「待ち望んでいたクエスト」
ビッグファザーとの遭遇から数日、ギルドを訪れるとマリーさんが飛び出して来た。
「来ました、来ましたよ皆さん! 」
「遂に来たのね」
「ええ、こちらを見てください。森にあるとある洞窟に何やら老若男女大勢の人が集まっているみたいなのです。普通の洞窟のはずなのに入る人が余りに多いので不思議に思った現地の人が中を除いたところ……妙な祭壇が作られていて皆が祭壇の頂点に立つ人に祈りを捧げていたと」
「決まりね、承ったわ」
マリーさんから地図を受け取るとギルドを出る。
……いよいよビッグファザーとの決戦だ。
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ビッグファザーが潜伏しているとされる洞窟は外観は何の変哲もない洞窟だったけど1つだけ明らかな違いがあった。
2人の人物が入り口付近をウロウロしていたのだ。
「あれは恐らく見張りね」
「多分服にでも武器が隠してあるんだろうね~」
「あそこに見張りがいるってことは裏口とかはなさそうだね」
「それなら『催眠術』で強引に進みましょう」
そう言うや否や見張りの2人に駆け寄る。
「すみません、道をお聞きした良いのですが」
「なんだい、おま……」
「おい、どうしt……」
催眠成功、眠った2人を馬車に入れると服を脱がし身体を縛る。フェリーヌさんの予想通り男達は内ポケットにナイフを隠し持っていた。
「流石シャン君、手際が良いね~」
「ちょっとでも服は……」
「これを着てさっきの見張りを装って潜入するんだよ、ほら丁度ズボンとシャツの間に剣を隠して……と」
「そ、そうだね」
ルミさんが顔を赤くする。改めて見るとこの服はズボンは長いもののみすぼらしさを装うためか所々破れていて女性が着ると色々と見えてしまうだろう。
「それならオレがこのまま行って取ってきますよ、少なくともこの2人のこんなフェイクじゃなくて生活用の服はあるはずですから」
そう言うと着替えを始める。
「待ちなさい、1人で行くのは危険よ」
「平気さ、いざとなったら逃げてくるよ。逃げ足だけはあのギルド最強戦士と言われたテランさんも見抜けない程速いのは知っているだろ? 」
2人が聞き耳を立てている可能性を一応警戒しながらいざとなったら『脱出』で逃げて帰ると伝えると単身で洞窟へと入り込んだ。
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洞窟の中は改造したのだろう、外観からは予想できない程広く幾つもの穴がありそこが住居となっているようだった。制服と呼ぶべき全身赤い服に身を包んだ男女達が出入りをしている。
……見張りを知っている奴がいたらマズい、ここは『読心術』で。いや『読心術』は顔を見ないといけない。これだけ人がいると辺りを見回す必要があるからかえって怪しまれるか。とにかく堂々としていよう。
堂々とする事を決めて堂々と住居の1つに入ると堂々と制服を3着取り『脱出』でひとまずは御者に怪しまれないように入口へと移動すると馬車へと引き返す、そして3人に服を渡した。
「助かったわ、随分と早いのね」
「まあな」「流石シャン君だね」
「それなら早速行きましょうか」
「そ、それなんだけどアタシは行かない方が良いかもしれない」
「どうしてですか? 」
「ほ、ほら、あそこが出入口だとするといざとなったら相討ち覚悟で何かしようとする人がいるかも知れないから」
「念の為に見張っておくって事ね……確かにそうかもしれないわ」
「う、うん、だからこれはシャン君が着て。こっちの服の方がバレる心配は無いから」
ルミさんの判断は的確だ、万が一逃げられでもして出入口を塞がれるなんて考えられる事態だしその際に対処出来るのは素早いルミさんだ。加えてオレの服もいつまでも見張りの物で内部を彷徨いていたら怪しまれるのに加え今ならば『脱出』で一気に内部に侵入出来る。良いことづくめだ。
「よし、それじゃあ着替えて行こう」
「いや、それはその……」
「そうだね……」
オレの勢いとは裏腹に2人が顔を背ける。
「ほ、ほらシャン君2人とも着替えないと行けないから……その……ね」
「あー……はい」
親しき仲にも礼儀あり? と言う奴か。とりあえず馬車にあった布で見張り2人の目隠しをすると制服を一着だけ手にして馬車を降りた。




