「奇妙な襲撃者」
馬車に揺られること数時間、オレ達は失踪事件の現場であるイナーイの門に辿り着く。門は開け放たれていてそこから広がる光景は情報通りでかなり大きな街にも関わらず通行人は誰一人としていない。
「捜査と言っても誰もいないのでは……参ったわね」
「とりあえずレストランとか行ってみる? 」
「そ、それなら民家の方が……誰かがいるのなら食べ物が残っているはずだから」
「二手に分かれましょうか」
「それは止めた方が良い」
セレンの提案を拒否する。本来のモンスター戦ならSランク戦士が分かれるのはおかしいことでないばかりか最善に近い選択だ。でも今回の敵は恐らくモンスターじゃない。無人の街でのみ失踪事件が起きるということはこの街に犯人がいるということだ、人には話術がある、それで仲間を捕えた等と言われると恐らくセレンは無力化される。いやセレンばかりか優しいルミさんに天使のフェリーヌさんもそうなるだろう。
「どうしてよ」
「相手の正体が分からないのに戦力が分断されるのはマズい」
と直球で伝えると敵を目の前にして気まずくなるだろうから上手くボカシて説明をする。
「ウソね。馬車でのやり取りから人質がいるとワタシが足手纏いになると考えているのでしょう」
セレンがキッパリと言う。
……せっかく気を遣ったのに。
「まあ、そう言うことだ、とはいえあれからオレも何も考えなかった訳じゃない。そうなった場合はオレが『避けろ』って叫んだらフェリーヌさんもルミさんも目を閉じて欲しい」
「どうして~」
「照明弾を放つからです、そうすれば一瞬ですが視界を奪えるのでその隙に人質を救って犯人にトドメを刺してください」
「なるほどね、二手に分かれるとそれは出来ないと」
「そういうこと、それでは余り奥には入らず手頃な建物に入ってみましょう」
と納得ついでに指揮権を得るとそのまま街へと突入しようとしたその時だった。
「う、うわあああああああああああ」
突如背後の御者が大声を上げる。
「何かあったのですか? 」
「人、人が……」
「人? 」
彼の視線を追うとそこにはゆっくりとこちらに向かってくる武装した剣士の姿があった。
「止まりなさい! 」
セレンが剣を構え叫ぶも相手は止まらずにこちらへと向かってくる。
「あー待って、彼女ルリだよ。Aランクの。お~い! 」
フェリーヌさんに言われて見てみると確かにベルトに金色の勲章を付けている気がする。しかし、手を振るフェリーヌさんに手を振り返すわけでもなくこちら目掛けてゆっくりと歩いてくる。
「あれ~違うのかな? 」
としょんぼりするフェリーヌさん。
……しょんぼりするフェリーヌさんも可愛い……なんて考えている場合じゃない。走るわけでもなくひたすら歩いてくるだけというのは何かの罠の可能性もある。こうなったら密かに通行人で鍛えていた『読心術』で……
『…………』
……?
驚愕の結果に頭が真っ白になる、彼女の心は何も考えていなかった。
……どういうことだ、一瞬ならまだしもあの状態で何も考えていないなんてあるのか? オレの『読心術』が未完成で……
「フェリーヌさんこんな時ですが頭の中に1から10000の中から数字を一つ浮かべてください」
「良いよ~」
『4! 』
「4ですね」
「当たり~凄いどうして分かったの~」
……精度に問題はなさそうだ。そうなるとこれは一体どういうことだ?
混乱する頭にオレが色々と奇術をした時に驚いている人々の様子が浮かぶ。
……まさか、オレの知らない奇術か? だとすると糸がつけられた人形のようにただ歩くだけに見える彼女は……
「三人であの人を気絶させてほしい」
「急にどうしたのよ」
「何かの奇術をかけられているのかもしれない」
「【奇術師】の仕業だというの? 」
「ああ、確かめるためにも頼む」
「了解、行きましょう二人共」
三人が相手の所へと向かう、それを確認するや否や相手は突如剣を抜いて素早く振り回す。だが、こちらはSランクの剣士三人、突然の攻撃を身を翻して躱すと素早くフェリーヌさんとルミさんが引きつけている間に素早く背後に回ったセレンが当身をし気絶させた。
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気絶した彼女を馬車に運び待つこと数分、彼女は目を覚ました。
「う~ん、あれ、私は……」
「気が付いたんだねルリ」
「フェリーヌ! ? どうしてここに」
「それはこっちが聞きたいよ~何で失踪なんてしたのさ~」
「失踪? 私が? そんな……私はクエストを受けてパーティーの皆でここに来てそれで……多くの人に襲われて……思い出せない」
『一体何がどうなってるのよ~』
フェリーヌさんの言葉に答える彼女の心は『読心術』で読み取れた。
……面倒なことになった。
「命に別状はないようね……どうなの? 」
「これは【奇術師】の仕業かもしれない」
小声でセレンの質問に答えるオレの頭には"奇跡の会"のマクベスと名乗る男の顔が浮かんでいた。




