「キャ・バレー」
「4名様ご来店です」
「良い所ね……だな」
「ボク初めてだからワクワクしちゃうな~」
「オ、俺もだぜい」
「ハハハハハ」
男装した3人と共に夢のキャ・バレーに入る。ダンスが見られる大きなステージに飲食が出来る大きなテーブルに椅子ととても広くとてもジェントルマンという雰囲気だ。見るものは練習されたダンスに女性の肉体美と言う事で女性客の姿もある。
……男装する必要なんてなかったじゃないか。
綺麗にスーツ姿に身を包んだ3人に視線を向ける。セレンなんかは髪が長いものだから後ろで結んでまでいる。
……まあこれはこれで普段見られないものだから良いか。
「食事も出来……るんだな」
「ちょっと値段はするけどね~その分美味しいのかな~」
「フェリーヌ、あ、あくまで目当てはダンスなん……だぜ」
……ヤバい、無理矢理男みたいに話そうとするセレンさんとルミさんが面白過ぎる。
ツボにハマり今にも笑い出しそうになるのを堪えるとステージが始まってからはダンスをゆっくりと楽しめるようにと席についている来客1人1人の心理を『読心術』で読み取るもビッグファザーらしき事を考えている人はいない。
……思えば、『我こそはビッグファザーだあああ』なんてビッグファザーでも考えないんじゃないか? まあ、こうしてキャ・バレーに来ることが出来たから良いか。
半ばビッグファザーの調査を諦めた所で料理が運ばれステージにスカートを履いたグラマーなダンサーが集まりダンスが始まる。
ダカダンダカダンダカダンダカダン
軽快な演奏を押されダンサーがスカートにも関わらず思い切り足を振り上げる。
……う、うおおおおおおおそんな大胆……な。
「「「…………」」」
「コホン、さてと調査調査と一応ダンサーも調べた方が良いかなあ」
3人の視線がダンスではなくオレに集中している事に気が付き慌てて平静を装いダンサーに視線を戻す。彼女達は激しく踊り続けていた。
……いやこれ普通に凄くないか、動きにかなりのキレがあるしその状態で笑顔を維持しているぞ。
「せっかくだからダンスも見た方が……いや変な意味じゃなくて足上げたりして凄いぞ。どれだけ身体柔らかいんだって」
「そうね、チラリと見たけど加えて誰にもぶつからない立ち回り、コンビネーションは素晴らしいと思うわ」
「スパスパスパって感じで格好良いよね~」
「そうだね、せっかく来たんだから勿体ないよね」
オレに邪な気持ちが無いと判断したか3人の視線が一転してダンサーに集中する。
「あの人、セレンに似てるよ~」
「本当、でもセレンって1人っ子だよね? 」
「ええ、他人の空似ってやつだけどそっくりね」
もはや何のために男装したのか言葉使いすら元に戻った彼女達は料理を味わいながら会話をする。その視線を追うと確かにセレンにそっくりの女性が踊っていた。
「いや本当にそっくりだ」
……本人は他人の空似で済ましたけれどこう横にも前にも同じ顔がいるというのは妙に落ち着かないな
と奇妙に感じた数十分後、一人の男が席を立ったかと思うとダンサーの方へと歩いて行き曲の合間に一人のダンサーに抱き着いた。
「きゃっ」
抱き着かれ驚いた女性が声を上げる。先程話題になったセレン似の彼女だった。
「げへへ良いじゃねえかよ」
「や、やめてください」
典型的な酔っ払いに対してセレンなら軽く一捻りするであろう所を彼女は震えた声で嘆願嘆願するのみだった。それを見て溜まらず飛び出す。
「やめろよ、嫌がってるだろ」
……まずい、こんなに人がいる中で目立つのは。
声をかけてから気が付くがもうどうしようもない、なるようになれと男の腕を掴む。
「なんだいてめえは……ひ! ひいいいいいいいいいいいいい! お許しください」
振り返り様の気迫から睨みを利かせてパンチまで繰り出されるかと思いきや男は突然情けない声を上げ倒れた。
「なんだ急にオレの顔に何かついているのか? 」
「いえいえ、滅相もございません。ギルド最強戦士シャン様のお顔に何かするモノなんているはずがございませんよ」
「……オレの事知っているのか? 」
「へい、それはもう有名ですから。コロシアムでのテランさんとの戦いお見事でした、あのテランさんを相手に互角以上の戦いをなさるなんて流石です」
「そうか、有名になったんだなオレも……ハハ」
普段なら手放しで喜ぶべきかもしれないけど今この場ではマズい。
「あの人がギルド最強戦士か」
「そうは見えないけど人は見かけによらないのね」
「でも何であの人がここに? 」
「そりゃまあ好きなんでしょうよキャ・バレーが」
オレを戦士だと知った観客達の会話が耳に入る。
……やっぱりそういう流れになるよなあ、何でいるのって。
思わずため息をつく。
……これ以上楽しめないのは勿体ないけど仕方がない。
「よし、連行するぞ。酒が提供される場だからな。このように酒に飲まれて人に迷惑をかける輩がいないか見張っていたと言う訳だ」
「そんな~」
「初犯なら寝床が提供されるくらいで解放されるだろ行くぞ」
後で馬車で落ち合おうと3人に目配せをすると半ば八つ当たりのように彼を連れキャ・バレーを後にした。
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「ご協力ありがとうございました」
「いえいえ、戦士として当然のことをしたまでです」
騎士団に男を渡すと夜の街を歩く。
……馬車に戻るか。いや料理結構残っていたしな、3人が楽しんでから出てくるとしたらまだ早いか? 飯を食いに行った方が良いか?
「こんばんは」
行き先を悩んでいると何者かに声をかけられ振り返る。そこには高齢の男性が立っていた。
……また酔っ払いか?
「どちら様で」
「シャン様ならご存じの人物ですよ、私が"奇跡の会"の長、ビッグファザーです」
オレの質問に対して男性ははっきりとそう答えた。




