「謎の失踪事件」
はれてSランク【戦士】となってから二日後、【戦士】として開店から五分後の九時五分にギルドに到着する。セレンからSランクのクエストは受ける人が限られているため無くなることは無いと言われたけれどそれでも良いクエストは取られてしまう訳で、確保をしに来たという訳だ。
……それにしても開店直後だというのに随分と人が少ないな、何かあったのか? 図鑑で調べたモンスターの討伐クエストを確保したら受注手続きがてら聞いてみるか。
クエストを見比べる。Sランクといえど幾つもの依頼が来ているのは有難い。
……出来れば暗闇が良いな、オレの新戦法が活かせるような。
二日に及ぶ特訓で身につけた攻撃にも使える照明魔法名付けて『ミニミニファイアボール』が活躍できるクエストを探すとビッグビッグコ・ウモリと言うのが目に入った。
……これにするか。
決定して掲示されている用紙に手を伸ばした時だった。
「きゃっ」
「すみません」
誰かの指とぶつかる、前もこんなことがあったなと顔を向けるとそこにはルミさんの姿があった。
「ルミさんどうしてこんなに朝早く」
「シャ、シャン君こそどうして」
「オレはせっかくだから研究の成果が活かせるモンスターを選ぼうかと」
「あ、アタシも。そ、それでシャン君が照明を出来るって昨日話していたからこれがいいかなって」
「考えていることは同じだったみたいですね、ルミさんで良かったです、行きましょう」
と用紙を取り振り返るとそこには……
「あれ~どうしてこんな早くシャン君とルミがいるの~」
フェリーヌさんがいた。
「フェリーヌさんもですか」
「うん、何か良いクエストないかなって、良かった~皆同じだね~セレンもそこにいるからさ~」
「え? セレンも」
「おはよう皆」
言われてフェリーヌさんが視線を向けた人混みから恥ずかしそうにセレンが姿を現す。どうやら皆考えることは同じだったようだ。
「それじゃあ、皆揃ったみたいだから今から行きましょうか」
セレンがそう言って受付へと向かい紙を提出すると途端に受付嬢のマリーさんが紙ではなくセレンの手を掴む。
「セ、セレンさん良かった~助けてください」
「きゅ、急にどうしたのよ」
「実は最近謎の失踪事件が起きていて、イナーイの街の人全員が消えてしまったのです。騎士団が解決しようと動いたようですが騎士団も失踪してしまいギルドに依頼が来たので張り出したのですが、Aランクの【戦士】すら失踪してしまったんです。それでSランクに頼ろうとしたのですが誰も引き受けて下さらなくて……」
「そ、そうそれは……大変ね」
「他のSランクの人、皆、忙しかったり怖かったり色々と言われて断られてしまい……セレンさんしかいないんですよ」
「そう……なの……? ちょっと皆と相談させて頂くわ」
揺らぎ始めた様子のセレン、どうやらああやって頼られるのには弱いらしい。すぐさま振り返るとオレ達にどうするかと尋ねる。
……どうするかと言われても、討伐とかじゃなくて失踪事件で依頼されているってことは犯人がいる訳だろ? それで帰って来ないってことは攫われたのを人質にされて何も出来ずに救出に来たのも人質になるみたいなことが起きているんだろ? どう考えても面倒だしこう言った誘いすら断れないセレンがそんな状況になったら人質になるのは目に見えているからなあ……
「オレは反た……」
「賛成! 人助けになるなら行こうよ~」
「オレも賛成だ、人助けになるからな」
フェリーヌさんの賛成という不可抗力により思っていたことと真逆の事を口にしてしまうけれど仕方がない。
「そ、それならアタシも賛成です」
「皆が賛成なら決まりね、その依頼引き受けるわ」
セレンが判断を下す。こうしてオレ達は謎の失踪事件を受け持つことになった。
~~
「それでセレン、例えばの話だが失踪事件を起こした犯人がいてそいつが人質を使って脅して来たらどうするつもりだ? 」
目的地へと向かう馬車の中で思い切って尋ねる。
「そ、そうね……何よ急に、その時に考えるわよ」
……大人しく投降する気だな。
目が泳いでいる様子を見て確信する。見事に想像通りの反応だ。汚く騎士団から逃げる生活を送っていたオレと違って彼女は綺麗な世界で生きて来たのだろう。考えてみると騎士団ならともかくモンスター戦が主な【戦士】では滅多にないシチュエーションだ。それならそれでそんなセレンに従っているオレもそういう風に見られるので都合が良い、
「変な質問して悪かった、そんな事にはなるわけないか」
と口にしながらも面倒だけれど彼女にはこうして綺麗なままでいてもらって汚いことはオレが引き受けようと決めた。




