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Side異世界:そして彼女は一人、また一人と勇者を毒牙に掛けて行く――

 その青年が15歳程度の未成年に若返った姿でその魔術工廠に召喚されたのは、香川県でトラックに轢かれた直後のことであった。


「確か――、俺はトラックに轢かれて――」


(死んだはずなのに――)


 その青年は、あまりの場所の違いに驚く。


 そこは平屋なのだろうか? 屋根はある。茶色い木の屋根だ。


 しかし床は地面がむき出しで、その上に巨大な魔法陣が緑色に鈍く輝いていた。蛍光塗料か何かだろうか?


 その広さは直系にして約100mくらいだろう。


 端的に言って巨大だ。


 まさかここは、ファンタジーの世界なのだろうか?


 あの例の、トラックに轢かれて異世界転移とかいう、お気楽ななろう小説のような展開なのだろうか。


 姿も青年から、中学二年生のような少年の姿に戻っていることも驚愕に値することだろう。


 手を見れば小さく、そして若々しくなっていることに気づく。


 もうそれは、少年と言っても良いだろう。


 そんな少年の目の前に、にこやかにほほ笑む美少女の姿があった。


 その少女の姿は、薄着にローブ姿という、妖艶な魔術師然といった格好であった。


 本来ならばお姉さん系の恰好であるが、それが若い背の小さな少女がすると、コスプレ感がハンパない感じがする。


 だが、その違和感は異世界転移した自分だけであり、この世界ではそれが普通なのかも? と考えなくもない。


「気分はいかがでしょうか? わたしの勇者さま?」


「勇者? 俺が?」


 まさかの展開に少年は喜ぶ。

 まさか、本当に異世界ファンタジーだとでも言うのだろうか?


「キミは? 名前は?」


「わたくしの名前はコリンエステラーゼと言います。勇者さま」


「なるほど、コリンちゃんね」


「勇者さまのお名前は?」


「香川健一かな」


「なるほど。香川さんなんですね」


「ここはどこなのかな?」


「勇者さまを召喚させていただきました王国の魔術工廠ですわね」


「魔術工廠――」


「申し訳ございません。私はこの世界を救うため、異世界で迷惑にならないように異世界で死ぬ直前の人の魂を召喚させていただきました。ここはその勇者を呼ぶための契約魔法陣になります」


「契約魔法陣ねぇ……。もしかして隷属魔法とかも込みだったりするわけ?」


「いえ、そのようなことを勇者にするわけには……」


 気恥ずかしいのか、コリンエステラーゼの声は小さい。


 だがその会話によって、どうやらここは本格的なファンタジー世界であると勇者は確信した。

 この魔術工廠から出れば、剣と魔法の世界が広がっていることだろう。


「えーっと、ここはゲームの世界ですから、『ステータスオープン』と言えば、勇者さまのステータスを確認することができます、よ?」


「お? なるほど」


 少年は言われた通り「ステータス・オープン」と小声でつぶやく。


 するとどうだろう。


 目の前にPCゲームのウィンドウのようなものが開かれるではないか?




名前:香川健一

種族:人族

性別:♂

クラス:勇者(youはSh〇ck)

レベル:110(MAX)

HP:1000

MP:1000

SP:1000

STR:1000

VIT:1000

DEX:1000

MAG:1000

INT:1000

LACK:E

スキル:なし

状態:普通

称号:香川県民、未成年

加護:主神カーキンの加護

保有スキル:

 出前のスーパー


 そのウィンドウには、異世界の文字でステータスが記載されていた。その文字を勇者はすらすらと読める。


 勇者はその状況に興奮する。


 若干、クラスの部分が文字化けしているようにも見えるが、何かかなりチートなものに違いない。


 保有スキルがかなりナゾだが――、そこもツッコミどころだろうか。


「ん? どうされました?」


 少女はウィンドウが見えていないのか、勇者の前で困惑していた。


「コリンさんは、このウィンドウは見えないのかな?」


 勇者はウィンドウをコリンエステラーゼの前に持ってくるが、動じる気配はない。

 完全にそのウィンドウが見えていないに違いなかった。


「人様のステータスは私には見えません。高位の≪鑑定≫スキルが無い限りは見られることはないですね。さらに≪秘匿≫されていれば≪看破≫スキルがないと見ることはできないとされています」


