「ビッグク・ラーケン」
船を借りてビッグク・ラーケンが現れたという場所へと舵を取る。
「最悪壊しても良いってことなので船を囮にしましょう」
「良い作戦だとは思うけど、随分と割り切ったな」
「まあ、全壊するとはワタシも思っていないわよ」
「こ、壊される前に倒そう」
「倒したら食べて良いって言ってたから楽しみだな~」
Sランクミッションだというのにこの余裕、非常に頼もしい。
……それならオレはイカ墨パ・スタとか食べたいなあ。いやそれは足と言うより墨部分だから貰えるとは限らないか。
三人に釣られてク・ラーケンを使用した料理について考え始めた時だった。
ドカアアアアアアアアアン!
海底から巨大な白い腕が現れて船が真っ二つに割られる。
「シャン! 」
「了解! 」
「貰った! 」
皆に『飛行術』を駆けると早速セレンが船に出現した腕を切り裂く。
スパッ!
と綺麗に腕を両断された。
「皆、上昇して。来るわよ」
セレンに従い上昇すると自らの腕を斬り裂いたモノを確実に仕留めようという本能か斬られた痛みか海底から水しぶきが上がり全長15メートル程のビッグク・ラーケンが姿を現した。
「あの足の大きさからもしやと思ったけど大きいわね」
「た、多分さっきのは腕だと思う……」
「詳しいねルミ」
「う、うん」
「まあ……器用そうな腕を狙えたのは良かったわ、それで作戦は」
「ま、まずは腕と足を全部斬る、それから頭……かな」
「今回『飛行術』に慣れていないであろうシャノルマーニュ十二勇将の皆には頼れない。ラストルフォさんもここはともかく自由に飛び出すと人目につく可能性もあるからダメだ。オレは上から『ミニミニファイアボール』で頭を狙う。ぶつからないように」
「深追い厳禁ということねオーケーよ」
作戦会議が終了し三人が足目掛けて向かうのに合わせて飛翔すると指を構える。
「当たるなよ、喰らえ『ミニミニファイアボール』! 」
予告通りの頭部目掛けた一撃、冷たい海水に浸かっていたのにも関わらず突然熱の塊で熱されるのはさしずめ真冬に水に浸かっていた所に熱湯をかけられるのに等しい……これだとあまり熱くなさそうだな。もしかして効かない?
威力に不安を覚えたもののビッグク•ラーケンにとっては脅威だったようで足の一本を軌道に挟み防御に走った。
ジュウウウ!
命中した瞬間香ばしい匂いと共に足が縮み小さくなる。
……あっという間に足が一本無くなった、これは予想以上だ。
気が付くと三人もその間に残る手足を斬っていた。
「「「はああああああ! 」」」
三人が三方向から一斉に頭部目掛けて飛ぶ。その姿をみて勝利を確信して腕を下ろした時だった。
……オレさっき何食べたいって言ったっけ?
疑問が頭を過ぎると同時に再び『ミニミニファイアボール』を放つ準備をする。墨の危険があるのはフェリーヌさんだ、彼女を墨塗れにするわけにはいかない、それならば……オレが受けるしかない。
『脱出』を使って三人の前に移動するとク•ラーケン目掛けて『ミニミニファイアボール』を放つと同時に放った墨とぶつかり合った。
ジュウウウと熱が墨を溶かしていく。
「今の内です」
隙を見てフェリーヌさんを突き飛ばし射線から外したその時だった。あくまで『ミニミニ』だったので溶かしきれなかった部分がオレに命中した。
……まさかオレ自身がスクイッドインクになってしまうとは。
「シャン君、よくもシャン君を〜」
攻撃を再開したフェリーヌさん、そしてセレンとルミさんの挟撃もありビッグク•ラーケンは三等分された。
「ごめんねシャン君、ボクのせいで」
ギュッとフェリーヌさんに抱き締められる。
「墨ついちゃいますよ? 」
「良いよ良いよえへへ〜」
「でも伝え忘れたオレのせいみたいなもので……」
「そ、それならアタシのせいで」
「料理で使ったことがあるにもかかわらず警戒しなかったワタシにも責任が……とにかく命に別状はなさそうで良かったわ、シャンは早く海水で落とした方が良さそうね」
恐らくセレンがオレの手を引いて海水寸前まで案内してくれたので言われるがままに海に飛び込むと意外と落ちるもので視界を取り戻すことに成功した。
「はーとにかくこれで一件落着、船は壊れちゃいましたけど帰りましょう」
「そ、そのことなんだけど……アタシ達も鎧を捨てて海に飛び込まないとダメかも」
「どうしてですか? 『脱出』で港まで戻れば平気ですよ、人気のないところはチェックしておきましたから」
「そ、そうなんだけど……ほら、船壊れちゃったから。泳いできたってことにしないといけなくて濡れているのはマズいかなって」
「なるほど、鎧も命がけで港まで泳いだとするには付けていると不自然ね」
「そういうことならえ~い! 」
ザブンとフェリーヌさんが海に飛び込む。続いてルミさん、セレンと続いた。
「もうどんなに頼まれても海でのクエストはごめんだわ」
討伐報告に向かう途中、ぐしょ濡れの服を絞りながらセレンが呟く。
「そうだな」
鈍く輝く勲章と剣を見つめながらそれに全面的に同意した。




