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「合流」

 王都の裏路地に到着すると『ティラノスティーニ』へと向かう。

 ……急げ、すれ違ったりしたら大変だ。

 馬車に乗られて移動をされてしまうと何も出来ない、一刻も早く合流をしたいという気持ちのままに店に着くと窓から客の様子を伺う

 ……いた、ルミさんだ。オレの考えは間違っていなかった。

 彼女の後ろ姿を見て店内へと入る。そして、彼女の顔を正面から見るや否や声を上げた。


「何、してるんですか」

「し、シャン君これはね……」


 後ろ姿では気が付かなかったけど彼女は呑気にも料理を食べていたのだ。もしかして飛ばされた際に記憶でも消されてしまったのだろうか? それとも人違い?


「あの、ルミさんですよね」

「そ、そうだけどほら」


 彼女が指差した先にはボロボロの食器棚があった。


「と、突然ここに来て降りる拍子に壊されちゃったから直すのを手伝ってそれからそのまま帰るのも悪いなって思って、それとね……」


 ……大体事情は分かった、確かにいきなりその状況になると気まずい。人を果物に変える奇術ではなく『すり替え(エクスチェンジ)』だと判明して驚異のランクは下がったものの無一文で知らない街に飛ばされたとかを考えると恐ろしい奇術だ。


「し、シャン君が迎えに来てくれるかなって」


 顔を染めそんなことを口にするので思わず顔を背ける。


「それはズルいですよ、オレが気が付かなかったらどうするつもりだったんですか」

「そ、そうかな……でもトーオにいても名前聞いたお店だし入れ替わりのように無くなったスプーンには名前が彫ってあったみたいだし……何よりこうやって迎えに来てくれたから」

「そ、そうですね」


 ……そんなに信頼してくれていたのか。

 恥ずかしくなり思わず顔を背ける。村人か奇術師が死んだと思っているであろう奇術師のことを報告に行く気になり馬車で向かうという最悪を想定してもあの村には馬車がオレ達が乗って来た1台しかなかったので猶予は1時間はある。彼女は料理を頼んでしまったみたいだからこの際ゆっくり話したかったのもあってオレも料理を注文することにした。


 〜〜

「そ、それでセレンがメ•ロン、フェリーヌが絵に変えられちゃったんだ」

「はい、どちらも持って歩いてると怪しまれるので部屋に置いたままにしていますが」


 コース料理だったようで魚介類や大きな鶏肉の名も知らない料理が次々と運ばれて来るのを急いで食べながら情報交換をする。


「シャン君、それってもしかして凄いことかも」


 とどう言う訳か興奮した状態で彼女が言う。


「それは一体どうしてですか? 」

「だってね、果物に変えるって宣言したのにアタシはスプーン、フェリーヌは絵ってなったなら相当相手は慌ててたって事だよね」

「そうなりますね」

「だとしたら、例えばボリヴィエさんの時の用に命を奪う為の仕掛けを用意していた場所には飛ばされなかったって事だよ、果物じゃないんだから」

「でもセレンはメ•ロンで」

「そこなんだけど、腐った果物を交換せずそのままにしておくような人が高価な食べ物のメ•ロンを置くかなあ? 」


 言われてみるとそうだ、十中八九ドケチな彼女が高価な物を罠の為に置く訳もない、あのメ•ロンは絵とスプーン同様に慌てて頭に浮かんだ場所と物を元にすり替えた物となる

 ……と言う事はセレンも生きている。


「そうですね、置くはずがありませんよね」


 全面的に彼女の推測に思わず彼女の手を握り同意を示すと彼女は先程までの興奮はどこへやら顔を背け言う。


「そ、それならアタシは部屋で2人の場所を探りながら待つよ、だからシャン君はマーシャという奇術師の所に向かって」

「でもオレだけじゃ」

「う、うん、シャン君だけの方が良いの、残念だけどアタシ達が付いて行ってもまた同じことになって足手纏いになっちゃうから」

「そんな事は……」

「ご、ごめんねシャン君無理な事を押し付けて」


 ……まあ確かに『脱出(エスケープ)』ではないとはいえ『すり替え(エクスチェンジ)』で4本の柱に予め置いておいた果物とすり替わる事で逃げ回る相手を仕留めろというのは無理と言えば無理だ。とは言えルミさんが担当すると言ったメ•ロンと絵の場所を特定すると言うのも容易な作業では無いだろう。


「ルミさんの作業に比べれば簡単ですよ、『催眠術(ヒプノシス)』がありますから」


 冗談交じりに口にすると『交信(コミュニケーション)』を開始する。相手はシャノルマーニュ十二勇将の1人のネモさんだ。


『誰ですか私を呼ぶのは』

 ……奇術師のシャンです、すみません突然このような真似をして、ご相談したい事がございまして。

『良いでしょう、まさか奇術師にこのような力があるとは死後も何が起こるか分かりませんな』

 ……実は奇術師と戦ったのですが相手の奇術師がこちらを特定のものとすり替えて飛ばすと言う厄介な事をして来まして、戦局をシャノルマーニュさんの隣で見る事が多かったであろうネモさんに何か対抗策を授けて頂こうかと。

『ふむ、奇術師ですか、アラジジのような魔術師は魔術返しと言われるものを時に使用していましたがそのようなものは使用出来ますかな? 』

 ……試して見ます。

『健闘を祈ります』


 こうして『交信(コミュニケーション)』は終了した。

 ……奇術を返すか、考えた事もなかったな。でも出来るかどうかを試そうにも練習相手がいないからなあ。

 今回に限っては練習の相手も奇術師でないと意味がない、そんな心当たりも無くどうしようかと頭を抱えた時、マーシャを倒すための名案が浮かんだ。

 ……見てろよマーシャ。

 差し出された料理と彼女の姿を重ねると勢いよくフォークで刺し口の中へと放り込んだ。


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