文字を浮かべる事が出来るのは【占い師】だけでして」


 オレの側に立っている死刑執行人の男が困惑(こんわく)気味に答える。


「す、水晶の方は……」

「【鑑定士】を呼びましょうか? 」

「いや、構わん……」


 王はがっくりと項垂(うなだ)れ怒声に耳を貸す。

 ……観念したか? この状況でそんな訳ないよな。

 考えた直後、王は憤怒(ふんぬ)の表情を浮かべ処刑人を押しのけると処刑人の手から離れた縄が上に上がり代わりに刃がオレの首に迫る。


「ぎゃははははは、死ねええええええええ奇術師め、死ねえええええええええええ」


 ……ここでやられる訳には行かない。

 それを見てすかさず王の隣へと『脱出(エスケープ)』する。カシャーンと刃が底をついた。


「何故、貴様がそこに……」


 驚く王を裏腹に市民の怒りは最高潮に達した。


「この野郎、もう許さねえぞ」

「俺が殺してやる」


 未曽有(みぞう)の危機に王宮にすら招こうとしなかった恨み、今まで【王】だと(だま)していたことへの恨み、ガルグイユから国を救ったものを殺そうとした恨み、積りに積もった恨みがそうさせたのだろう、市民達が次々と王に襲い掛かる。


「や、やめんか……おい、騎士共、動け、助けろ」


 しかし、騎士達は動かない。もう騎士は助けてくれないと思ったのか


「お、おい、何とかしろ、助けてくれ……何故こんな事をする。今まで殺された奇術師の恨みか? それならば筋違いだ。殺された者は復讐を望んでいないはずだ」


 ……お前がそれを言うのか。

 呆れながらも市民を見つめる、恐らく彼等はもう止まらない。だがそんな事はどうでも良い。最初からオレに止める気等無いのだから。


「同じくギロチンに人体切断されたドランはオレに、仇を討ってくれと言っていた」


 オレは彼に事実を告げると取り押さえられ未だに命乞(いのちご)いをする王の首をギロチンが切断するのを見届けた。

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