「『読心術』は未完成? 」
翌日、集合場所の戦士ギルドへと向かうと既にセレンは優雅に椅子に腰かけていた。
「おはよう、身体に問題はないかしら? 」
「ああ、バッチリだ」
「それは良かったわ、それなら今日からAランクのクエストへ向かえそうね」
とセレンが言うが二人は未だ来る気配がない。丁度良い機会だ、昨日出会ったマクベスという奇術師が使っていた『読心術』というのを試してみよう。
彼女の向かいの椅子に座ると彼女をじっと見つめる。
「どうしたのよ」
「いや、やっぱりこのパーティーのリーダーにはオレがふさわしいと思うんだ」
「いきなり何を言い出すのよ」
『いきなり何を言い出すのよ』
……おお、声とは別にセレンの僅かに高そうな声も聞こえる。これは成功……なのか? 復唱しているだけに思えるけど。
「ほらこの前のス・パイダーの時の的確な指示を見ただろ? 」
「確かにあの時助けられたのは認めるわ、でもそれだけで指示を任せるというのは無理ね」
『指示を間違えると最悪誰かの死に繋がるのよ。そんなもしかしたら今後も引き摺っちゃうようになるような責任が伴うことを貴方にさせられる訳がないじゃない』
……なんだこれは、他の二人ならいざ知らずセレンがオレの事をここまで大切に考えてくれているはずがない。何かの間違いかオレの理想の反応が返ってくるとかいう都合の良い能力に切り替わったとかじゃないだろうな。
疑っているとバン、とドアが開いてフェリーヌさんとルミさんが入って来た。
「おはよう、セレン、シャン君。二人共早いね」
『おはよう、セレン、シャン君。二人共早いね』
「お、おはようございます」
『うわあああああ、また嚙んじゃったよおおおおおおお』
二人の挨拶と共に心の声が脳内に響き渡る。
……理想の反応という訳でもなさそうだな、オレだったらフェリーヌさんに関してはもっと何か『今日も格好良い』、とか『好き好き~』とか思っていて欲しいけど全く反応が違う。とにかく二人が来たんだ、クエストに向かうとしよう。
「行くぞセレン」
彼女の方を向くと彼女がボーっとオレを見つめていることに気が付く。
『挨拶するシャンも素敵ね。シャンってなんでこんなに格好良いのかしら、好き、好き。でも今は私と彼はパーティーの関係だからこれからどうすればいいの』
何かよく分からない声が耳に入る。
……一体これはどういうことなんだ? もしかするとセレンはオレがこの力を試していると知っておちょくっているのか? 試してみる価値はあるな。
「なあセレン、昨日は何していたんだ? 」
「昨日、昨日は家で休息をとっていたわよ」
『本当は家でSランクモンスターと出会った時に的確な指示が出来るように購入したモンスター図鑑を読んで対策を考えていたのだけれど言わない方が良いわよね』
……どうやらおちょくっているということではなさそうでますます訳が分からなくなる。というかルミさんの恐れていたことが現実になっているじゃないか……仕方ない。
「そういえば昨日、ルミさんと話したんだけど、オレとルミさんでSランクに備えてモンスターを調べようと思うんだけど任せて貰えるか? 」
「は、はい」
『シャン君それ言ったらだめだよ、二人きりで会っていたなんてバレたら……あれ何で私照れているんだろう。シャン君とはパーティーなんだから二人で会うのもおかしくないはずなのにでもシャン君って優しいしちょっと格好いいし』
……何かルミさんに対しても怪しくなってきたな。これやっぱりおかしいんじゃないだろうか。そんなことより今はセレンか。流石にこれを聞いても尚自分がやろうとしていたのならパーティーのためにもこの力を明かしてでも止めさせてもらおう。
と鋭い眼光をセレンに向ける。
「そ、そうね。お願いするわ」
『何よ二人きりでってワタシ何も知らされてないどころか二人でやるってパーティーよりも親密なパーティーじゃない。私もシャンと二人きりで何かをやりたいのに。やっぱりワタシ出会った時とか酷かったから嫌われているのかしら。そんなの嫌よ! シャンに嫌われるなんて。でもあの時のワタシは偏見を持ってシャンと接していたことは事実どうしたら良いのかしら……もう一度心を込めて謝罪をしましょう。それから……それから……』
……もはや恐ろしい何かが脳内に響き渡る。うん、この力はオレにはまだ使いこなせないんだ。何かの間違いに違いない。
そう思い込んでとりあえず心を読まなくて済むようにと人のいない天井を見上げた時だった。
セレンがオレの両肩を掴んでグッと引き寄せる。
「シャン、今までの事本当にごめんなさい。ワタシ貴方と出会うまで偏見を持っていた嫌な女だったわ。それからね、貴方とルミさんにモンスターの研究は任せるからワタシと二人で指揮をしましょう。私達は前しか見えないから後ろからの貴方の視点も必要だと思うの。それと……何か欲しいものとかない? 」
……な、なんか心の声で反省してたやつみたいなのを口にしてきたああああ。未だにそんな前の事を気にしているのか? いや待てということはさっきまでの心の声は全部真実ということに? いやまさかそんなはずはやっぱりこれはどこかおかしい。いやおかしくな……
ボン、と頭の中で何かが弾ける。
「ちょ、ちょっとシャン大丈夫? 」
「大丈夫……じゃなさそうだね。凄い熱! 」
「び、病院に……」
三人が心配する声が遠くに聞こえる。どうやら頭を使いすぎてしまったみたいだ。薄れ良く意識の中で
……この力を身近な人に使うのは止めよう。
と心に決めた。




