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『転生したら鎧だったので、自分で動けない。なので呪われた美少女妖精に乗り込んでもらって最強を目指します』  作者: 月影 朔
第1章:忘れられたダンジョン編

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第36話:賭けのライブ・カスタマイズ

(やるぞ、リリア!)


「はい、アルマ!」


 俺たちは、この戦場で俺たち自身の未来を「魔改造」するために。

最後の、そして最大の賭けに打って出たのだった。


 目の前には、死を運ぶ銀色の弾丸。

疾風狼が、その全ての質量と速度を込めて一直線に突進してくる。


 同調率100%の俺たちの魂にとっては、その動きはスローモーションに見える。

だが、それはあくまで思考速度の話だ。

物理的な現実は、何一つ変わらない。


 あの質量と速度の塊を受け止めれば、俺の今のポンコツフレームでは間違いなく壊れてしまう。


(いいか、リリア。

タイミングは一度きりだ!)


 俺は、加速する魂の中で最後の作戦会議を行う。


(俺が奴の突進を受け止めた、その瞬間に《魂装融合》を開始する!

コンマ一秒でもズレたら、俺たちはただの鉄クズだ!)


「承知しております。

あなたの最高のタイミングに、わたくしの魂の全てを合わせますわ」


 リリアの声は、どこまでも冷静で俺への絶対的な信頼に満ちていた。


 そうだ。

俺がやるべきことは、彼女を信じ、そして自分を信じること。


 俺は整備士だ。

壊れたものを直すプロだ。

そして今からやるのは、俺自身の身体という最高にイカしたマシンの、前代未聞の路上修理ライブ・カスタマイズだ!


 俺は、回避も防御もしない。

ただ、両足を砂地の床に深くめり込ませ腰を落とし、全身の関節をロックする。


 ロックリザードから受け継いだ重装甲を、ただの「壁」としてその身に迫る衝撃に備える。


 それは、あまりにも無謀で、自殺行為にも等しい選択。

だが、最高のパーツを手に入れるためには最高の素材に直接触れるしかないのだ!


「グルルルルォォォォォォッッ!!」

疾風狼が、勝利を確信したかのような叫びを上げる。


 その蒼い瞳が、俺の鎧の胸部……リリアがいるであろう中心部を、寸分の狂いもなく捉えている。


そして。


―――ゴッッッッッッッッッッッッッッッ!!!


 世界から、音が消えた。

すさまじい衝撃が、鉄の身体を、そして内なる魂を根こそぎ揺さぶる。


 ロックリザードの甲殻が、ミシミシと悲鳴を上げた。

表面の黒曜石の層に蜘蛛の巣のような亀裂が走り、内部の衝撃吸収層ですら受け止めきれないエネルギーが、俺の全身のフレームをゆがませる。


(ぐっ……おおおおおおおおおっ!)


 声にならない魂の絶叫。

俺の足が砂地の床を深くえぐり、数メートルも後方へと押し込まれる。


 だが。


(……止めた!)


 止めたぞ!

俺の鎧は、その身を砕きながらも疾風狼の必殺の突進を、確かに正面から受け止めてみせたのだ!


 俺の胸部装甲に、疾風狼の硬い頭蓋骨がめり込んでいる。


 ゼロ距離。


 これ以上ない、最高のポジション。


(今だ、リリア! やれッ!!)


「はいっ!」


 俺の魂の絶叫を合図に、リリアが《魂装融合》のスキルを発動させた。


 俺の鎧から、黄金と白銀の霊素の流れがあふれ出し、目の前の疾風狼の身体を包み込む。


 だが、今度の融合はこれまでとは全く違う。

対象は、死体じゃない。

まだ、生きている魔物そのものだ!


「ギ、ギャアアアアアアアッ!?」


 疾風狼が、未知の現象に本物の苦痛と混乱に満ちた悲鳴を上げた。

自身の身体が、霊素が、目の前の鉄の塊に無理やり吸い上げられていくのだ。


 その感覚は、奴の理解を遥かに超えていただろう。

そして、その狂気の魔改造の真っただ中で、脳内にあの無機質なシステムメッセージが、これまでにないほど緊迫した警告を発した。


《警告:対象『疾風狼』の《機構造解析》未完了。解析率82%》


《不完全なデータでの《魂装融合》は、予測不能な拒絶反応を誘発する危険性が極めて高いです。

実行しますか? Y/N》


(うるせえ! Yだ!)


 俺は、魂の全てで肯定の意志を叩きつける。


(整備士ってのはな、時にはぶっつけ本番でやるしかねえんだよ!

カタログの数字だけじゃ、マシンの本当の声は聞こえねえんだ!)


