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『転生したら鎧だったので、自分で動けない。なので呪われた美少女妖精に乗り込んでもらって最強を目指します』  作者: 月影 朔
第1章:忘れられたダンジョン編

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第22話:ダンジョンからの光

(修理は完了だ。最高の装甲も手に入れた。

……行くか、リリア。このダンジョンの、さらに奥へ)


「はい、アルマ!」


 リリアの力強い返事を胸に、俺は新たな一歩を踏み出した。

その足取りは、もう以前のようなおぼつかないものではなかった。

傷つき、歪み、そして生まれ変わった俺たちの鎧は、確かな重みをもって未来へと続く道を踏みしめていた。

俺たちの、本当の進化の物語はまだ始まったばかりだ。


 ガコン、ガコン、と規則正しく力強い金属音がダンジョンに響く。

ロックリザードとの死闘を乗り越え、その亡骸を最高のパーツとして取り込んだ俺の鎧は、以前とは比べ物にならないほどの安定感を誇っていた。


(いいぞ……この安定感。

まるで足回りを完璧にセッティングしたレーシングカーだ。

前の、ただの鉄板を貼り付けただけのポンコツとは大違いだぜ)


 俺は内心で、生まれ変わった自分の身体に満足げな評価を下していた。

胸部と両肩に融合した赤黒い甲殻は無骨ながらも頼もしい。

全身にずっしりとした重みは感じるが、それは不安を煽るものではなく、むしろ何者にも揺るがないという絶対的な安心感を与えてくれた。


 失敗から学び、二人で力を合わせて確かに強くなった。

その事実が、何よりも俺の魂を強くしてくれている。


「ふふっ、アルマ。

とても足取りが軽やかですわ。

新しいお洋服を初めて着た時のような、そんな弾むような気持ちが伝わってきます」


 鎧の中から、リリアの楽しそうな声が響く。

彼女の魂も、ロックリザードとの戦いで負った傷が癒え、元の輝きを取り戻しつつあった。


(まあな。最高の魔改造を施したんだ、気分がいいに決まってる。

それに、何より……お前が無事だったことが一番だ)


「……!

もう、アルマったら……」


 リリアが照れたように、魂をきらめかせる。

俺たちの間には、もう以前のような気まずい沈黙はなかった。

言葉を交わさずとも思考と感情が自然に流れ込み、混じり合う。

最高の相棒。その言葉が、今の俺たちには何よりも心地よかった。


 ロックリザードが守っていた通路を、俺たちは慎重に進んでいく。

あれだけの激闘の後だ。すぐに次のボスが現れるなんていう鬼畜仕様じゃないことを祈りたい。

幸い、通路は静まり返っており新たな魔物の気配はなかった。


(それにしても……

転生してから、もう一ヶ月くらい経つのか)

俺がふとそんなことを考えると、システムが即座に正確な情報を返してきた。


《転生からの経過時間:32日と14時間22分5秒》


(うわ、ご丁寧にどうも)


 一ヶ月。長いようで、短いようで。

少なくとも、前世で過ごした無味乾燥な一年間よりもずっと濃密な時間だったことは間違いない。

それもこれも、この鎧の中にいる小さくて気高い妖精のおかげだ。


(なあ、リリア。

今更だけど、君のこと、ちゃんと聞いてなかったな。

君は、自分のことをリリア・フォン・ローゼンタールって言ってたけど……公爵令嬢なんだろ?

それって、この世界じゃかなり偉いんじゃないのか?)


 俺の問いかけに、リリアは少しだけ寂しそうな色を魂に浮かべた。


「……ええ。

わたくしの家、ローゼンタール公爵家は代々、豊かな土地と民に恵まれた由緒ある家系ですわ。

父も母も、民のことを第一に考える素晴らしい人でした」


(だった……って、過去形なのか?)


「はい。

……もう、お会いすることは叶いませんから」


 リリアの声に、悲しみの影が差す。

俺は、聞いてはいけないことを聞いてしまったのかもしれないと少し後悔した。

だが、リリアはすぐに気丈な光を取り戻し話を続けてくれた。


「アルマ、あなたはこの世界の災厄についてご存知ありませんわね?」


(災厄?

なんか物騒な話だな)


「ええ。

この世界ヴェステリアは今、『沈黙の魔王』と呼ばれる存在が振りまく呪いに蝕まれているのです」


(魔王……!

やっぱりいるのか、そんなのが!)


