「3人の英雄」
着替えを終えたオレ達は『脱出』により一気に基地内部へと侵入をする。幸い脱出先には人はおらず上手く人混みに混じることに成功した。
「上手く行ったわね」
「ああ、報告によると祭壇はこの奥のはずだから進もう」
「えいえいオー! 」
詳しい場所は分からないけれどビッグファザーは奥にあるらしい祭壇の近くにいるはずだ。そう判断をしてひたすら奥へと進むと報告通り多くの松明に照らされた祭壇が姿を現した。その真下はカーテンに覆われていて見えないが顔を隠した人物が座っているのが視界に入る。
「おい、新入りか? ビッグファザー様の儀式はまもなくだが新入りは最後尾だぞ」
「すみません新入りなので分かりませんでした」
「まあ、あのお方の力を見るのが楽しみだって気持ちは分からなくもねえがな」
そう言うと男性は離れて行く。
「聞いた? ビッグファザーですって」
「やっぱりここがアジトだったんだね」
「みたいですね」
……いよいよ、か。
男性を見送りながらまずは追い求めていた敵が目の前にいる事を認識するのを喜びつつも改めて気を引き締めた。
それからしばらくして列形成がなされたのだが問題が発生した。何と祭壇前でボディチェックが行われているのだ。身体を触る簡単なものだが、それでも2人が隠している剣がバレてしまう。
「どうしましょう、まさかここでもボディチェックだなんて」
「考えがある、2人共こっちへ」
最後尾なのを良い事に物影へと移動する。
「剣を隠したのは前と後ろどっちだ」
「前だよ」
「よし、じゃあ上着を捲ってくれ」
「「え? 」」
2人が顔を赤くする。気持ちは分かるけれど場合が場合なのだからもう強行するしかない。
「ちょっと剣が少し見えるだけで良い、そうすればオレが馬車の中の何かと『すり替え』する」
「わ、分かったわよ」
「あまり見ないでね」
恥ずかしながら服を捲る2人、2人の間に隠された剣を視認すると即座に馬車で眠っている見張りの目隠しにと巻いた布と『すり替え』した。
「これで大丈夫だ、行こう」
布を目立たない所へと置くといざ列へと向かった。
~~
列に並びボディチェックを受けると祭壇の前に立ち祭壇を見上げ姿を現すのを待つ。
「とりあえず今はカーテンのせいで無理だが、あそこから出てきたらオレが仕掛ける」
オレが囁くと2人が頷いたので小石を3つ拾ってて剣との『すり替え』用に1つずつ手渡す。
……気付かないようなら小石を投げてから『すり替え』で『ミニミニファイアボール』だな。上手く行けばそれで終わりだ。いや待て『奇術返し』で『ミニミニファイアボール』って弾けるのかな? まあ落下中だから発射位置に跳ね返されても構わないか、重要なのは作戦通りビッグファザーに『催眠術』を使わせることだ。
小石を握りしめる。すると、
「ああああああああああああああああああビッグファザー様のおなあああああありいいいいいいい」
「「「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」」」
儀式が始まったようで人々が何やら声を上げるとカーテン越しにビッグファザーが立ち上がった。
「あああ聞こえます、皆様の声が聞こえます。皆様は不安になっておられる。私がかの奇術師ジャン、もしくは剣士のシャンに敗れるかもしれないと不安になっておられる」
男が声を上げる、その声は以前耳にしたビッグファザーのものだった。
……間違いない、あそこにいるのがビッグファザーだ。
「そこで今一度証拠を見せよう、ジャンをも凌ぐ私の力を! 出でよシャノルマーニュ十二勇将の1人ピュルパン! 」
彼がそう口にすると目の前に1人の男性が現れる。しかしその男性は肖像画で青年として描かれたピュルパンと異なり髭を生やした中年男性だった。
……呼んだことがないから判断出来ないけど本物なのか? 今まで協力をお願いした十二勇将は絵画通りだったが成長した姿や絵画が違っていただけで現実の姿がこうなのか?
考えていても始まらないので思い切ってピュルパンさんに『交信』を試みる。
『私に御用でしょうか? 』
……『交信』が出来た? と言う事は今目の前にいるこの男性は偽者か?
『なんだと俺の偽者だと? 許せねえどこのどいつだ』
……失礼しました。
そうことわると慌てて『交信』を中断する。
……『交信』中は思った事がそのまま伝わるのを忘れていた。
とにかくあの男が偽者と言う事が分かった。後はその狙いだけどハッタリか?
「彼だけではございません、私は複数の人を呼び出すことが可能です、出でよシャノルマーニュ十二勇将の1人スロモン」
彼がそう言うとまたもや絵画と異なる謎の人物が姿を現す。
「ちょっと2人も呼び出せるってどういうこと、ああ見えてかなりの手練れのように思えるけれど、本物なの? 」
「少なくともピュルパンさんの方は偽者だ」
「でもシュッて突然出て来たよ? 」
「そこは多分奇術は奇術でも『すり替え』でしょうね。偽者を別の場所に待機させておいて後は祭壇に小石でも置いておけば『すり替え』する事が出来ますから」
「えー偽者なんて出してどうしたいの? 」
「分からなけれど、もしかすると偽者の中に本物を混ぜて油断させる作戦かもしれないわね」
……なるほど、その可能性はあるな。
真相を確かめるべくスロモンさんと『交信』を試みる。
『これは、ふむ、こんな状態になっても話せるとは興味深いですね』
……スロモンさん、もしかして今誰かに呼び出されていたりしませんか?
『そんな事はありませんが……ふむ、なるほど偽者ですか』
……そうなのですよ。ありがとうございました。
またもや目の前にいるのは偽者だという事が判明した。一体彼は何を狙っているのか。ここにいる"奇跡の会"の信者についてのパフォーマンスか?
「それでは、3人目、カロリマールのご紹介です」
悩んでいると彼がそう口にすると共に今度は絵画そっくりの人物が姿を現す。今度は本物か? とカロリマールさんと『交信』をするとまたもや偽者のようだった。
「そして4人目、出でよ! ラストルフォ! 」
そうこうしているうちに4人目のラストルフォが姿を現す。馬に跨り現れた男は以前呼び出した時の姿とは余りにかけ離れていた。
……『交信』しなくても分かる偽者だ。馬なんて乗っていなかったし。
「ヒヒーン」
「うわっ! 」
ため息を吐きながらも来るであろう5人目に備えているとラストルフォを名乗る男が落馬する。
……何なんだよこの仮装集団は。ビッグファザーってこの程度だったのか? これなら仕留めるのも楽勝そうだ。
彼の実力に安心したようなガッカリしたような複雑な感情を抱いた時だった。彼と視線が合ったような奇妙な感触に襲われる。
……気のせいか、向こうは何人もの人を見下ろしているんだ、見上げている大勢の人々の中からオレを見つけるなんて事が出来るわけが。
そう軽く流そうとするも彼の顔は明らかにオレを向いたまま止まっている。
……嘘だろ? まさか……
「さて、この4人を前にどう戦われますかな? シャンさん」
小さい声だった。だがその声は確かに洞窟内に力強く響いた。




