「復讐の推理ごっこ」
翌日、次回のクエストはマリーさんが行為で取り置きしてくれた対策済みのビッグビッグコ・ウモリだからとルミさんとの研究を休み再び王都を訪れていた。
王都に来た理由は一つ、ドランを嵌めたジーンとか言う女に復讐をすることだ。王の正体が天職商人であることは大きな収穫だが、今あの王は天職が商人の偽物だと言ってもまだ誰も信じない。そのために手頃な所からと復讐を開始するようにした。
とはいえ、手掛かりがあるわけではないので丁度昼時なのを利用して王に呼ばれるくらいなら金を持っているだろうと高いレストランを見て回ると三件目の派手な飾り付けがされた『ティラノスティーニ』という店に彼女はいた。
すかさずに入店、復讐とはいってもこのまま剣を振るう訳にはいかない、相手が王の愛人だからという訳でなく戦士が討伐依頼のない一般人に斬りかかるのは御法度だからだ。だからオレは復讐心を抑えて彼女が一人で占領しているテーブルの椅子に腰かけると精一杯の笑顔で微笑む。
「こんにちは」
「こんにちは、その貸し切りと言う文字が見えませんか? すみません人の言葉を読めない人への配慮が足りなくて」
……なかなかのご挨拶だが引くわけには行かない。
『読心術』を使いながら声をかける。
「申し訳ございません、ジャンと申します。実は私ドランの親友なんですよ。でも彼からの連絡がぱったりと途絶えてしまって……それで貴方がドランの助手の人にそっくりだなと思い何かご存じないかと」
「多分人違いではないかと」
『ドラン、そういえばそんな名前の奇術師もいたような気もするけど覚えてないや、面倒だから帰って貰おう……じゃなかったこいつ今親友って言ったな、と言うことはこいつも奇術師か? 仕事仕事』
……どうやら人違いではないらしい。そして憎いことに仕事熱心なようだ。
「いえ、えーと思い出しました! ドランさんですね。ドランさんの親友と言うことはジャンさんは奇術師の方ですか? 」
「いえ、商人です。彼とは酒場でばったり出会って気の良い奴でしたから、まさか奇術師だとは……」
「そうですか」
『違うのか、ならめんどくさいし死んだって伝えてさっさと帰って貰おう』
「あの実は……」
……「死んだ」と言って追い払うつもりだがそうは行くか! 喰らえ、『催眠術』!
彼女にこっそりと親指を向けて催眠をかける。
「実は私も彼を探していたんです。急に消えてしまってどこに行ってしまったのかしら」
……成功した。
顔に出さずに内心ほくそ笑む。彼女にかけた催眠は二つ、一つはドランの死を忘れ消息不明にすることでもう一つは彼に恋心を抱かせることだ。
「心強い味方が出来て良かったです、実はトーオの街でショーを開いたという情報を掴んだのです。良ければご一緒願えませんか? 」
「是非! 」
オレの誘いに彼女は食い気味に頷く。
……さあ、楽しませてもらおうじゃないか。復讐の推理ごっこを。
~~
薄暗くなった頃にすっかり馴染んだドーオの街に辿り着く、『催眠術』は凄いものでここに来るまでに車内でドランとの思い出話を散々聞かされた。これは結末が楽しみだが、明日はクエストがあるのでそう時間をかけてもいられない。
「そういえば、彼がやったショーは何だったのでしょう、それが分かれば街の人に尋ねたらわかりやすくなるかもしれませんが」
「そうですね」
人体切断ショーもしくは図書館が飛び出すかと思ったら意外な反応が返ってくる。『催眠術』により記憶が変わったせいだろうか? だとするとどこまで変わったのか確かめる可能性がある。
「あの、そういえばお仕事は何をされているのでしょうか」
「仕事、ですか……私はその王様の面倒を見ながら奇術師を処分したりもしています」
「奇術師を? ということはドランも? 」
「え? いえ、そんな……私は彼を愛していますから。彼だけは……別です」
厄介なことになった、こうなると想定していた図書館から人体切断ショーというワードを得て街の人から聞き出すというルートが台無しだ。新しいアプローチを考えなければならない。
「あら、偶然ね。その人は? 」
どうしたものかと考えているとセレンが現れる。マズい時にマズい奴に会ってしまった。何かうまい言い訳をと考えているとジーンが彼女に縋り付く。
「Sランクの戦士様ですよね? ドランと言う奇術師をご存知でしょうか? この街で大きなショーを開いたはずなんですがその後消息がつかめなくて」
「ドランって……確か人体切断ショーで命を落とした人よね」
「ドランが……死んだ? それも人体切断ショーで? 」
「というか貴方あの場にいなかったかしら」
「私が……あの場に……ッ嘘よ、そんなの嘘よ! 戦士だか知らないけどそんな嘘つくのなんてやめて頂戴! 」
「何よ急に、嘘なんて言う訳ないじゃない! というか」
縋り付いてきたのが一転首を掴まれ動揺するセレン、随分いい仕事をしてくれた。でも、オレの名前を出されるのはマズいかもしれない。慌てて「落ち着いてください」と二人の間に入り一つの催眠を解除する。解除するのは勿論、ドランが死んだことを忘れるという催眠だ。
「嘘、ドランが死んだ? 私が殺した? なんで? なんで私が……嫌ああああああああああああああああああああ」
顔を覆い悲痛な叫びを上げる。
「うおえっ……どうして……ひぐっ……ドラン……あぐっ……おええええええええええええええええ」
程なくして叫びは嗚咽に変わり終いには吐き出し何度か吐き終えたその後意識を失った。
「一体これはどういうことなの? 」
「見た通りさ、彼女はドランが大好きだったんだよ。じゃあ病院に連れて行くから後は頼む」
「ええ……程々にね」
「ああ、これ以上刺激しないように優しく運ぶよ」
と体よく後始末をセレンに任せるとジーンを抱える。マクベスの件を見ると恐らく『催眠術』は一度かけてしまえば死ぬまでは解けないのだろう。もしくは彼が徹夜で物凄い頑張っていたというパターンも考えられるけれど今はどっちでもいい。ジーンがドランの名前を街中で叫び騒ぎを起こしたという事実は消えない、そして奇術師を毛嫌いしている王はそんなジーンを許さないだろう。故に最後に手を下すのは王自身だ。
命は奪わなかったものの復讐としてはなかなかのものだと思うがドランはこれで満足してくれただろうか? 交信すれば聞けるのだがまだ本命の王が残っているため止めておこう。
……待っていろよ王、次はお前だ。
憎しみを込めて都の方向を見ると拳を握り締めた。




