「帰宅」
翌日、オレ達はホーク村の人達を解放すると村長さんにだけ女性が付けていた血だらけで腹のあたりに穴が開いている上着を見せながらそのことを告げると颯爽と馬車に飛び乗りトーオの街へと向かっていた。『脱出』を使えば一瞬で帰ることが出来るのだけれど、それだと御者さんが一人残されることになり奇妙なことになってしまうため止めた方が良さそうだ。
「皆喜んでいて良かったね~」
「ええ、是非顔を見せてと言われても頑なに甲冑を外さないシャンを不思議がってはいたけど」
「外したらオレだとバレて大惨事になっていたからな」
「そ、そういえばあの凹んでいる銀色の甲冑はどうしたの? 」
二つあった甲冑が今は被っている一つしかないことに気が付いたルミさんが尋ねる。
「ああ、あの甲冑は……雪の中に埋めてきました」
御者との間には仕切りがあるため開けない限り声は聞こえないはずだが念のため息を潜めて答える。
「う、埋めたってどうして? 」
「騎士団に連行されるという体でしたからね。どの道死んだと思われるのなら雪崩、あわよくば奇術師と戦って死んだと解釈されたいなと」
「そっか……」
「まあ、奇術師の迫害が無くなったらまた会いに行こうと思いますよ。今度は出来れば四人で」
「そうね」
「う、うん」
「勿論! 会いに行こう! 」
……即答か、皆のためにも頑張らないとな。
三人の顔を見ながら革命のための決意を固めた。
~~
ギルドに戻ると何故かギルド内は大騒ぎだった。入るや否や一人の男性に絡まれる。
「おい聞いたかよ、Sランクのテランさんが"奇跡の会"の四天王の一人を倒したんだとよ」
「テランさん? 」
「おいおいテランさんを知らねえのか、元王国騎士団の最強騎士でよ、このギルド内では最強って言われるパーティを率いてるんだ。新しく入ったスジャータッて奴もセレンに負けないくらいの新人で……てセレンじゃねえか」
男性が飛び上がる、どうやらスジャータと言うのはセレンのライバルみたいな存在らしい。
……それにしてもギルド内最強の称号か、今後のためには手に入れておきたいものだけど、最悪個人戦とかなるとオレ戦えないからなあ。奇術を上手く剣術に応用出来ないかなあ。
「あらどうしたのかしらセレンさん」
考え事をしていると槍を持った黒髪の女性がこちらへと歩いて来る。
「いいえ何でもないわよスジャータさん」
セレンが引きつった笑顔を浮かべる。彼女がスジャータさんのようだ。
「聞いての通りよ、私達のパーティーは噂の"奇術の会"とかいうのの四天王の一人を討伐したわ」
「"奇跡の会"、ね。それにしても奇遇ね、ワタシ達も今その報告に来たところよ? 」
「な、なんですって……でも、たまたま弱いだけだったんじゃないかしら。私達の方は大岩を転がしてくる奇術師が相手で大変だったんだから」
岩を転がすとは恐ろしい戦術だ。『飛行術』を物にかけたのだろうか?
「あの戦いは凄かったわ、テランさんが岩をトー・フみたいにスパッと切り刻んでね、その隙にギガンさんとメガンさんがスパッと切り裂いたのよ」
「貴方は何をしていたのよ」
確かに今の話にスジャータさんの名前は出てこなかったな。
「うっ……四天王なんだから、仕方ないでしょ! そういう貴方こそ何してたのよ」
……回ってたな。
苦し紛れとはいえパーティーのリーダーに対してのこの質問は本来活躍しているセレンには無謀なものだ、ただ今回に限ってはキツイ一撃だったようで彼女は沈黙してしまう。
「ね、ねえ、どうしたのよ? まさか貴方本当に何も……」
「……フェリーヌに雪玉を投げるように指示したわよ! 」
「雪玉? 雪玉って何よ貴方達雪合戦でもしていたの? 」
「うるさいわね、雪玉に混じって剣を投げる作戦だったのよ! 」
何だかんだ上手くオレの事はボカシてそう言う辺り冷静なのか? と思うや否や彼女はバン! と討伐証明の服を置き賞金を受け取ると
「帰りましょ! 」
とオレ達に伝えギルドを出て行った。
「彼女は誰なんですか? 」
慌てて追いかけながら二人に尋ねる。
「分かんない」
「ア、アタシ達と組む前に組んでいた人みたいだけどそれ以上は」
「なるほど」
セレンが角を曲がったのが見えたので同じくそこを曲がる、すると正にそのセレンとぶつかった。
「どうしたんだよ急に」
「ごめんなさい、感情的になってしまったわ」
「彼女と何があったんだよ」
「こっちが知りたいわよ、急に『パーティー解消しよう私は確実に昇り詰める道を選びたいの』だなんて言い出して……」
「本音見てこようか? 」
「別に良いわよ、それならちょっと付き合ってくれない? 飛行をマスターしたいの」
「了解」
「じゃあボク達も〜」
「そ、そうだね。今の内に使いこなせるようになっておいた方が役に立つし」
「今度は足手まといだったなんて言わせないわよ」
と珍しく拳を握りしめメラメラと対抗心を燃やすセレンの姿をみて離れたのはこうやって刺激し合うためではないだろうか、なんて推測をした。




