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リュビの嫁  作者: KI☆RARA
リュビの嫁~接近編~
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第2話



 身を引いたベルだったが、自分で決めたものの、それを実行するのはつらかった。誰からも必要とされない自分を、認めなければならないのだ。

(さみしい……誰か……)

 まるですがるように、おじさまのことを考えてしまう。

 おじさまは、ずっとベルのことを気にかけてくれていた。月に一度は必ず手紙をくれて、いつも思いやりにあふれた言葉でベルの心をあたたかくしてくれた。

(なんて都合の良い心だろう)

 おじさまのところへ行かなくなってほっとしたと思ったのに、今度はそのおじさまの存在に救いを求めるだなんて。

 侍女や使用人たちと話すことも増えた。時間が空いたときは、あれこれマイナスなことを考えてしまうのが嫌で、彼らのところへ遊びに行った。だいぶ打ち解け、使用人たちのベルに対する態度も、次第に気さくなものになりつつあった。

 庭で侍女たちと談笑するベルを遠くから見守る使用人頭は表情を曇らせていた。



 数日後、昼ごろから屋敷が慌ただしくなった。なんでも、ジェラール王子の母、リュビ族の王妃が、突然こちらへ立ち寄ることになったらしい。

 現れたのは、いつか見たオレンジがかった髪の美女だった。

「ベルちゃん」

 例によって豊満な胸にぎゅうぎゅうと押し付けられながら、ベルはあいさつをした。

「お、お久しぶりです」

「覚えていてくれて嬉しいわ」

 一度見たら決して忘れられないような美女は、嬉しそうに顔一杯に笑ってベルを解放した。王妃と一緒に来たのだろうか。彼女の後ろを覗き込んだが、他に人はいないようだった。

「ジェラール様は、宮廷にいらっしゃいますが……」

「知っているわ。今日は馬鹿息子じゃなく、かわいい娘に会いにきたのよ」

 息子と言ったか、この女性は。

 まさか、とまじまじと美女を見たが、とてもあんな大きな子供がいるように見えなかった。しかし、その瞳の色と顔立ちは、たしかに王子に似通っている。



 現在の王が王太子だった時代に、彼女もこの屋敷で生活していた。「ここからの眺めが一番好きなの」と、庭園の一角でお茶のテーブルを用意させた。

「ここでの生活はどう?もう慣れたかしら」

「はい、みんなも本当に良くしてくれます」

「ジェラールとはどう?朴念仁で大変でしょう?あの子ったら、本当にリュビ族かっていうくらい、口数が少ないんだから」

 何と答えたら良いのか分からず、ベルは曖昧な笑顔を作った。

 その時、ベルの手からスプーンが落ちた。

 控えていた使用人が拾おうとするのを、ベルはにこっと微笑んで止めた。

「シモーヌ、いいの。自分で拾うわ」

 ベルが拾おうと手を伸ばしたのを見て、シモーヌと呼ばれた使用人が離れようとした。

 そのとき。

「駄目よ」

 王妃は紅茶のカップを口に運びながら「拾わせなさい」とベルに命じた。

「それは彼女の仕事よ。彼女は使用人で、あなたは主人なのだから」

 そしてカップをソーサーに置き、今度はシモーヌに目を向けた。

「あなたも、いくら主人が制したとはいえ、自ら落ちたものを拾わせようとするなんて、何をしているの」

 顔を真っ赤にしたシモーヌが、ささっと進み出てスプーンを拾い、代わりのものをベルのテーブルに置いた。

「ベルちゃん、あなたが上下関係をはっきりさせておかなければ、使用人たちも迷惑よ。勘違いした使用人に同等だなどと思われては、立っていられなくなるわ。あなたに出来ることが自分にも出来ると思って、取って替わろうとする人間が出てくるのは、あなたに隙があるというのも、一つの原因なのよ」

 シン、と場が静まりかえった。

「そんな……でも、本当にそうなんです。わたしに出来ることなら、誰だって……」

 それどころか、自分がここにいる意味すら分かっていない。

 しかし王妃は、ベルをまっすぐに見て答えた。

「いいえ、ジェラールを動かすことなんて、あなた以外の誰も出来ないわ」

(そんな、わたしにだって無理だわ)

 ベルはうつむいた。

 何かを期待されているのは分かる。そうでなければ、こんな破格の待遇は受けないはずだ。自分でも、それに応えたいという気持ちはあるのに、何を求められているのか知らなければ、動きようがない。それが、もどかしい。

(わたしだって、出来ることはしたいと思ってるのに)

 王妃は優しくベルの頭を撫でた。

「かわいそうなベルちゃん。まったく、あの馬鹿息子は何をしてたのかしら」

 視線を下に向けたままの少女を見つめていた王妃が、ふと、口角を引き上げた。赤い唇を開き、誘惑の言葉をこぼす。

「あんな不甲斐ない男なんて捨てちゃえば?わたくしのところへいらっしゃいな」



 ザザ、グシャッ、ボキィ――――!!



 音がした方向に目を向けたベルが見たのは、息を切らせたジェラールだった。彼の足元には、折れた太い木の枝が転がっていた。




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