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『転生したら鎧だったので、自分で動けない。なので呪われた美少女妖精に乗り込んでもらって最強を目指します』  作者: 月影 朔
第1章:忘れられたダンジョン編

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第20話:魂のシステム

《戦闘データ取得。対・重装甲生物用の戦闘パターンを構築》


 その無機質なシステムメッセージを最後に、俺の意識は深く静かな闇の中へと沈んでいった。

泥だらけで不格好で、満身創痍の、しかし確かな勝利の余韻だけを魂に残して。


 どれくらいの時間が経っただろうか。

まるで深いオイルの海からゆっくりと浮上するように、俺の意識が覚醒する。

最初に感じたのは、全身を苛む軋みと魂そのものが疲弊しきった深い倦怠感だった。


(……生きてる、のか……?)


 ぼんやりとした思考の中、俺はゆっくりと魂の瞼を開いた。

目の前に広がるのは、静寂に包まれた薄暗いドーム状の空間。

そして、その中央に横たわる小山のようなロックリザードの亡骸。


 そうだ。俺たちは、勝ったんだ。


(やった……やったぞ……!)


 勝利の実感が、遅れてやってきた歓喜となって魂を満たす。

あの絶望的な状況から、俺たちは生き延びた。


 だが、その歓喜はすぐに冷たい自己嫌悪の波に洗い流されてしまった。


(まただ……。

また俺は、リリアに無茶をさせた……)


 俺は、自分の身体を見下ろした。

もはや鎧と呼ぶのもおこがましい、スクラップ寸前の鉄屑だ。

左半身は踏み潰されてひしゃげ、背中はブレスで融解している。

全身の関節はガタガタで、今にも分解しそうだ。


 そして何より、鎧の内部で感じるリリアの魂の光が風の前の灯火のように弱々しく揺らめいている。

最後の《共振撃》を放つために、彼女が自身の魂を直接燃料としたせいだ。


(俺のせいだ……。

俺が、もっと強ければ……)


 違う。

問題は鎧の性能じゃない。俺の魂の問題だ。

完璧な計画が破綻した途端、俺はトラウマに呑まれ戦うことすら放棄してしまった。

あのシステムエラーがなければ、リリアがここまで無茶をする必要はなかったはずだ。


(結局、何も変わってないじゃないか……。

父さんの言う通り、俺は……肝心なところで必ず失敗する……)


 せっかくリリアが絶望の淵から引きずり出してくれたのに、俺はまた同じ場所に戻ってきていた。

勝利したというのに、心は少しも晴れない。

それどころか、自分の不甲斐なさに対する後悔と自己嫌悪が鉛のように魂に重くのしかかっていた。


 俺が、再びトラウマという名の泥濘に沈みかけた、その時だった。


「……アルマ」


 鎧の中から、か細くも凛としたリリアの声が響いた。

彼女は、俺の心の揺らぎをいつだって正確に感じ取ってくれる。


(リリア……。

すまない……。俺のせいで……)


「謝らないでくださいまし」


 俺の謝罪を、リリアは優しく、しかしきっぱりと遮った。


「わたくしは、あなたに感謝しているのですから」


(感謝……?

俺が、君をこんなに危険な目に遭わせたのに……?)


「ええ、心からの感謝を」


 リリアの魂の光が、弱々しくも温かい輝きを放つ。

彼女は、ゆっくりと言葉を紡いだ。


「確かに、わたくしたちの戦い方は泥だらけで不格好で、お世辞にも完璧とは言えませんでしたわ。

わたくしも、あなたも、たくさんの失敗をしました」


 その言葉は、俺の心の傷を優しく撫でるようだった。


「ですが、アルマ」

彼女の声に、力がこもる。


「あなたの失敗は、わたくしたちが前に進むための勇気になるのです」


(……え?)


 予想外の言葉に、俺の思考が停止した。

失敗が、勇気に? どういう意味だ?

俺の疑問を読み取ったかのように、リリアは説明を続けてくれた。


「考えてもみてください。

システムが示した完璧な『解法』が破綻したからこそ、わたくしたちは泥臭くとも生き残るための、自分たちだけの道を見つけ出すことができました」


(……!)


「あなたがトラウマという弱さに苦しんでいたからこそ、わたくしはあなたを支えるという自分の役割を見つけることができました。

わたくしの魂を燃やす覚悟ができたのです」


(リリア……)


「そして、あなたが不完全だからこそ……わたくしも、不完全なままでいいのだと、そう思えたのです。

一人では何もできない、か弱き妖精のままでもあなたの隣に立つことができるのだと」


 彼女の言葉の一つ一つが、俺の魂に深く根を張っていた自己嫌悪の根を優しく引き抜いていく。


 そうだ。

整備士の俺なら、本当は分かっていたはずだ。

失敗は、終わりじゃない。

それは、次の成功のための何よりも貴重な「データ」なんだ。

リリアは、それを魂のレベルで俺に教えてくれていた。


「だから、ありがとうございます、アルマ。

あなたの失敗のおかげで、わたくしたちはただの主従でも、騎士と姫でもない……

本当の意味で、二人で一つの『相棒』になれたのですから」


(……相棒、か)


