「燃える村」
「よくここだと分かったわね、こんなに大勢の騎士を引き連れて」
扉越しにセレンが騎士に言うのが聞こえる。恐らく3人は囲まれてしまったのだろう。
「ええ、先程王様が倉庫と言い出したのは不自然でしたから、もしやと思いましてね。いやはやしかし、貴方"イデアル"のセレンさんでしょう? そちらはフェリーヌさんであちらがルミさん、どうして貴方方がこのような盗人の真似事を」
「さっき説明した通りよ、ガルグイユが復活したの。その討伐の為にワタシ達はここに来たわ」
「よく分かりませんが、拘束しろとの命なのでそのようにさせて頂きますよ。抵抗しないで頂けると有難いのですが……」
「悪いけれど、そうは行かないわね」
セレンが剣を抜く音が耳に入る。
「それは残念……ではありませんね実は、今ではギルド最強のパーティーとなった貴方方と王宮騎士団トップ3の我々、どちらが強いのか試してみたかったのですよ」
……何てこった、相手は只の騎士だけじゃなくて騎士団のトップ3が並んできていたのか、マズい。
流石に分が悪いだろうと焦り倉庫に目を向ける。扉が2メートルと巨大なだけあって中もかなり広く、数メートル程の棚が綺麗に並んでいる。
……こうなったら、一か八かだ。
彼女達の助けになればと王宮の門の上空へと『脱出』する。
「開けろおおおおおおオオオオオオオオオオオ」
「くそ、俺達を見殺しにする気かよおおおおおおおお」
視界に入った門の景色は酷いものだった。ガルグイユの手にかかればすぐに壊されてしまう民家よりはマシだと考えたのだろう、多くの人達が荷物を抱えながら閉じられている門に向かって悲鳴を上げている。
……酷いな。でも好都合だ。
オレは人々を見下ろしながら両手を広げた。
「皆さんもうご安心ください。ワタクシ奇術師ジャンがガルグイユと戦います」
「ジャンだって? 」
「うお、浮いてる! 」
『飛行術』により浮いているオレに驚いた人々が次々と声を上げる。
「ですが、ワタクシが必ず勝てるとは限りません。皆様の安全をより確実なものにするために、頑なに門を開けようとしない王の代わりにワタクシが門を開けて見せましょう」
そこまで言うと両手を門へ向けて翳し先程使った『鍵開け』を使用する。
「開け~ゴマ! 」
オレが言い終わるや否やゴゴゴと音を立て門がゆっくりと左右に開閉していく。
「ありがとうございますジャン様」
「お気を付けて」
「貴方こそ救世主です」
……これで入ってきた民への対応に迫られてセレン達を囲む騎士も減るだろう。
人々がお礼を口にしながら王宮へと入るのを見届けると再び倉庫へと『脱出』をした。
「さて、改めてこの中からマジックアイテムを見つけないといけないんだが……」
『照明』を付けるとともに全貌が明らかになった広大な倉庫を改めて見上げる。この中から腕輪1つを見つけるというのは荒野で指輪を見つける位大変ではないだろうか?
……弱音を吐いている時間なんてないか。
頬を叩くと1つずつ当たっていく。しかし見つけられずに数分が経過した時だった。
ドオン! と勢いよく扉が開く。
……まさかセレン達が負けたのか?
あまりにも乱暴な開け方に、一瞬不安が頭を過ったものの有難い事に現実はその逆だったようで3人が入って来る。
「無事だったんだな」
「手強かったけれど、何とかね」
「何人かの兵士が急に敵が下がっていって助かったよ~」
「門が開いていた気がしたけど、シャン何かした? 」
ルミさんに尋ねられ思わず目を逸らす。
「まあ、ちょっと誘導になればと探す時間を削って門を開けに行ったりしちゃいました」
……流石に皆が戦ってくれているのに余計な事をしてしまっただろうか?