「なるほど。ところで、普通の一般市民のHPはどの程度だろうか?」


「私は今は単なる市民ですのでステータスは見えないのですが、一般男性の平均HPは10程度だと師匠が言っていました」


「なるほどねぇ――」


 そうして勇者はコリンエステラーゼと話す間も、ウィンドウシステムの情報をぽちぽちとクリックしながら確かめていた。

 そんな様子を面白そうにコリンエステラーゼは眺めている。


(これはそう、タブレットだな――)


 操作感としてはタブレットが最も適切な表現だろう。


「あ、そういえば……」


 言いながら、コリンエステラーゼは腰のベルトに付けられたバックに手を掛けると、なにやらハンコのようなものを取り出した。


「詳しい説明はおいおいするとして、まずはこれを肩にチクッとさせてもらって良いでしょうか?」


「なんでしょう? それは――」


「弱い――毒です」


「おぃ!」


 思わず勇者は吹いた。


「さすがに断るだろ! それは――」


 断りを入れたのが予想外だったのか、コリンエステラーゼの声が焦る。


「しかし、規則ですので――」


「規則といったってなぁ――」


「これは、こちらの世界での免疫を確保するためのものです。そちらの世界でもBCGとか、おたふく風邪とか、いろいろな免疫を確保するためにチクッてするって師匠は言っていましたよ? こちらの世界の病は結構厄介なんです。猫耳が生えたり――」


「それを早く言え! 分かった。受け入れる」


 確かに妙な病気になって死ぬのは面白くないと勇者は思う。

 なにしろ、ここは異世界だ。魔法のある世界だとして、魔術に起因する病があってもおかしくはない。

 この勇者が立っている得体のしれない魔法陣からして魔術の産物だ。どのような魔法であろうと、抵抗する手段が必要だ。


「ちょっと痛いですからね? HP1点くらいのダメージが行きます。ヒールで直してもダメですよ。免疫が獲得できなくなります」


「それは多いのか少ないのか――」


 HP1点と言えば、こちらの世界の成人男性の約1割の体力であり、結構重いものがある。


 だが、勇者のHPは1000だ。どうということはない。


 コリンエステラーゼが近づいて、勇者の右腕を掴む。


 そしてハンコのようなものを腕に押し付けた。

 冷たいものが左肩に触れる。



「いたッ――」


「我慢してください――」


 耳元でささやくコリンエステラーゼの声に勇者はゾクゾクした。


 女の子の耳元の声が気持ちいと、勇者は初めて知ったのだ。


システム:コリンエステラーゼの攻撃!

システム:勇者は1点のダメージを受けた。

     (テレッテー、テレッテー♪)

システム:勇者は攻撃を受けることで病気耐性を覚えた。


 そんなメッセージがログウィンドウに流れる。


(攻撃ってなぁ……)


 あまりの微笑ましさに勇者は笑ってしまった。

 改めて勇者はそのステータスを確認する。



名前:香川健一

種族:人族

性別:♂

クラス:勇者(youはSh〇ck)

レベル:110(MAX)

HP:999

MP:1000

SP:1000

STR:1000

VIT:1000

DEX:1000

MAG:1000

INT:1000

LACK:E

スキル:なし

状態:普通

称号:香川県民、未成年

加護:主神カーキンの加護

保有スキル:

 出前のスーパー

 病気耐性Lv1



 確かに耐性スキルが一つ増えていた。

 完全にゲームの世界のシステム処理だ。

 そのレベルは1らしい。もっと強くやってもらった方が良いのだろうか。

 ともかく、コリンエステラーゼが言っていることは本当のことだったのだ。


「なぁ、こちらでそんな免疫があるといことは、俺も簡単には外には出れないということか?」


 予想されることを勇者は問う。


「はい。勇者が異世界の病気を持ち込まないように、1週間はこの魔術工廠で隔離していただくことになります。あの――例えば申し訳ございませんが死因がコロナウィルスだったりした場合――」


