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「クエスト達成」

「嘘でしょ」

「つ、強すぎ」

「格好良い~」


 三人が驚きの声を上げる。

 ……いやいや伝説の戦士とはいえ強すぎだろ。

 と呼び出したオレすら唖然としているとボリヴィエさんは空気を読んだか


「いえいえ、私なんてそれほどではございません。今回も皆さんの頑張りに加えて糸が濡れていて位置が分かりやすかったからですので……それでは私はこれで失礼を」


 等と言って姿が消え始めたので咄嗟に


「ありがとうございました」


 と礼を述べると消える間際にオレに会釈をした。

 ……謙遜(けんそん)した上にオレ達の事を褒めるなんて人格者にも程があるだろ。いやこうしている場合じゃない。セレンの指示を待たなかったのだから言われる前に謝罪をしておこなくては。その方が怒りも収まりそうだし。


「セレン、合図待たないで勝手に呼び出して悪かった」


 怒鳴られるのに身構えながら謝罪するも彼女は冷静に剣を鞘に納めながら


「別に構わないわよ、こちらこそ助かったわありがとう」


 と怒鳴るどころか礼を言う姿に面食らう。


「おいおいどうしたんだよ、いつもなら『私の指示を待たないで勝手なことしないでよ』とか言い出すだろうに」

「ボリヴィエさんの件もそうだけど、その前の糸ですら貴方がいなかったら私達は全滅していたかもしれないというのは事実だもの」

「本当はシャン君に格好良いところ見せたかったんだけどね」

「え、Aランクの敵はこれほど強いなんて……か、覚悟していたとはいえ思いもしなかったよ」


 三人とも相当(こた)えたようでそう口にするとその場で固まってしまう。

 ……オレからすれば剣士という天職につけただけで恵まれているという認識だったけど剣士にもこういった才能というか色々と悩んだりすることもあるんだな。

 と妙に親近感が沸く。こういう時オレはそっとしておいて欲しいと思う。でも、それはそれとして……


「いや、オレがいなかったらって言うのはやめろよ、もうこのパーティーの一員だぞ。何勝手に仲間外れにしてるんだよ」

「……それもそうね、ごめんなさい」

「これからも四人で頑張ろうね」

「う、うん、シャン君がいてくれれば本当に心強いよ」


 と四人で決意を新たにした時だった。


「おーい無事だったのか」


 とゾロゾロと数名の剣士らしき人物が姿を現す。


「いや何で無事なんだよ、Aランク昇格クエストを受けてここに来たんだよな」

「ええ、そうですけど」

「いやそうですけどじゃなくて……何で経験豊富なSランクの俺達パーティーが必須のクエストを受けて無事なんだって話よ」

「Sランク? 一体何を」

「貴方達、ギルドの受付のマリーさんからクエストを受け取ったでしょ? 」

「それが手違いで本来私達Sランクの剣士に向けられたクエストだったの」

「それって私達が相手をしていたのは」

「え、Sランク級の」

「モンスターだったの~? 」


 ……何やら凄い展開になって来たな。


「それでこっちの質問だ、何でSランクを相手に生きてるんだ? 」

「それは、え~と……」


 フェリーヌさんが言葉に詰まる。それもそうだ、オレが【奇術師】でシャノルマーニュ十二勇将の一人を呼んだとか言っても信じてもらえるわけがなく下手をすれば連行されてしまうだろう。

 何かうまい言い訳を考えているとSランク剣士の一人が何かを指さして言う。


「もしかして、ビッグとはいえス・パイダーの糸は火で簡単に焼けるということを知っていたの? ほらあの松明」

「ああ、ええ……たまたま。そうよねフェリーヌ、ルミ、シャン」


 ……知らなかった。

 とはいえ、何という怪我の功名。オレ達は何度も首を縦に振る。


「そういうことか、それなら納得だ。無事だったことだし帰ろうぜ」


 と満足したようでSランク剣士は帰って行った。


「あ、危ないところでした」

「でもシャン君は良いの? 名乗り出ても良かったと思うのに」

「良いんですフェリーヌさん、オレには皆といやフェリーヌさんとの……」

「それで剣の勝負とか持ち込まれたら大変でしょ? 」


 株を上げるチャンスだと格好良いことを言おうとすると何故かセレンが大声で被せるように言う。結局フェリーヌさんは「そういうことか~」と納得してしまった。


「セレン、貴様……」

「シャンもはれてパーティーの一員となってくれたようだし私達も帰りましょ」

「おい待て、さっきのアレはなあ」

「ほら松明の火をつけて、先頭歩かせてあげても良いわよ」


 セレンは敵がSランクと聞いて先程のしおらしさはどこへやらな様子で言う。

 ……何はともあれ自信が戻ったのは良いことだ。そのお祝いも兼ねて黙って従おう。

 と決めると言われるがままに火打ち石を叩いた。


 〜〜

「本っ当に申し訳ございませんでした、ご無事で何よりです」


 ギルドに報告に戻るや否やマリーさんが謝罪を述べる、その声が余りにも大きかったのでその場にいた多くの剣士の視線が受付に集まる。


「別に気にしてないわよ、それよりワタシ達のランクはどうなるのかしら」

「それは勿論Sランクモンスターを討伐したとあればSランクでも構いません」

「え、Sランク」

「いきなり二ランクアップは凄いねー」

「なんかわからないですけど良かったですね」

「いえシャンさん、これは凄いことなんですよここのギルド史上最速のSランクになります」


 突然マリーさんが興奮した様子で説明する。


「おい最速でSランクってマジかよ」

「凄いわねあのパーティー」

「ていうかいつの間に男入れたんだ」

「やっぱりあの男相当の手練(てだ)れなのか? 」


 話を聞いていた剣士達の間でざわめきが起きる。そんな歴史的快挙に立ち会えるとはなかなか運が向いてきたというものだ。


「勿論受けるよなセレン」

「いえ、お断りするわ」

「はあ! ? なんで」

「今回はたまたま運が良かっただけで実力では及ばなかったの、だからAランクで経験を積むために今回は見送らせてもらいたいの」

「た、確かにそうかもしれません」

「一理あるね〜」


 意外にも謙虚な対応をしたセレンこれには周りの剣士達も


「見直した」

「意外と謙虚な所あるのね」


 と高評価だった。

 ……というかセレンが高飛車な女みたいなのは共通認識なんだな。

 半ば呆れながらオレも


「そうだな、Aで頑張るか」


 と同意を示す。こうしてオレ達はAランクに昇格することになった。

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