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『転生したら鎧だったので、自分で動けない。なので呪われた美少女妖精に乗り込んでもらって最強を目指します』  作者: 月影 朔
第1章:忘れられたダンジョン編

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第34話:あなたの速さは、わたくしの翼です

(―――リリアの、騎士だッ!!)


 その魂の絶叫が、分厚いトラウマの氷壁にほんのわずかな亀裂を入れた。


 まだだめだ。

まだ動けない。


 だが、俺たちの絶望はまだ終わってはいなかった。

リリアの魂の祈りが、次なる奇跡の引き金になろうとしていた。


 世界がスローモーションで進む。

振り下ろされる疾風狼の爪が、俺の兜を砕くまでのコンマ数秒が永遠のように引き延ばされていた。


《警告:精神防壁、作動中。機体制御、不可》


《警告:精神防壁、作動中。機体制御、不可》


 脳内で、壊れたレコードのように同じシステムエラーが繰り返される。


 俺の魂は、過去と現在の狭間で必死にもがいていた。

リリアの騎士でありたいと願う心。

だが、また失敗するのではないかと恐怖にすくむ心。


 二つの相反する感情が魂の中で激しくぶつかり、俺という存在を完全にフリーズさせていた。


(動け……動けよ、俺の身体……!)


 魂は叫んでいるのに、鉄の身体は鉛のように重い。

《精神防壁》という名の、俺自身の弱さが作り出した最強の牢獄。

その壁に刻まれた、父の冷たい声。


「お前は、失敗作だ」

その呪いが、俺から全ての力を奪っていく。


 もう、ダメか。

結局、俺は何も変えられないのか。

俺の魂が、再び絶望の闇に沈みかけた、その瞬間だった。


「アルマッ!!」


 鎧の中から、リリアの魂の絶叫がほとばしる。

それは、もはや悲鳴でも願いでもない。

俺の魂を縛り付ける全ての呪いを焼き尽くすかのような、気高く力強い宣言だった。


「あなたのせいではありません!」


(……え?)


 その言葉は、まるで雷のように俺の精神世界に轟いた。

父の幻影が、その言葉の本当の意味を理解できずにうろたえる。


「あなたが追いつけないのは、あなたのせいではないのです!」


リリアの声が、トラウマの氷壁に入った亀裂に쐐を打ち込むように響き渡る。


(俺の……せいじゃ、ない……?)


 そんなこと、一度も考えたことがなかった。

失敗は、いつも俺のせいだった。


 俺が弱いから。

俺がダメだから。

俺が「失敗作」だから。


 それが、俺の世界の絶対的なルールだったはずだ。


 リリアの魂が、さらに強く輝きを増す。

彼女は、俺の魂の最も深い場所に根を張ったその呪いの根源を完全に引き抜くために、最後の言葉を紡いだ。


「追いつけないのは、あなたの脚が遅いからではない!」


 彼女の声は、もはや怒りにも似た気迫を帯びていた。


「わたくしたちが、まだ飛ぶための翼を持っていないからです!」


 そして、彼女の魂が俺の凍てついた心を溶かす最後の真実を告げる。

その声は、どこまでも優しく誇りに満ちていた。


「あなたのその脚は、わたくしをここまで運んでくれた翼なのです!」


(……翼……?)


 その言葉が、俺の魂に染み込んだ瞬間。


 世界が、変わった。


 俺の精神世界で、父の幻影が驚きに目を見開いたまま音もなく崩れ落ちていく。

降り続いていたはずの絶望の雨が止み、分厚い雲の隙間から温かい光が差し込んできた。


 脳内で無限にループしていたシステムエラーの警告音が、ノイズ混じりに歪み、そして。


《……精神防壁のエラーを修正》


《デバッグコード:『翼』を受理》


《……システム、再起動(リブート)します》


――カチリ。


 魂の奥底で、巨大な錠前が外れる音がした。

俺を縛り付けていた、全ての呪いが解けていく。


 そうだ。

俺は、追いつけなかったんじゃない。


 この子は、俺の脚を「翼」だと言ってくれた。

動けない鉄の塊だった俺を、絶望の淵からここまで連れてきてくれたたった一つの希望。


 俺は、この翼で彼女を守り続けてきたじゃないか。


 失敗作?

