「王からの招待」
【王】から招待状を受け取ったオレ達はされるがままに王宮へと参上する。
「よくぞ来てくれた」
玉座の間に着くと大層な玉座に座った小太りの王はそう言いオレ達を迎えた。
「王様の命令とあらば即参上するのが【戦士】の喜びです」
セレンがそんなことを言って王の前に跪く。本来ならここでSランク【戦士】の称号を手に入れたオレは【戦士】ではなく【奇術師】だと正体を明かし民衆の支持を得て革命と行きたい所だったのだが呼ばれた件が【奇術師】が巻き起こしたことに対してなのでそうはいかず屈辱的だが黙ってセレンに倣う。
……とはいえ、オレもこのまま手ぶらで帰るつもりもない。
「よいよい、それで諸君らを呼んだのは他でもない。今回の大規模失踪事件の犯人が【奇術師】だという奇妙な噂を耳にしてな、詳しい報告をして貰いたいのだ」
「はい、犯人と思われるマクベスという男は自分は【奇術師】で『催眠術』で人を操ることが出来ると言っていました。そしてその言葉通りに失踪したとされている大勢の人々を操り我々を襲わせたのです」
……今だ!
セレンの報告に合わせてせめて王がどこまで【奇術師】の事を知っているのかを探るべく『読心術』を発動する。何も知らない王はのんびりと口を開いた。
「なるほど、そんなことが……俄かには信じられんな」
『く、【奇術師】共め余計な事を……そんな力に目覚めたのならばひっそりと自分の周囲の者だけを操って生活をし満足しておけば私の身も安泰だったというのに……どうして兄と言いそう目立ちたがり屋なのだ』
……驚いたな。
余りの事実に驚きが勝ってしまったが段々と腹が立ってきた。この男は【奇術師】の能力を知りつつ自らの保身のためだけに迫害をしてきたのだ。
「ですが、彼はそう」
王の本心を知らないセレンが否定に焦ったのか慌てて反論する。だが、王は言葉では認めずにのらりくらりと躱し最後は「聞き間違いもしくははったりで未知のモンスターが乗り移って悪さをしていたのだろう」等と言って締めくくった。
「他に、気になることはなかったか? 」
王がオレ達に尋ねる、これは絶好のチャンスだ。早速質問をする。
「王様は"奇跡の会"というのをご存知でしょうか」
「知らん。なんだそれは」
『知らん。なんだそれは』
「よく分からないのですが、犯人がそのようなことを仰っていました」
「ふむ、まあ戯言だろう。忘れて良い」
『"奇跡の会"だと……【奇術師】め妙な組織を作りおって、蔑まれながら自らの力に気が付くことなく細々と生きるように積極的な捜索を行わなかった結果がこれか……これは討伐隊を改めて編成せねばならぬな』
……上手くいった、存在さえ匂わせれば口では否定しても食いつくと思っていた。そしてもし再び今回のようなことになれば再び【奇術師】の噂が大きくなる。未知のモンスターなんて誰が信じるものか、信じたとしてもオレが【奇術師】だと名乗りを上げた時に目の前で何か一つ披露して見せれば済むことだ。そして大きくなったところで革命を起こす。いや待てよ、天職であろう王がとんでもない力を持っているかもしれない、そうなると知っておいた方が良いのかもしれない。そうと決まれば嫌でも自らの力を思い浮かべなければならなくなるような質問で誘導して……
「もう一つ宜しいでしょうか? やはり天職が王ともなりますと未知のモンスターの存在といったようなことも一瞬で分かるのでしょうか? 」
「うむ、その通りだ。王には何もかもお見通しだ」
『嫌な奴だ、そんな力があったらとっくに自分の力で解決してるわい。嫌、俺が王だと信じているが故か……それにしても兄の『催眠術』とやらは強力だな。本当は天職商人である俺を王にするとは、こんな事態になるのならば生かしておいても良かったのかもな』
「な、なんだって……いやなんということでしょう」
驚異的な事実に思わず声を漏らしたのを咄嗟に誤魔化す。会話の流れから幸い大事にはならなそうだ。
……しかし、王じゃないばかりか【奇術師】の兄を利用するだけ利用して殺したなんて卑劣な男だろう。
今すぐにでも殴りたいという衝動に駆られるが場が場なので何とか堪える。
「質問は終わりか? それでは今日はこれでお開きとしよう」
『むほほ、それにしてもこの三人の女は顔もスタイルも良いのう。王命でこのまま連れ込んでこれから来る愛人のジーンと共に抱いてやろうか』
……遂にはオレのパーティーばかりかフェリーヌさんにまで手を出すつもりか、許せない。ここで死ね! いやそれはマズいか眠れ! 眠れ!
『催眠術』を練習する時間がなかったことを悔やみながら怪しまれない範囲で『眠れ』と念じながら出鱈目に指を動かす。すると王の身体が突然揺れたと思うと動かなくなった。
「お、王様! 」
慌てて兵士が駆け寄るのを視界に入れながら『読心術』を使用する。
『………』
……心の声がない、もしかして死んだのか! ?
「王様はお疲れである、本日はここまで」
どうやら眠っただけの様で兵士はそう言うとオレ達に土産と金貨の入った袋を渡し追い払った。
「えー、王様眠っちゃったの? 残念」
帰り際、門を通ると甘い声で兵士と会話している一人の女性を見かける。あれが愛人と言う奴だろうかと目を向け思わず金貨の袋を落とした。そのジーンと言う女性は忘れもしないドランの人体切断ショーの時に助手をしていた女性だったからだ。




