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「包囲網からの脱出」

「とりあえずシャンの処遇はともかくとして迎え撃つわよ! ルミ! 」


 とセレンが何やら不吉なことを言った後に耳を指すジェスチャーをして彼女に耳栓を外すように合図を出す。途端にルミさんが耳栓を外しフェリーヌさんと共に迎撃に向かう。

 ……オレも戦わないと、恐らくオレの『読心術(テレパシー)』の取得期間を考えれば知識はあっても直ぐに真似をすることは出来ないはずだ、それなら……


「『召喚(サモン)』出でよ、シャノルマーニャ十二勇将の一人、ボリヴィエ! 」

「お久しぶりです、シャンさん。これは一体どういう状況で」

「皆操られているんです、出来るだけ峰打ちでお願いします」

「畏まりました」


 と答えると彼も迎撃へと向かう。


「何故あの伝説のボリヴィエがここに? そんな奇術を使えるとはシャン、敵となると厄介な……ええい奇術は術者が意識を失えば消えるはず。あの男を狙うのです! 」

「やらせないわよ! 」


 オレ目掛けて向かってきたのをセレンが峰打ちで眠らせる。それを見てマクベスの顔色が変わった。


「見ればどれもこれも気を失わせただけではないですか、この人数をまた掛け直すのは面倒なのに……ええい、もう良いです。皆纏めて殺してしまいなさい」


 マクベスの言葉を合図に彼等の攻撃はより過激なものとなった。


 ~~

 次から次へと来る攻撃を凌ぐことしばらく。


「くっ、限界です。ご武運を」


 そう言ってボリヴィエは光となって消えてしまった。時間が来てしまったようだ。


「どうやらもう限界の様ですね」


 ……しばらくボリヴィエは呼べない、アラジジさんの魔法は殺傷能力が高い。それならば……


「まだだ、『召喚(サモン)』出でよシャノルマーニュ十二勇将の一人、ドナルド」

「ボクに任せて」

「すぐさま二人目ですと……ですがこの数ならば時間稼ぎも可能」


 悔しいけれどマクベスの言う通りだ、四方を囲まれている状況でこちらは峰打ちで手加減しつつオレを守りながら戦っている。ここでドナルドが消えてしまうと未だに『交信(コミュニケーション)』を済ませていない十二勇将を一か八かで呼ぶしかなくなる。

 ……万が一のためにと三人目のドナルドまで協力を得たのは良いけど、その万が一でも足りない状況が来てしまうなんて。

 後悔しても状況は変わらない、何とか切り抜けるしかない、今冷静に判断が出来るのはオレしかいないんだ。

 剣を抜くと角度を意識しながら周囲の様子を伺う。どこもかしこも人ばかり、でも都合の良いことに操れないと知ったマクベスは後退したのか彼の背後には誰もいない。

 ……あそこまでワープできればなあ。

 ふとそんなことを考える。

 ……いや待てよ、試してみる価値はあるぞ。【奇術師】は『脱出(エスケープ)』で瞬間移動をする。それが自由な時出来れば、駄目で元々。


「皆、避けろおおおお」


 ドナルドにも教えていた目を瞑る合図をすると空に照明弾を地面目掛けて放つ、たちまち閃光が辺りに散る。


「うう、何ですか一体」


 操られている人に合わせてマクベスの視界を奪うことにも成功したようで両手で顔を覆い呻き声を上げているのを確認する。


 ……今だ、この集団と言う箱からマクベスの背後と言う箱に『脱出(エスケープ)』!

 一か八かで無理矢理この状況を脱出する奇術に結び付ける。瞬間、オレの身体は何かに引っ張られるような感触と共にマクベスの背後へと移動した。目の前には目を覆い無防備なマクベス。

 ……可哀想だが、この状態で仕留めさせて貰う。喰らえ、まぐれでは避けることが出来ない首目掛けた右から左への一振り。

 重い剣を持ち上げると横に大きく振る、するとマクベスはそれをしゃがんで避けた。


「何をしたかまでは読み取れませんでしたが、ここに来てからは貴方の思考が読み取れますよ。戦士ではない貴方の狙いがバレた剣で私を仕留めるのが早いか視界を取り戻した私の操り人形が貴方を仕留めるのが早いか競争と行きましょうか」


 うっかりしていた、マクベスはオレの感情を読み取れるのだ。そして視力も回復してきているようで以前手で覆われているものの彼の顔はしっかりとオレの方を向いていた。

 ……こうなったらもう一度喰らえ!

 再び照明弾を放つ。でも今度のはただの照明弾ではなく炎を混ぜた『ミニミニファイアボール』だ。


「ほう、ミニミニファイアボールですか? 」


 ……嘘だ、本当はただの照明弾で本命は照明弾を恐れて避けたところを剣で一突きだ。いいやそれこそが嘘だ。

 すぐさま剣を構え動きながら本当の狙いを頭に浮かべてしまったら直ぐに嘘の考えを意図的に思い浮かべる。会話中とかなら意味はないだろうが今は一瞬の判断が必要な戦闘中だ、マクベスにゆっくりと考えている時間はない。


『フフフフフ、そんなことは出来るはずがない。仮に本当だとしても名前通りこーんな拳骨(げんこつ)位の小さな攻撃に当たったからどうなるというのですか』


 『読心術(テレパシー)』によると彼の下した決断は受けるだったようで避けるどころかオレを捕らえるべく距離を詰めようと向かってくる。

 ……それが命取りだった。

 大きさはともかくフライパンの恐らく何倍もの熱が圧縮されたものに自ら突っ込んでいったのだ、そうなると結果は必然。


「あっ熱い! あ゛っあ゛っあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」


 マクベスはこの世の者とは思えない叫びを上げてその場に倒れた。

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