「奇跡を起こすマジックアイテム」
目を覚ますと見慣れた天井が視界に入る、いつの間にかオレは家に戻っていたようだった。
「シャン君、大丈夫? 」
ルミさんが顔を覗き込む。あまりに近いので恥ずかしくて顔を逸らした。
「は、はい大丈夫です」
「良かった、薬草が効いたみたいだね」
言われて腹部に目をやる。包帯がまかれているものの痛みはほとんど引いていた。
「ありがとうございます、そういえばセレンとフェリーヌさんは? 」
「ガルグイユの事を報告に向かったり皆に知らせたりするために外に」
「そうですか、確かにあれだけ大きいと逃げるしかなさそうですね」
「それがそうでもないみたい、ボリヴィエさんが言うにはだけど鍵はシャン君だって」
「オレですか? 」
意外な提案に耳を疑う。
……ガルグイユに対してオレに出来ることと言えば『召喚』位だけど……もしかして。
「ボリヴィエさんも連れて逃げちゃったけど、彼なら勝てた……とかですか? 」
「そうじゃなくてね、ボリヴィエさんが言うには……」
ルミさんが言いかけた所でガチャりと扉が開く。セレンとフェリーヌさんだった。
「ダメよダメ、誰も話を聞いて何てくれないわ」
「笑うなんて酷いよね~本当にガルグイユが出て来たのに」
「その様子だと、どうやら避難は失敗してみたいですね」
「シャン、目が覚めたのね」
「良かった~シャン君ごめんね、酷い怪我だったのに無理させちゃって」
余程嬉しかったのか2人がオレに駆け寄って抱き着く。驚いたけれど心配されるのは嬉しい事だ。
「ありがとうございます、それでお二人の成果は」
「それがね……」
「まるでダメよ、ガルグイユが蘇ったなんて誰も信じてくれないわ。恐らく姿をその目で見るまで信じないでしょうね」
「そんな、姿見てからじゃ遅いだろう」
先ほど見た炎を思い浮かべる。あれを街に打たれたら人々は大混乱となり避難どころではないだろう。
「あ、そうかしまった」
自らの失態に気付き思わず額に手を当てる。
「どうしたのよ」
「時間だよ、オレ達は『脱出』で一瞬でここまで来れたけど本来は数時間かかるはずなんだ」
「そっか、シャン君の『脱出』はアタシ達しか知らないから」
「誰も信じなかったって訳ね。ワタシのミスだわ、そんな簡単な事にも気が付かなかったなんて」
「いや、あんなの見たら被害出さないようにするのはミスじゃない。戦士として立派だよ。でもどうすれば良いんだ、あんなのどうしたら……」
言いかけて先程までルミさんとまさにその件について話していた事を思い出す。
「そういえば、ボリヴィエさんがオレが鍵って言ったのはどういう意味なんですか? 」
「そうだった、途中だったね。ボリヴィエさんが言うには1人では無理だけど十二勇将が他にも入れば何とかなるかもって」
「他にもと言われても、オレには1人を呼び出すのが限界で」
「その為にシャン君をパワーアップする凄いアイテムが王宮にあるかもしれないって。昔のだけどアラジジさんが使っていた『まじっくあいてむ』って言うみたいだけど」
フェリーヌさんが引き継いで答える。
……マジックアイテムか、アラジジさんに聞いてみよう。
アラジジさんと『交信』を開始する。
……お久しぶりですアラジジさん。
『久しぶりじゃのう、元気そうで何よりじゃ』
……お伺いしたい事があるのですが、マジックアイテムってご存知ですか?
『ああ、知っておるぞ、腕輪の形をしておってのう、ワシが昔魔力を強化する為に使っていたものじゃ』
……オレにも使うことは出来るでしょうか?
『以前見た所構造は似たようなものじゃったから使えるとは思うが……ワシのは部屋にあるが遥か昔の事じゃからのう』
……ありがとうございます、王宮をあたってみます。
『交信』を終了する。終わってからガルグイユの事を話していない事に気が付いたけど彼には悪いが一刻を争うのでまた後にさせてもらおう。
「王宮に行こう、マジックアイテムを探さないと」
「でも王都でも信じて貰えなかったら入れないんじゃなあの? 」
「だから直接王宮に入るんだよ、『脱出』で。以前行った事あるからな」
「それって無断じゃないの」
「緊急時だから仕方ない……とはいえ強制もしない方が良いな」
「どうしてよ」
「ガルグイユと戦う場所によってはオレが奇術師だとバレる事になる。その時にオレと一緒にいたら倒せたとしても後で何されるか分からないぞ」
3人にこう言う時が来た時に告げなければならないと思っていた事を告げる。
最悪革命に失敗してオレが奇術師だと皆にバレるだけになっても『催眠術』で操られていたとすれば良いだろうって考えもあった、でも今回の王宮侵入の様に変に罪悪感を抱いているみたいなリアクションが出てしまうとそれも使えなくなる。それで迷惑をかける位ならここら辺が潮時だ。
「急で申し訳ないけど皆武装している様なので5秒後に王宮に飛ぶ、だから付いて来る人だけオレの手を掴んで付いてきて欲しいオレはどっちでも構わない。どっちにしろガルグイユは倒すつもりだ。いや、付いてこない方が良いかもしれない。最悪国外へと逃げようと考えているけど3人にはこのギルドでSランクまで成り上がった立場と家がある。それをオレのために捨てるなんて勿体無いと思う」
そこまで言うと気まずくない様に目を閉じ5秒を数える。そして、きっちり5秒数えた後に王宮の男子トイレへと『脱出』する。
……余りに急だったし誰も付いて来ないか。
分かっていたとはいえ気分が重くなるも悲しんでいる時間はない、マジックアイテムを探すべく目を開こうとした時だった。
「ちょっと何て所に来ているのよ」
「へー男の人のトイレってこうなっているんだ〜」
「フェリーヌ、あまり見ない方が……」
空耳だろうか、声が聞こえて慌てて目を開く、するとそこには3人の姿があった。
「皆、どうして」
「どうしてって当然でしょ? 4人で”イデアル”なんだから」
「うん、例えこの国から出て行く事になっても皆一緒」
「シャン君がいないと危なかった時沢山あったからね〜それにさっきさ、セレンに話す時みたいに気楽に話しかけてくれて嬉しかったよ」
言われて気がつく、そう言えばさっきは敬語を使うなんて事さっぱり忘れていた。
「敬語ない方が良かったです……の? 」
「そうだよ〜ずっとセレンばっかりズルいって思っていたんだから! 」
フェリーヌさんが頬を膨らませる。
「ごめん、じゃあこれからはこうする」
「宜しい、それなら行こうシャン」
「アタシもフェリーヌと同じで良いよ。し、シャン」
「分かったよ、フェリーヌ、ルミ……」
「フフ、ほらほら、時間ないわよ。マジックアイテムを探しましょ」
ぎこちない会話をしていると突然セレンが吹き出しながら言った。




