「Sランククエストに向けて」
Aランクに昇格した翌日は完全に休息ということで図書館を訪れる。気持ち的には早速Aランクのクエストと行きたい所だったのだが疲れを取らないのに次に行くのは無謀というセレンの判断何より分け前として渡された金貨一杯の袋の説得力に負けたのだ。
……というか一回で安宿なら数年暮らせる辛い稼げるならもう年単位でも良いな。
と一転してクエストを受ける気が無くなった程だ。
そんなだらけたい身体を無理して図書館を訪れたのは他に奇術師の本が無いものか気になったからだった。
「あ、シャン君。おはよう」
「ルミさんじゃないですか、どうしたんですかこんな早くから」
「あ、アタシ読書が趣味だから……」
「そうでしたか、それで何を……ドラゴン? ルミさんはドラゴンがお好きなのですか? 」
「そ、そうじゃなくてね……読書の合間にこうやってイメージトレーニングをしているの。ドラゴン相手にどう戦うかとか。ほら、この前のス・パイダーみたいな事があるから」
「ああ、口から糸を吐く種類がいるなんて予想もしてませんでしたからね」
「そ、そう……だからこうやって調べたりイメージトレーニングしてるの。シャン君は実在したって言われている伝説の竜ガルグイユ、このドラゴンとどうやって戦う? 」
……どうと言われても剣士ではないオレにとってはドラゴンと戦うなんて不可能な無理な話に思えるのだけど。本には更にガルグイユは炎と洪水を吐き出す等という恐ろしいことが記されているし。でも真剣な眼差しを前に無理と一言で済ませてしまうのは申し訳ない。
「炎吐くなら口の中に油投げて爆発を狙うとかですかね」
「す、凄いねシャン君その考えはなかったよ」
「へへ」
お世辞なのか分からないけれどオレなりに考えて出した答えがこう褒められると悪い気はしない。
「そ、それでシャン君はどうしてここに? 」
「何か奇術の本が他にないかと思いまして」
「て、手伝おうか? 」
「良いですよ、本当にあるかも分からないんですから」
「う、うんシャン君の本を探した方が手掛かりになる、と思うから」
「ありがとうございます、それではオレが向こうから行くので反対側からお願いします」
「が、頑張るよ」
強力な助っ人を得て本探しは始まった。
~~
昼までの数時間、本を探すも奇術関連の本は見当たらない。
……まさか
以前人体切断ショーの本を見かけた場所へと向かう。するとそこには何事も内容の同じ本が収められていた。
……これはやっぱりなさそうだな。これ以上ルミさんの邪魔をするのも悪い。
彼女を探し歩く、すると熱心に棚の本とにらめっこしている彼女を見つけ心が痛む。
「ルミさん、もう良いですよ。ありがとうございました」
「そ、そんな。それだったら最後に……ここで待っていて」
そう言うと彼女は一直線に司書の元へと向かう。
「あ、あの……本を探しているのですけど」
「どのような本で」
「き、奇術師の本で」
「奇術師……」
司書の目が変わった。でもそれに対してルミさんは怯まずにAランクを示す勲章を提示する。
「私は剣士ギルドAランクの【戦士】です、【奇術師】の調査のために何か手掛かりはないかと探している次第であります。鑑定士の方にこの勲章が本物か調べて頂きますか? 」
「結構です、【戦士】様でしたか。誠に申し訳ございませんがこちらには奇術師の本のようなものは一冊しかございません。そしてそれを手にした奇術師には不吉な運命を迎えることが約束されていますので【戦士】様の手を煩わせるようなことは……」
「不吉な運命というのはこの間の……」
「ご存知でしたか」
「それならこちらの本を悪用されるということはなさそうですね。お仕事中失礼いたしました」
キリッとした様子でそこまで言うと彼女は礼を言ってオレの所に戻ってくる。
「ありがとうございます、勲章にはそういう使い方もあったのですね」
「さ、最後の手段だけどね。こうして武装していない時も持ち歩いていると色々便利だからってマリーさんに言われて使ってみたの。緊張しちゃったから様になってないかもしれないけど……」
「格好良かったですよ」
「ほ、本当! ? ありがとう」
「それじゃあ今度はオレに手伝わせてください。一緒にモンスター図鑑を見て片っ端から対策を考えましょう」
「う、うん」
ルミさんが元気よく答えてくれるも残念なことにオレの腹の虫が空腹を訴えグーと鳴いた。
「昼食を摂ってからでも宜しいですか」
「う。うん」
こうしてオレ達は昼食を共にした後閉館までモンスターについて調べ尽くした。
~~
図書館を出てすっかり暗くなった道を二人で歩く。
「よ、夜まで付き合わせちゃってごめんね」
「ルミさんこそ、読書の合間なんて嘘ですよね」
「き、気付いてたの? 」
「まあ、うっすらとは……どうしてそこまで? 」
「こ、この前の戦いで迷惑かけちゃったから。それと、セレンにあまり負担をかけたくなくて。ほら、セレンってSランクになってモンスターの研究が必要だと思ったら一人でずっとやりそうでしょ? 」
「だから先手を打ったということですか」
「そ、そんな感じ」
言われてみると第一印象が最悪だっただけでオレをパーティーに加えようとしてからは手を尽くしてくれていた気がする。Sランクでモンスターの研究が必要なんてなったら今すぐにでもやるかもしれない、いや今日も会わなかっただけでしていたかもしれない。仮にそれが負担で倒れられたりするとオレとしても気分が良いものではない。
「じゃあ今度の任務の時に言いましょう、モンスターの研究はオレ達が担当するって」
「え、シャン君も良いの? 」
「勿論ですよ」
「あ、ありがとう」
「家まで送って行きましょうか? 」
「う、ううん気持ちだけ貰っておくよ。今日はありがとう、これからも宜しくね」
ルミさんはそう言うと駆け足で闇の中へと消えて行った。
……それならオレも宿に帰るかな。
と宿へと戻ろうとした時だった。
「シャンさん、宿へ帰る前に、少し私とお話をしていただけませんか」
マントを付けた怪しげな男性に声をかけられる。
「えーと貴方は」
「貴方と同じ、奇術師ですよ」
男はニッコリと微笑みながら口にした。




