「遭遇! ビッグファザー!! 」
ビッグファザーと名乗った男を見つめる。正直ヒゲが生えて彫りが深い顔をしているものの今まで世間を騒がせていたその人と言われると迫力にかけ信じ難いものがある。
……揶揄われているのか?
男を見つめ『読心術』で本心を知ろうと試みる。しかし何も読み取ることが出来なかった。
……間違いない、この男はオレと同じように『奇術返し』を常に使用している。少なくとも奇術師であることは間違いない、いやこんな事を知っているのだから本物だ。
思わず拳を握りしめる。
「おや、どうかしましたか? 」
……落ち着け、悟られるな。とりあえず今は目の前のホラ吹き濃厚な酔っ払いを相手にしている戦士だ。
「いえいえ、冗談にしてはちょっとタチが悪いなと思いまして」
「なるほどなるほど、それでは証拠をお見せしましょう……おや? 」
「どうかされましたか? 」
「いえ、考えていることを言い当ててあげようとしたのですがこれは素晴らしい、何も読み取れない」
……しまった、こちらも『奇術返し』を使ったのだからオレと同じく何も読み取れないのは当然だ、でも戦士シャンとして接している以上奇術師だとバレるわけにはいかない。
「言い当てる? まあ戦士として心を無にするのは当然ですから」
「なるほどなるほど、流石ギルド最強戦士シャンさん、常人では成し得ない事をさも簡単な事のように言ってのける」
「とにかくこれで、貴方がビッグファザーだと証明することは不可能になりましたね。そもそも本当のビッグファザーだった場合目の上のたん瘤であるシャ見かけたら声何てかけずにその場で処理しようとなさるのでは? 」
「仰る通り、ですがビッグファザーがギルド最強戦士がキャ・バレーで寛いでいる所を暗殺、これ程までに間抜けな事がございますか? 貴方にはもっと然るべき舞台で私に排除されて頂きたいのですよ」
……なるほど、確かに盛り上がりに欠ける。そんな事をしたらビッグファザーは恐れられる所か臆病者のレッテルを貼られかねない。
「と言いたい所ですが、正体がバレる事を恐れずに女性を助けた貴方に免じて忠告をしておきましょう。近いうちに私は動き出します、恐らくギルドからクエストが出るでしょう。貴方はそれを断りなさい、そうすれば貴方は見逃してあげます」
「随分とキャ・バレーを気に入っているようですが、会場に貴方の姿は見かけませんでしたよ」
「あのキャ・バレーにはVIP席が用意されているのですよ」
「な」
……畜生、やられた。VIPの存在なんて知らなかった、確かにあそこで目立つ場所に出たのは迂闊だったか。だが今となっては些細な話だ。
横目で周囲の様子を窺うと何人かの騎士がジリジリとこちらに向かってくるのが見える。
……聞きたいことも聞けたしそろそろ良いだろう。
「それは心に留めておきますよ、それでは今度はその話をこの方達にしてあげてください、自称ビッグファザーさん」
オレの言葉を合図に騎士団が老人を囲む。
「こ、これは……」
「夜の繁華街で2人が長時間立ち止まって話をしていたら気になるでしょう? しかもどうやら1人は戦士でもう1人はビッグファザーを名乗っている。騎士団が集まるのも無理はありませんよ」
説明をし終えるとビッグファザーは余程ショックだったのだろうか沈黙してしまう。このまま黙って連行されるかに思えた次の瞬間。
「フフフフフアーハハハハハ、なるほどなるほど、すっかり嵌められたと言う事ですか。それならば見せてやろう、このワシがビッグファザーであるという証拠を! 」
「何をするつもりか知らんがかかれー」
彼がそう言うや否や騎士達が彼に襲い掛かる。しかし、次の瞬間、彼の姿は消え騎士達の剣は空を切った。
「き、消えた? 」
「そんなはずはない、探せ」
驚きの声を上げる騎士達。彼らは見落としていたが足元には1枚の銅貨が落ちていた。
~~
「多分ビッグファザーは最低でも"奇跡の会"が使用してきた奇術全てを使える」
馬車で3人と合流すると先程の事を話しそう締めくくる。
「ぜ、全部って”催眠術”と”飛行術”と”すり替え”全部って事? 」
「恐ろしいわね……それで最低でもと言うのは? 」
「『読心術』で読み取れなかった恐らく『奇術返し』も使える」
「それは……恐ろしいね」
「はい、仮に”奇術返し”だけだとしても厄介ですね」
「どうして? 今まで破ってきた奇術なら大丈夫なんじゃないの? 」
フェリーヌさんが首を傾げる。彼女の言う通りオレは倒した事がある能力であり『催眠術』、『すり替え』は『奇術返し』で防ぐ事が出来『飛行術』には『飛行術』で立ち向かえば良い。一見完璧に対策出来ているようだけど厄介なのが1つだけある。
「『すり替え』です、こちらにかけてくるのは防げますが彼自身にかけるのは防ぐ事が出来ません」
「なるほど、『すり替え』られる物と場所さえ把握しておけば良いのだから逃亡に使われてしまうと言うわけね」
「じゃあ倒せないじゃん」
「一応方法はあります、向こうに勝ち目があると思わせれば良いんですよ」
「そっか、ビッグファザーが勝てると思っている限りは『すり替え』で逃げる事はしないから、勝てると思わせる事が大事なんだね」
「そうなんですよルミさん、問題はその方法ですが……」
言葉に詰まる。肝心のその方法が浮かばないのだ。
「それならワタシ達が『催眠術』にかかったフリをするのはどう? 地形にもよるけれど1番武器になるのは『催眠術』だろうからまずかけてくるわ」
悩んでいるとセレンが口を開く。確かに彼女の言う通りだ、確実に目の前で仕留められるのは『催眠術』しかない。ギルド最強戦士なんて称号があれば何ならオレが以前やったみたいに一芝居打って家来にしたいなんて思惑もあるのかもしれない。
「その可能性は高いな、3人にも『奇術返し』をかけておく。だから『催眠術』をやって来たと思ったら操られたフリをしてビッグファザーを仕留めよう」
作戦は決まった。とりあえずの処置だけれどまるで手掛かりが無かった頃と比べると大きな進歩だ、加えてオレ達にはシャノルマーニュ十二勇将がいる。
……希望が見えて来た。
ふと窓から空を見上げると幾つもの星が夜空を照らしていた。