反省をしているとフェリーヌがオレの手を握る。
「そっか、シャンのお陰なんだ、ありがとう」
「え、ええ……怒らないんですか? 」
「怒るわけないでしょ? お陰で助かったんだから」
「そうだよ、ありがとうねシャン」
何故かお礼を言われて顔が熱くなる。
「それで、マジックアイテムは見つかったの? 」
「それが……」
答える代わりに倉庫を見上げると3人には伝わったようだ。
「これは……多いね~」
「この中から見つけるというのは……」
「4人がかりでも時間がかかりそうね」
3人が絶句する。確かにこのままだと時間がかかってしまう。
……一か八かやるしかないか。
「3人はそのまま頼む」
「シャンはどうするのよ? 」
「オレはちょっと人手を増やす」
「人手を増やすって……もしかしてシャン」
倉庫から出ようとするオレを見てルミさんが何かに気付く。恐らく彼女の推測は当たっている。オレが言う人手と言うのは彼女達と戦い敗れて倒れている騎士達の事だったからだ。
「それなら、アタシも付いて行く」
「確かに、護衛が1人いた方が助かるか、2人はそのまま頼む、オレはルミさんと行って来る」
そう言い残すと倉庫の門を開き外へと出た。外では予想通り複数の男達がご丁寧にロープで縛られ地面に転がっていた。
「なんでロープが……」
「アタシ達を捕まえるためのものだったみたい」
「なるほど……」
納得を示すと顔をかがめる。1人の男と目が合った。
「何をするおつもりでしょうか」
口ぶりから察するに先程セレンと話していた騎士団のトップだろう。
「今はいがみ合っている場合ではありません、一刻を争う状況だからマジックアイテムを探すのを手伝って欲しいんです」
「我々に賊の手伝いをしろと? 」
「まあ、そうですよね。じゃあ今がどういう状況なのかお見せしますよ」
そう言うと縛られている騎士達に手を繋がせた後、ルミにさっきの男と手を繋ぐと皆で『脱出』をする。目的地はガルグイユが現れた洞窟周辺だ。
「な、なんだここは……」
「ウサの村近くの洞窟です」
兵士の1人の呟きに対して答えるも思わず声が震えていた。以前は荒野とはいえ洞窟や岩があった場所が今では辺り一面黒焦げで何もなかったからだ。洞窟に来る途中に見たウサの村のある方角に目をやるとあそこも黒焦げになっている。
「多分、あそこがウサの村です、行ってみましょう」
そう口にすると今度はウサの村へと『脱出』する。そこは以前は宿だったのだが今では黒焦げになっており白い浜辺も所々黒く染まっていた。
「何故このような事に……」
「ガルグイユが来たんです……」
言いかけてある者が目に入る、黒焦げになった2つの物体だった。恐らく親子だったのだろう、親が子を庇うため覆いかぶさったであろう様子が予想された。
「おえっ……げほっ……」
瞬間、今朝浜辺で出会った子供の顔が浮かび吐き出す。慌ててルミがオレの背中をさすってくれた。
「大丈夫だよシャン、きっとあの子は無事に逃げているから」
ルミの言う通りかもしれない、でもこの吐き気はしばらく止めることが出来なかった。
……馬鹿野郎、なんであの時ここの村の人の避難を考える事が出来なかった。
数時間前、ガルグイユから逃げるべく家まで『脱出』した時のことを思い出し自己嫌悪に陥る。
……いや、あの時は無理だった。そうだ、オレだって凄い奴じゃない、街全部を救うだなんて無理だったんだ。
「ごめんなあ、オレが全員村毎移動とかが使えたら……」
親子だったものに視線を向けて詫びる。それから無理矢理身体を起こすと騎士達の方を向く。
「ガルグイユの巨体は約25メートル、そして伝承通り洪水は確認できませんがこのように炎を吐きます、距離があるため今の所、王都は安全ですが時間の問題でしょう。倒すにはマジックアイテムが必要なんだ、力を貸して欲しい」
力の限り騎士達の方を向いて叫んだ。




