「奇術師と魔術師」
ジャンボア・ルマジロの爪を剥ぎ取り荒野を後にすると馬車はすっかり薄暗くなった道を駆け抜け出発時にも立ち止まった街で停車する。
「今から帰っても深夜になるわ、馬の疲労もあることだしここで泊まることにしましょう」
「と、泊まるって……」
「何よ」
御者の人は専門の場所があるだろうから除くとして今この場には男性一人女性三人しかもその中の一人はフェリーヌさんしかいない。このメンバーで泊まるということは……フェリーヌさんの寝顔が見られるということか! ? いやそれどころか寝惚けたフェリーヌさんがオレを抱きしめてくることすらあるかもしれない!
「別に、何でもないさ。それでは御者さん、これはチップです」
「おいおい金貨なんて貰っちまって良いのか? 」
「構いませんよ、長旅に付き合ってくれるのですから。それではまた明日」
やましいことを考えていると悟られないようにクールに振る舞い御者にしばしの別れを告げる。
「それでは宿を探すとしよう、出来るだけ大きい、いや小さい宿が良いかな」
と馬車から降りると三人を先導し宿を探す。
「どうしちゃったのシャン君」
「わ、分からない」
「Sランクになれたのが嬉しいんじゃないのかしら」
背後で三人が何やらヒソヒソと話す中、意気揚々と夜の道を進んだ。
~~
「何でこうなるんだよ! 」
一人やたら広い個室に追いやられたオレは部屋に入るなり誰にも届かぬ叫びを上げる、やはりパーティーと言っても性別による区別は存在するみたいだ。ベッドに横になりふて寝をしようにも困ったことに馬車で眠っていたため眠気もない。
参ったなあ、でもそういえばもうあれから数時間経って良い頃合いか、アラジジさんから魔術? を習って明日驚かせるとしよう。
「『召喚』アラジジさん、お願いします」
「おお、もう呼び出せるのか、信じられん」
呼び出しが成功しすぐさま彼がベッドの前に姿を現す。オレは慌てて立ち上がると彼の手を掴む。
「早速魔術を教えて頂けますでしょうか」
「勉強熱心じゃのう。力になれるかは分からないが良かろう、そうじゃなまずは……どんなことが出来るか見せてもらえるかな」
「はい」
言ってオレは指から水を出したり光を出したり火を出したりして見せる。どれもアラジジさんがジャンボア・ルマジロの時に見せた魔法と比べると威力が心もとなく攻撃には使えそうもない。特に火は前から苦手で水のような勢いでは出せなかった。
「ふむ、光は照明の役割があるからか随分と長く続くようじゃのう。それにしても不思議じゃのう【奇術師】というものは、そこのベッドに横になって少し身体を見せてくれんか? 」
「構いません」
言われるがままに横になる。すると上着をめくり肌に触れた。
「……こ、これは……興味深いのう。【魔術師】の魔力と同じ力が体内に流れておる、しかし使い方は非常に異なっておる……これならば……もう起きて構わんよ」
「ど、どうでした? 」
身体を起こすと恐る恐る尋ねる。
「残念ながら魔術を使うのは無理なようじゃ」
「そうですか」
「じゃがお主には仲間がおる」
「……はい」
……その仲間と前線で共に闘いたかったんだけどな
「そう気を落とすでない、お主に攻撃手段がないと言った訳ではない。特にお主の数メートル先に飛ばせ半刻は持続しそうな光と火を出せるのが素晴らしい」
……自信の無い二つを褒められた。
「お主の光じゃが例えば照明目的ではなく敵に向かって放てば目眩しにもなる。それを仲間と示し合わせておけば隙を作ることが出来るじゃろう」
「でも例えば……相手が人間だったとすると」
「そこで火が生きてくるのじゃよ、どうしてランプが明るいと思う? 」
「火が付いているからですか? 」
「正解、ほれ」
とアラジジさんがテーブルに置いてあったランプに火を付け手渡すのを受け取る。
「どうじゃ? 」
「どう……と言われましても明るいですね」
「それだけか? ちょっとそこのガラスの部分を触ってみなさい」
「あったかい……です」
「それじゃよ、ランプが明るいのは火が熱を光に変えているからじゃ、それと比べてお主の出した光は熱くはない」
「はい」
「それなら熱くすれば良い、そうは思わんか? 」
「そうですね、熱くすればダメージを与えられます」
「そういうことじゃ、さっきは右手の人差し指だけで放っておったな、それならばもう片方の手で火を光に混ぜて放てば良い」
……つまり右手と左手で異なるものを出して混ぜろということか。
「そんなこと出来るのでしょうか」
「理論上は出来る、【奇術師】も【魔術師】も仕組みは似たようなものじょからな」
そういうとアラジジさんは右人差し指に火を左人差しに水を出すと二つを合わせて水蒸気にする。
「場所の都合でこんなものしか手本を見せられぬが、最大のコツは慣れ、じゃな。もう時間のようだからの、頑張るんじゃぞ」
「もうそんな時間ですか、ありがとうございました」
オレの言葉が言い終える前に彼は光となって消える、時間がかかっていたようだ。
ベッドに腰掛け右手から光、左手から火を出し近付ける、配分とかコツがあるのだろう。二つの光は混ざり合うことなく消えてしまった。
「慣れ、か」
呟くとオレは再び火と光を指から出すと近付けた。