 ファンタジーの王道。

俺の魂が、ちょっとだけワクワクするのを抑えられない。

だが、リリアの話はそんな生易しいものではなかった。


「その魔王は、直接世界に侵攻してくるわけではありません。

ですが、その存在そのものが世界に災厄をもたらすのです。

原因不明の病、作物の凶作、そして魔物の凶暴化……。

わたくしの領地も、その呪いに深く苦しめられていました」


 彼女の声は、当時の辛い記憶を思い出すかのように微かに震えていた。


「わたくしは、公爵家の娘として苦しむ民をただ見ていることしかできませんでした。

日に日に痩せ細っていく子供たち、嘆き悲しむ親たち……。

それが、どうしても耐えられなかったのです」


(……それで、君は)


 俺の思考を読み取ったかのように、リリアは静かに頷いた。


「ええ。わたくしは、古文書に記されていた禁断の儀式に手を染めました。

民に降りかかる呪いを、わたくし一人の魂に引き受けるための……身勝手な儀式でしたわ」


(身勝手なんかじゃない!

それは……ものすごく、勇気のあることだ)


俺が心の底からそう言うと、リリアの魂が温かく揺らめいた。


「ありがとうございます、アルマ。ですが、結果としてわたくしは失敗しました。

呪いを一身に引き受けたわたくしは、その強大すぎる力に耐えきれず人の姿を失い、この非力な妖精の姿へと変えられてしまったのです。

そして、気づいた時にはこのダンジョンに……」


 なんてことだ。

民を救うために自らを犠牲にした結果、呪いで姿を変えられこの孤独なダンジョンに封印されてしまったのか。

俺なんて、自分のトラウマに縛られてウジウウジしていただけだというのに。

この小さな妖精は、たった一人で一つの国の運命を背負おうとしていたんだ。


(……すごいな、君は。本当に)


「いいえ。わたくしは無力でした。

結局、民を救うことも自分自身を救うことすらできなかったのですから。でも……」


 リリアの魂の光が、再び力強さを取り戻す。


「でも、あなたと出会えた。

だから、もう一度だけ信じてみようと思ったのです。

一人では無理でも、二人ならきっとこの呪いにも打ち勝てると」


(ああ。当たり前だ。俺が、必ず君を元の姿に戻してやる。

整備士のプライドにかけて、な!)


「ふふっ、頼もしいですわ、わたくしの騎士様」


 俺たちの間に、これまでにないほど強く温かい絆が結ばれたのを感じた。

彼女の目的は、俺の目的だ。

この気高い魂を救うこと。それが、この異世界で俺がやるべき最初の「仕事」だ。


 俺たちがそんな会話を交わしながら通路の奥へと進んでいくと、やがてこれまでの景色とは全く違う光景が目の前に現れた。

ひんやりとした空気が、肌(鎧だけど)を撫でる。

これまでとは違う、微かな霊素の流れの変化。

俺の《共振探知》が、前方に奇妙な「空洞」……つまり振動が全く反響してこない、巨大な空間の存在を捉えていた。


(なんだ……? 行き止まりか?

いや、違うな……)


「アルマ、前方から……光が……」


 リリアの《霊素視》もまた、新たな変化を捉えていた。

それは、今までダンジョンの中で見てきた苔や鉱石が放つぼんやりとした光ではない。

もっと、温かく清らかな、本物の「光」だった。

俺たちは、吸い寄せられるようにその光の源へと向かう。


 そして、通路を抜けた先で俺たちはそれを見つけた。


(……階段?)


 そこにあったのは、下へ、さらに下へと続く壮大な螺旋階段だった。

石を切り出して作られた、明らかに人工的な建造物。

それは、このダンジョンがただの洞窟ではなく、何者かによって設計された巨大な迷宮であることを示していた。


 そして、その螺旋階段の遥か下。

暗闇の底から俺たちが感じた「光」が、まるで誘うかのようにゆらゆらと差し込んできている。


(第二階層……。

このダンジョン、まだ下があったのか)


 俺は階段の入り口に立ち、その遥か下から漏れ聞こえてくる微かな音と光の揺らめきに魂を集中させた。

聞こえるのは、水の流れる音。

そして感じるのは、今までよりも遥かに濃密で湿った霊素の気配。


(なあ、リリア。

この下、何があるか分からねえ。

でも……行ってみるしかねえよな)


 前世の俺だったら、きっとここで立ち止まっていただろう。

未知への恐怖。失敗への不安。

だが、今の俺の魂は恐怖よりも、その先に待つであろう新たな挑戦への好奇心で満たされていた。

リリアの魂もまた、俺の決意に応えるように力強く輝いていた。


「はい、アルマ。

あなたの進む道が、わたくしの道です。

その光の先に、きっと希望がありますわ」


(そうだな。希望、か)


 悪くない響きだ。

俺は、リリアのその言葉を胸に生まれ変わった鎧のその最初の一歩を、暗闇へと続く階段へと踏み出した。


 光が差し込む、その先へ。

俺たちの、本当の冒険が今、始まろうとしていた。

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