冗談じゃない。

俺は、彼女の騎士だ。


――その刹那。


 俺の魂とリリアの魂が、かつてないほど深く、そして強く結びついた。


《魂の同調率(シンクロ・レート)、臨界点を突破。100%に到達》


《真の『妖精騎士』が、今、覚醒します》


 現実世界が、再び色を取り戻す。


 目の前には、俺の兜を砕こうとする疾風狼の爪。

だが、もう俺の魂は恐怖に震えてはいなかった。


(……遅いな)

魂が、そう呟いた。


 あれほど追いつけなかった疾風狼の動きが、まるで止まって見える。


 違う。

俺たちの魂が、加速したのだ。


 俺は、もはやリリアの指示を待たない。

リリアも、俺に指示を出さない。

俺たちの思考は、完全に一つになっていた。


 振り下ろされる爪を、ただ避けるんじゃない。

その攻撃の方向、重心、力の流れ。

その全てを《機構造解析》が瞬時に読み解き、最適な「解法」を弾き出す。


 俺は、凍りついていたはずの身体を滑るように動かした。

最小限の動きで爪の軌道をそらし、その勢いを殺さずに受け流す。

そして、疾風狼が体勢を崩したその一瞬の隙を突き、空いた懐へと潜り込んだ。


「グルォ!?」

疾風狼が、信じられないというように驚きの声を上げる。


 さっきまでただの鉄クズだったはずの獲物が、まるで別の生き物のように生まれ変わっていたのだから。


 俺は、反撃はしない。

ただ、流れるような動きで疾風狼の巨体をすり抜けその背後を取る。


 そして、大地を強く蹴り一気に数十メートルの距離を取った。


「…………」


 静寂。


 残されたのは、信じられないものを見る目でこちらを振り返る疾風狼と、静かに、しかし圧倒的な存在感を放って佇む俺たち『妖精騎士』の姿だけだった。


(……はっ。我ながら、見事なもんじゃないか)


 俺の魂に、久しぶりに軽口を叩く余裕が戻ってくる。

さっきまでの絶望が、嘘のようだ。


「ええ、本当に。

まるで、生まれ変わったようですわ、アルマ」

リリアの声もまた、穏やかな光を取り戻していた。


 彼女の魂が、俺の魂の奥底で安堵のため息をつくのが分かる。


(翼、か。ポンコツの鉄の塊に翼とは、詩人だな、うちのお姫様は)


俺が内心でそう茶化すと、リリアがふふっと優しく微笑む気配がした。


「あら、ご不満ですの?

わたくしにとっては、どんな天馬の翼よりも速く力強い、最高の翼ですわよ」


(……悪くない)

心の底から、そう思った。


 失敗作なんかじゃない。

俺は、彼女を乗せて飛ぶための翼。

それだけで、もう十分じゃないか。


 俺は、改めて正面の疾風狼へと向き直った。


 もう、恐怖はない。

あるのは、整備士としての純粋な好奇心と職人としての闘争心だけだ。


 奴は、まだ俺たちの変化を理解できずにいる。

警戒と戸惑いが入り混じった目で、こちらをじっと観察していた。


(なあ、リリア。

さっきまでの俺なら、ここで逃げることを考えていたかもしれない)


「ですが、今は違いますね?」


(ああ。全く違う)


 俺の魂が、喜びに打ち震える。

最高の獲物が、目の前にいる。

最高の素材が、俺を強くしろと誘っている。


(追いつけない、か。

なら、追いつけるようになればいいだけの話だ)


 俺の思考が、完全に切り替わった。

恐怖を乗り越えるための分析じゃない。

より高みを目指すための、進化のための分析だ。


(お前のその速さ……その、しなやかで強靭な骨格……)


 俺は、スキル《機構造解析》を起動させた。


 だが、その目的は以前とは全く違う。

弱点を探るためじゃない。

その「強さの秘密」を、丸裸にするために。


(その、完璧な『設計思想』、丸ごといただくぜ!)


 俺の魂の眼が、疾風狼の銀色の毛皮を透かし、その内部にある美しい骨格の構造を捉え始めた。


それは、これから始まる新たな魔改造の最初の設計図。

俺たちが、本当の意味で「翼」を手に入れるための最初の工程だった。


 疾風狼が、俺たちのただならぬ気配を察し再びその身を低く沈める。


 第二ラウンドの開始を告げる、静かな緊張が洞窟を満たしていく。

だが、もう俺たちの心は揺るがない。


(来いよ、疾風狼。

お前の全てを、俺たちの翼に変えてやる)


 俺は、静かに、しかし確かな覚悟と共に生まれ変わったその一歩を、未来へと踏み出した。

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