《――了解。

強制融合(フォース・マージ)シークエンスに移行します》


 その声を合図に、俺の身体……特に脚部で、すさまじい破壊と再生の嵐が始まった。


バキバキバキッ!


 俺の脚を構成していた旧式のフレームが、内側からの霊素の流れに耐えきれず激しく砕け散っていく。

装甲が弾け飛び、内部の骨格がむき出しになる。

それと同時に、疾風狼の身体から引き剥がされた骨格の霊素データが、俺の脚部へと強制的に移植されていく。


「ギャアアア……アア……!」


 疾風狼が、自身の骨を抜き取られるというありえない苦痛に身をよじる。


 だが、俺の鎧がその身体をがっちりと掴んで離さない。


 これは、もはや改造ではない。

捕食だ。

俺たちは、疾風狼という最高の素材をその魂ごと喰らおうとしていた。


 脳内に展開されていた、まだ不完全な設計図。

その空欄を埋めるように、疾風狼から吸い上げたリアルタイムの生体情報が流れ込んでくる。


 まさに、ライブ・カスタマイズ。


 無茶苦茶で、行き当たりばったりで、整備士の模範とは言えない邪道の魔改造。

当然、そんなものがすんなりとうまくいくはずもなかった。


《警告:親和性(アフィニティ)低下! 拒絶反応(リジェクション)発生!》


《フレーム構造が、霊素の奔流に耐えきれず崩壊します!》


(くそっ!

やはり、無理があったか!)


 俺の脚部で、二つの異なる霊素が激しく反発し合っていた。


 ロックリザードの「重く」「硬い」霊素と、疾風狼の「軽く」「しなやか」な霊素。


 水と油。


 その拒絶反応が、俺の脚のフレームを内側から破壊していく。

新しくできようとしていた骨格に、無数の亀裂が走るのが視えた。


(ダメだ、このままじゃ……自爆する!)

焦りが、俺の魂を焼き尽くす。


 疾風狼もまた、最後の力を振り絞って俺の捕獲から逃れようと暴れ始めた。

奴の鋭い爪が、俺の顔面を狙って振り上げられる。


 もう、動けない。

脚の換装が中途半端な今、俺はただの動かない的だ。


 ここまでか。

最高の博打は、最悪の結末で終わるのか。


 俺が、全てを諦めかけた、その時だった。


「アルマッ!」


 鎧の中から、リリアの気高い魂の叫びが響いた。


「わたくしの魂を、接着剤になさいませ!」


(リリア!?

やめろ、無茶だ!)


 俺が止めるよりも早く、彼女は自身の魂の霊素を暴走する俺の脚部の霊素回路へと直接流し込んだ。


 それは、暴走する原子炉に冷却材を無理やり流し込むような、あまりにも危険な行為。

下手をすれば、彼女の魂そのものが拒絶反応に巻き込まれて消滅しかねない。


 だが、彼女の魂はひるまなかった。


 その清らかで、しかし何よりも強い白銀の霊素が、反発し合う二つの霊素の間に緩衝材のように割り込んでいく。

そして、二つの異なる力を、無理やり、しかし優しく調和させていく。


(リリア……お前……!)


《警告:搭乗者(ライダー)の魂に深刻な負荷を確認》


《……拒絶反応、抑制を確認。

霊素の流れが、安定化していきます》


 システムの無機質な声が、奇跡の始まりを告げる。

暴走しかけていた霊素の嵐が、嘘のように静まっていく。


 そして、砕け散りかけていた新しい骨格が、リリアの魂という名の最高の接着剤によって再びその形を取り戻し始めた。


 空洞構造の、しなやかで強靭な骨。

衝撃を吸収し、力へと変えるための複雑で美しい関節機構。

俺が脳内に描き出した、あの完璧なサスペンション理論を形にした理想の脚部フレーム。


 それが今、この土壇場で、現実のものとなろうとしていた。


「グルルルルッ!」

疾風狼が、最後の力を振り絞って爪を振り下ろす。


 もう、間に合わない。

そう、誰もが思っただろう。

だが、俺たちの魂はまだ諦めてはいなかった。


 あと少し。

あとコンマ一秒あれば、この換装は完了する。


(間に合わせる!)

俺とリリアの魂が、最後の祈りを込めて叫んだ。


 その声に応えるかのように、新たな脚部の骨格が、カチリ、と。

最後のパーツが収まるべき場所に収まり、完全な形を成した。


 疾風狼の爪が、俺の兜を砕こうと迫る、その寸前。


 果たして、俺たちの狂気の賭けは未来を掴むことができるのか。

それとも、全てを失うのか。


 運命の女神が、ほほ笑むのは……。

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