「奇術師の噂」
マクベスが意識を失ったことにより人々が糸が切れた人形のようにバタバタとその場に倒れる。
「やったのね」
と駆け寄るセレン達、しかし目の前に倒れている悲惨な姿のマクベスを見て思わず目を背ける。
「悪い、嫌なもの見せちゃって」
すぐさま彼の顔に布を被せる。
……正直オレもエグイなあと思っていたので見えないように配慮するべきだったかもしれない。
「で、でもどうしてこんな状況に? さっきシャン君が放っていたのは照明弾だよね? 」
「そうですけれど、アラジジさんの案で攻撃にも転用出来るようにと炎を混ぜたんですよ」
「それでこの威力なら大成功だね~」
「ええまあ、顔に直撃すれば……はい」
「それよりもどうするのよ、犯人が【奇術師】ってバレて良いの? 」
「それに関してはもう仕方がないな。流石にここまで大勢を巻き込んだら誤魔化せない」
セレンが声を潜めて尋ねたのでもう目覚めている人がいるかもしれないとオレも真似をして小声で答える。何とか誤魔化せないかとかも考えたけれど残念ながら【奇術師】の評判が更に下がるのは避けられなさそうだ。
「そう悲観することばかりでもないんじゃない? 」
「え? 」
「この騒動の犯人が【奇術師】だと一般人が知ったらどうなるかしら? 中には逆に【奇術師】をかつぎ出したて来るのもいるかもしれない。王はそこに先手を打つためにもみ消そうとしてくる可能性もある。そうなると接触の機会が訪れるのではないかしら? そして王が直々に接触をしてきたとなると他の戦士もとい人々も貴方を見る目が変わってくる。悪いことばかりではないんじゃないかしら」
「それもそうだな」
同意を示す、王との接触は前々から望んでいたことだ。でも名を上げるのは半端なばかりか今回の件で【奇術師】の株も落ちた、今オレが【奇術師】だと明かしても民衆が付いてこないからまだ早いと思っていたけれど会ったという事実は悪いものでもないかもしれない。
……とはいえ、セレンの言うようにトントン拍子に進んだらの話だけど。それよりも今は……
地面に視線を向ける、既に何人かの人々が目を覚まし身体を起こしている。それ自体は良いことなんだけれど問題は倒れている犯人らしき男とその男の死因だ。マクベスの顔には剣士ではつけることのできない火傷の跡がバッチリと残されている、まずはこの状況を上手く凌がなければ始まらない。
「貴方方が助けて下さったのですか、ありがとう。犯人は恐らくあいつか、どれ、こんなことをしたやつの顔をうわああああああああああ! 」
考えている間に目覚めた男が早速恐れていた行動をして騒ぎ出す。何かいい方法はないかとセレン、フェリーヌさん、ルミさんを見るが皆首を横に振った。
「あの、あの火傷の跡はどうして……」
……万事休すか、黙っていると怪しまれる。何か言ってしまえ……何でも良い。
「た、松明ですよ」
「松明? 」
「ええ、オレ達は街の中央ですっかり囲まれてしまい端から見ている男に攻撃する手段がなかったもので……戦士ですから! だから相手もこれだけ離れていれば安心だと油断してたのでしょうね、避ける間もなく命中しましたよ。火の部分がバッチリと」
「ああ、そういうことでしたか」
松明の火で顔が焼かれるのを想像したのだろう男が身を震わせる。
「助けていただきありがとうございました。しかし犯人が人間となると一体どうやってこのような力を手に入れたのでしょうね」
「【奇術師】とか言っていましたが」
とぼけて困惑している風を装いながら男の質問に答える。
「【奇術師】? ははまさかそんな」
「ですよねえ」
男が笑い飛ばすのに合わせて笑い返した。
……今はこれで良い、秘密ではなく噂レベルにしておけば広まるのも早くオレ達が王都から警戒されるとしても最小限に抑えられるだろうから。
「門の前に馬車がありますからそれに乗って街へ戻ってこれだけの人数を迎えられる馬車を呼んでください」
「分かった」
男が去ったのを確認すると他の混乱している人たちにも犯人は【奇術師】だという噂を流した。
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クエストを受注した戦士として人質全員を馬車に乗せてから街へと戻る。既に薄暗くなっている街は【奇術師】の話題で持ちきりの様だった。
「シャン君も人気者だね~」
「い、いやこれは人気というより恐れられているんじゃ……」
「今はまだそうでしょうね、あれだけのことをしでかしたんですし」
「ううん、そうじゃなくて【奇術師】を倒したシャン君がって話」
フェリーヌさんがそんなことを言うので耳を顰める。
「【奇術師】? というのも凄いけど、倒した戦士も凄いらしいわよ」
「ああ、松明を投げつけたらしいな」
「松明? それの何が凄いの? 」
「良いか、人形とかに操られていると言っても歩くとかは出来た。つまり本能は目覚めていたんだ、例の戦士はそこに気付いて操られている人でも松明は避けるだろうと投げたんだよ」
「そんなことまで考えていたのね」
……確かに何か凄いことが言われている。
「本当ですね、そこまで考えていたわけじゃないのに」
「まあでもシャン君が倒したって言うのは本当だから」
「そうよ、胸を張ってギルドに入りなさい」
そう言いながらセレンはいつの間にか着いていたギルドの扉を開ける。そしてオレ達に気が付くや否やマリーさんが何かを持ってこちらに走って来た。
「みみみ皆さん、おおお落ち着いてください」
「貴方こそ落ち着きなさい、ほら深呼吸」
「スーハ―……あのですね、先程騎士団から依頼金とそそそれとこちらが」
そう言って豪勢な飾り付けがされている封筒をセレンに手渡す。
「これは? 」
「おおお王宮への招待状です」
「え? 」
……まさかセレンの読み通り王宮への召喚が来るなんて。とはいえ、これはまたとないチャンス、乗らせてもらおうその誘いに。