 その言葉が、すとんと魂の真ん中に落ちてきた。

ああ、そうか。

俺は、ずっと間違えていたのかもしれない。


 俺がなるべきだったのは、完璧な騎士でも無敵の英雄でもなかったんだ。

ただ、彼女の隣に立つ一人の「相棒」で良かったんだ。


(……こちらこそ、ありがとう、リリア)

俺の魂から、ようやく心からの感謝の言葉が溢れ出した。


「ふふっ。どういたしまして、わたくしの騎士様」

リリアの魂から、花が咲くような喜びの感情が伝わってくる。

その温かい光が、俺の心の隅々までを満たしていく。


 もう、父の幻影はどこにもいなかった。

俺たちは、ようやく心からこの泥だらけの勝利を分かち合うことができたのだ。


「さて、と。感傷に浸るのはここまでですわよ、アルマ。

まずは、このスクラップ寸前のあなたの身体をどうにかしないと」


(そうだな。

まるで事故車だ。全損扱いで保険金も下りないレベルだぞ、これ)


「ほけんきん……?

とは、何ですの?」


(ああ、いや、こっちの話だ)


 俺たちは、軽口を叩き合えるまでに回復していた。

だが、落ち着きを取り戻したことで俺の頭には新たな疑問が浮かび上がってきていた。

戦闘中の、あの不可解な現象だ。


(なあ、リリア。

戦いの最中、聞こえたか?

あの、機械みたいな声が)


「ええ……聞こえました。

『妖精騎士システム、起動します』、と……。

あれは一体、何だったのでしょう?

あなたのスキルの一種ですの?」


(俺もそう思ったんだが、どうも違う気がするんだ。

俺の《機構造解析》はあくまで俺の思考の延長線上にある。

でも、あの声はもっと……客観的というか、第三者的な感じがした)


 まるで、俺とリリアの魂を外部から監視しているような。

そんな、ぞっとするような感覚。


(それに、俺たちの魂が強制的に同調させられて……

まるで、俺がCPUでリリアがGPUで、それを『妖精騎士システム』っていうOSが管理してる、みたいな……)


「おーえす……?」


(あー……まあ、なんていうか、俺たちの魂が誰かに勝手に乗っ取られていたような感じがしたんだよ)


 俺のその言葉に、リリアも息を呑んだ気配がした。

彼女もまた、同じような違和感を覚えていたのかもしれない。


「確かに……あの時、わたくしの意識はあなた様と完全に溶け合いながらも、どこか俯瞰した場所から自分たちを見ているような、不思議な感覚がございました。

まるで、大きな流れに身を任せているかのような……」


(だろ?

あれは、俺たちの力なのか?

それとも、この鎧自体に何か秘密が……?)


 俺の魂が、この鉄の身体に宿ったのは偶然じゃなかったのか?

この鎧は、俺が転生するずっと前からこの「システム」を内包していた?

それとも、俺とリリアという二つの特殊な魂が出会ったことで、この世界の法則そのものが俺たちに「妖精騎士」という役割を与えたのか?


 考えれば考えるほど、謎は深まるばかりだ。

このシステムは、俺たちの味方なのか?

それとも、いつか俺たちを支配しようとする新たな脅威なのか?


(……まあ、今は考えても仕方ないか)


 俺は、一旦思考を打ち切った。

分からないことをいつまでも悩んでいても答えは出ない。

それもまた、整備士として学んだ教訓だ。

それよりも、今やるべきことがある。


 このボロボロの鎧の修理、そして強化だ。


(しかし、材料がな……。

このダンジョンにある石ころや骨じゃ、たかが知れてるし……)


 俺がそう言って途方に暮れたようにあたりを見回した、その時。

目の前に、最高の「材料」が山のように転がっていることに気づいた。


(……いや、あるじゃないか)


 俺の視線の先には、静かに横たわるロックリザードの亡骸。

その全身を覆うのは、俺たちの攻撃をあれほどまでに阻んだ天然の複合装甲だ。


(最高の廃車……いや、最高のドナーパーツが、目の前に!)


 俺の魂に、整備士としての興奮が再び蘇る。

あの鉄壁の装甲を、俺のこの鎧に組み込むことができたなら……?


 失敗のリスクはある。

だが、俺たちはもう失敗を恐れない。

なぜなら、それは次の成功のための最高のデータになるのだから。


(よし、リリア! やるぞ!)


「ええ、アルマ!

わたくしたちの力で、あなたをもっと素敵に『修理』してさしあげますわ!」


 リリアの楽しそうな声が響く。

そうだ。これは、ただの修理じゃない。

俺とリリアの絆が生み出す、最初の本格的な「魔改造」だ。


(待ってろよ、ロックリザード。

お前のその自慢の装甲、俺たちが最高の形で乗りこなしてやるからな!)


 俺は新たな目標を見つけ、ゆっくりと立ち上がった。

この泥だらけの勝利を、次の力に変えるために。


 俺たちの、本当の進化が今、始まろうとしていた。

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