「反撃開始」
オレの名を口にしたビッグファザーを睨み付ける。カーテンに遮られているものの洞窟内のランプは確かに彼が笑みを浮かべているシルエットを映し出す。
……バレていた、オレの正体がバレていた。
「おいおい、こいつがシャンなのか? 」
「ギルド最強戦士と言う割には何というか平凡と言う雰囲気だが」
「さも平凡を装える所が凄いんじゃねえか」
ヒソヒソと周りの人々が囁く。
「一応、どうして分かったか聞かせて貰おうか」
「簡単ですよ、貴方の顔なんて遠目だとしても簡単に忘れられるものではありませんから」
「お見事」
……やられた、この変装の唯一の弱点、剝き出しの顔面で正体がバレてしまうとは。甲冑着けたりなんてしたら目立つからなあ。
「残念ですよシャンさん、忠告を聞いて下されば命を落とす事等無かったというのに」
「は、追い詰められているのはどっちかな? 」
「お前達だぜシャンさんよお」
「え? 」
視線をビッグファザーから周囲に戻すとオレ達はいつの間にか"奇跡の会"の信者達に囲まれていた。しかも何故か全員刃物を手にしている。
「これは一体」
「げへへ、俺達は全員盗賊なんだよ、ボディチェックなんてあんたらから武器を奪うためにやっている振りをしてたんだよ」
「なんだって! 」
「オラオラ、ギルド最強戦士様御一行は武器無しでどこまでモツのか……なあ! 」
男達がジリジリとオレ達に迫り剣を振る。瞬間、キィンと言う音が響いた。
「な、何でこの女、剣を持ってるんだ」
『すり替え』で石とすり替わった剣に驚く盗賊達。
……正直、正体をバレるのに関してはどうでも良く全員避難と言うのは面倒だと思っていたのでこれは嬉しい誤算だ。盗賊相手ならば遠慮はいらない。
「そう言う事なら、反撃開始だ」
「ええ、行きましょう」
「うん! 」
セレンとフェリーヌさんが盗賊達と戦闘を開始するのを眺める。正直、ここは2人でも良さそうだけれどあの偽者達に関しては約束もある。
「『召喚』出でよ、シャノルマーニュ十二勇将の1人、ピュルパン! 」
ピュルパンさんの肖像画の姿とついでに先程脳内に響いた怒声を浮かべながら掌を前に翳すと肖像画通りの見た目のピュルパンさんが姿を現す。
「ピュ、ピュルパンが2人? 」
「シャンさん、偽者をこの手で葬りたいというワタクシの願いを聞き入れてくださり感謝します」
「こちらこそ呼び出しに応じてくださりありがとうございます」
丁寧に片膝を着き礼を述べる姿と先程の怒声とのギャップが凄かったので戸惑いながら答えると彼は盗賊達へと向き直った。
「さて、俺の名を語る畜生はどこのどいつだあ! 」
相当頭に来ていたのだろう、先程の丁寧な口調はどこへやら、豹変したピュルパンさんは行く手を阻もうとする盗賊達を切り裂き返り血を浴びながらひたすら偽者目掛けて走り去る。
「おい奴の目的は明らかにお前だ。この祭壇から離れろ」
「は、はい」
しかし、この猪突猛進具合では敵にも狙いは丸見え、おまけにピュルパンさんにビッグファザーの話はしていなかったので彼は誘導に従い祭壇から離れた偽者を追って行ってしまう。おまけに……
「おい、こいつ何なんだ。ギルド最強戦士なんだろ? 」
「いや待て、さっきのはビッグファザー様と同じ奇術だ。ということは奇術師だ……てことは」
「そうか、お前なら簡単に殺せるって事だなあ」
……オレは盗賊に囲まれてしまっていた。とはいえ、2人に助けて貰うつもりも毛頭ない。
「それなら、奇術師なりの戦い方を見せてやるよ。喰らえ、『ミニミニファイアボール』」
指から放たれた火球が盗賊一人の胸に命中。
「ぎいいいいいやあああああああああああああああああああああああああああああああ! 」
断末魔の叫びと共に男は倒れた。
「ひ、ひいいいいいい何だこのえぐいものはよおお」
「どうせ死ぬなら首斬られて死んだ方がまだマシだ」
「落ち着け、確かに早いが奴の指に注意しとけば問題ねえ、それに1発しか打てねえんだ。それなら恨みっこなし、一斉に襲い掛かって避けた奴が仕留めるぞ」
……あんなの見といてそこまで冷静に判断が出来るんだな。けど……
「それは、どうか……な! 」
口にした瞬間、小石を空へと放り投げる。そして高く上がったのを見計らい小石とオレの位置を『すり替え』した。
「う、上? 」
「喰らえ、『ミニミニファイアボール』連弾」
「「「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」」」
またもや直撃した者達から悲鳴が上がった。




