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安息

 イアンの傷の手当をするべく、ランスロットとマリオンの二人掛かりで彼を担ぎ、ランスロットの家へと訪れる。勿論、シーヴァと子供達も一緒に。

「あいたたたたた!!!!染みるー!染みるーー!!」

「イアン、うるさい。子供じゃないんだから、いちいち騒がないでよ。いい年してみっともない!」

 ランスロットの部屋のベッドにうつ伏せで寝かされ、シーヴァに背中の傷を消毒してもらっていたイアンは痛みに悶絶していた。

「お前なぁ……。こういう時くらい優しくしてくれよなぁ……」

 情けない声を出しながらイアンは顔だけを動かし、ベッド脇の椅子に座るシーヴァを振り返る。

「……何て顔してるんだよ……」

「……だって……」

 シーヴァは、切れ長のハシバミ色の瞳に涙を溜め、今にも泣き出しそうな顔をしていた。

 イアンは傷の痛みに耐えながら、ゆっくりと身体を起こしてシーヴァと向き合う。

「……イアンがもし、あの時、命を落としていたら……、私も舌噛んで後を追おうかと……、……むぐっ?!」

 縁起でもない台詞を言うシーヴァを咎めるように、イアンは彼女の鼻先を指で撮む。

「ひゃひ、ふんのひょう……(何すんのよぉ……)」

「お前が馬鹿なこと言うから、お仕置きしてんだよ」

 そう言うと、イアンは更に指先に力を込める。

「いひゃい、いひゃい!ごふぇんひゃひゃい……(痛い、痛い!ごめんなさい……)」

「もう、死ぬとか言わないな??」

「……ひゃい……(……はい……)」

「よし、お仕置き終わり!」

 イアンがシーヴァの鼻先から指を離すと、すぐさまシーヴァが彼の胸に寄り掛かってきた。

「こら、シーヴァ。ここは家じゃないんだぞ。ランスやダニエル(ランスロットの父)に見られたら……」

「……イアンがちゃんと生きてるってこと、確認したいの」

 シーヴァはイアンの左胸に耳を当て、心臓の鼓動を聞き取ろうとする。イアンは細い顎を指でポリポリと掻きながら、天井を仰ぐ。

「ったく……。ちょっとだけにしてくれよ??」

 シーヴァを宥めるように、彼女の柔らかい黒髪をイアンはそっと撫でたのだった。

「……おやっさんには、敵わねぇや……」

 あと少ししたら医者が来てくれる、と、イアン達に伝えに行こうとしたマリオンとランスロットは、図らずも二人のやり取りの一部始終を目撃してしまっていた。

「あの、いつも気丈なシーヴァさんが、おやっさんの前だとまるっきり子供みたいになるもんなぁ……」

 ランスロットが長年シーヴァに想いを寄せていることを知るマリオンは、彼が傷ついてはいないか、内心心配になったが、「でも、想うだけなら、個人の自由だよな??」と、悪戯めいた笑顔を向けられたことにより、「あ、これは大丈夫だ」と、すぐに打ち消した。

 とりあえず、彼らの邪魔をして馬に蹴られたくない二人は部屋から離れ、医者を待つため一旦外へ出る。すると、思いがけない人物が玄関の前に立っていたのだ。

「ハルさん……」

「マリオン……、無事だったか……。って、お前、その顔は……」

「あぁ、これは……」

 家族を救うことで必死になっていたため、マリオンは自身も怪我を負っていたことをようやく思い出した途端、脇腹の激痛を再び感じ、手で抑え込んだ。

「お前……、腹、どうしたんだよ?!」

「……クロムウェル党の手下に散々蹴られて、肋骨がやられたかもしれない」

「はぁっ!?お前、今の今まで、平気そうな顏してたじゃねぇか?!」

「皆を助けるのに必死で……、忘れてた……」

「馬鹿野郎!!!!」

 ランスロットとハルの二人から同時に怒鳴られ、「えぇっ?!だって……」とマリオンはオロオロと狼狽えたのだった。


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