「奇妙なクエスト」
翌日、"イデアル"としてオレ達は初めてギルドを訪れると例のようにマリーさんが駆け寄って来た。
「セレンさん」
「マリーさん、今の私はセレンではないわ、これからは"イデアル"の皆さんと呼んでくれるかしら」
「遂にパーティー名を決められたのですね、"イデアル"、良い響きですね」
「それで私達に何の用かしら? また"奇跡の会"が絡んでそうなクエストが見つかった? それとも他のパーティーがやりたがらないクエストがあるのかしら」
「いえ、そういう訳ではなくて……こう言う訳なんです」
そう言って彼女が1枚の用紙を手渡す。
「これは……護衛クエスト? 」
「はい、依頼された少女を指定の場所まで無事送り届けるというクエストです」
「Sランクで護衛って珍しいね~」
「フェリーヌの言う通り珍しいわね、わざわざSランクの戦士を指定するって事は身分の高いお方なのかしら」
「いえ、念のためギルドでも調査したのですがそういう訳ではないようです」
「じゃあ、普通の一般人と言う事? 」
「どうやらそうみたいなんですよ、誰かに狙われているという訳でもなさそうですし」
……一般の少女を護衛するだけでSランククラスの報酬という訳か、割の良いクエストだな。
セレンも同じことを考えたようで訝しげな表情を浮かべる。
「何か裏があるんじゃないの? おかしいでしょこれ」
「そうなんですよ、おかしいんですよ」
「そこを調査して欲しいと言う事ね」
「いえ、クエストを受けて元気を出して頂ければと」
「元気? ワタシはこの通り元気よ」
と彼女が首をかしげる。
……そういえば、オレ達は表向きには"奇跡の会"に惨敗したことになっていたな。マリーさんなりに気を遣ってくれたと言う事か。
「有難くお受けさせて頂きます」
オレはそう言うとセレンに変わり紙を受け取った。
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「なるほどね、彼女なりに気にかけてくれていたのね」
馬車で一通り説明すると彼女は納得したようだった。
「マリーちゃん優しいね」
「そうだね、受付がマリーさんみたいな優しい人で良かった」
「優しいと言うと、そうねフェリーヌ、ルミ。少女と言う事だからお菓子でも何か買っておいて貰えるかしら。通り道みたいだからここで待っていてくれたら拾うから」
「了解、行こうルミ」
「うん」
元気よく答えるとフェリーヌさんは馬車から降りて人混みの中に入って行った。
「さて、今回の件について改めてどう思うかしら? 」
2人がいなくなった後に改めてオレに尋ねる。それでセレンが彼女達に買い物をさせた理由が分かった。フェリーヌさんがこの話し合いに混ざり依頼人に対して疑念を抱かせると顔に出てしまうと考えたのだろう。
「どうってギルドでも調査したなら信用しても良いんじゃないか? 」
「それもそうね、一応『読心術』を使っておいて頂戴」
「了解、随分慎重なんだな」
「3人の命が掛かっているからね、パーティー名登録したその日に誰かが命を落とすなんて嫌だもの」
「そこは4人の命だろ? 」
「そう……ね、着いたみたいだから迎えに行きましょう」
セレンは赤くなった顔を誤魔化すようにそう言うとそそくさと馬車を降りる。目的の家では既に家族であろう30代程の男女と5歳程の少女の姿があった。セレンがSランクであることを示す勲章を見せる。
「初めまして、クエストをお引き受けさせて頂いたセレンと申します。こちらはパーティーメンバーのシャンです、只今フェリーヌとルミの2名が席を外しておりますが4人で護衛を担当させていただきます」
「私はボブ、妻のジュリーに娘のメアリーです。セレンさん、シャンさんメアリーの事を宜しくお願いします」
『本当にSランクの戦士が来てくれた、これでもう安心だ』
念の為に『読心術』で心を読むが今の所は特に裏表もなさそうだ。
……ただの割の良いクエストか。
2人の社交辞令をぼんやりと見ながらそう思った時だった。
『これで襲われる心配はない。後はメアリーが奇術を使えることがバレなければ良いんだが、何度も人前では使うなと忠告したし大丈夫だよな。そうとなれば"【奇術師】キラー"が護衛をしているんだから誰もメアリーを【奇術師】とは思うまい』
彼のとんでもない心の声が脳内に入り込む。
……【奇術師】だって? 【奇術師】の護衛をしただなんてバレたらタダじゃすまないぞ。
とんでもない裏があったとため息をついた。