「あぁ、なるほど」


 勇者は頷いた。予想通りの解答であった。


 たしかに、世界を救うために異世界に召喚された勇者のせいでコロナが蔓延して世界が滅んだら目も当てられないだろう。


「それだと君も1週間はここから出られない訳だ」


「濃厚接触者ですからね。その間、勇者のお世話をさせていただくことも、私の役目になります」


「お世話ねぇ……」


「きゃッ――」


 勇者はコリンエステラーゼの肩を掴む。

 そして右手をその胸へと当てた。

 いやらしい笑みを勇者が浮かべる。


「あのー、そういうことは夜にしていただければ――」


 コリンエステラーゼは逆らわない。

 逆らうことなどできるだろうか。相手は勇者なのだ。


「え!? いいの?」


「そういうこともコミで、女性である私が異世界三大術式の一つである≪勇者召喚の儀式≫を承っていますので――。勇者さまには良い思いをしていただき、そしてその後は世界を救うため、討伐に励んでいただくと――」


「なるほど。つまりこの世界は討伐のために勇者を呼んだ系といったところか。そして時間的な余裕はまだあると――。最近は召喚する者が悪者系だとか、王女が企んでいるとか、そういうものが多いはずだが、結構王道なんだな…」


「は、はい?」


「いや、こちらの話だ」


「はぁ」


「ではその夜になるまでは何をしてくれるのかな?」


「この世界のありようなどはどうでしょうか? 国の歴史とか、文化とか――、他には魔法の種類だとか――」


「いいねぇ、どんな剣や魔法があるとか俺も知りたいな。ファンタジーのレベルとして銃とかあるのなら、今後の方針も考えないといけないし……」


「銃はありましたよ。何10年か前に召喚された勇者さまが作り出したとか」


「あるのかよ」


「異世界の人の知恵によって文明は発展してきましたから。でも後に召喚された別の勇者によって、『銃はダメだ』というお触れが回って、現在はご禁制の品と言う扱いですね。つまり銃規制です。麻薬と一緒ですね」


「それはいま俺が銃を作っても?」


「さすがに勇者さまでも各国から反対されると思いますが――」


 かつての勇者が銃に対して反対する気持ちも分からないではない。なにしろ剣と魔法の世界だ。それを穢すなど考えられないだろう。


 刀で襲ってきた敵を鉄砲で撃つ。


 それは騎馬軍団の武田軍を長篠の戦いで鉄砲で撃ち殺すのと同じ爽快感を得られるはずだが、それはどうもダメらしい。


 それはネットやゲームを規制されてデジタルデバイド、いわゆる情報弱者が世界に勝てずに無事死んでいくようなもだが、やはり剣と魔法の魅力の方が強いという訳か。古き良き時代だな。


「それから――」


 魔法陣から降りた勇者とコリンエステラーゼと工廠の寮舎と呼ばれる場所に移動して紅茶を啜りながら、楽しい時間を過ごす。


 そして一時間が経過した――








 バーン









 大きな音がして勇者は爆発した。

 なぜなら、香川県民は1日1時間以上ゲームをすることは、香川県ネット・ゲーム依存症規制条例によりこの世界では許されていないからだ。


 ゲームが許されない。すると勇者はどうなるか、その結果がこれだ。




システム:勇者が死亡しました。


システム:コリンエステラーゼは1点の経験点を得ました。


システム:初回勇者討伐特典:100、000、000の経験点を獲得しました。


システム:初回JOB使用討伐特典:20、000、000の経験点を獲得しました。


システム:JOB経験値が一定以上に到達しました。

 コリンエステラーゼがレベルアップしました。

 コリンエステラーゼのレベルが80になりました。


システム:コリンエステラーゼは≪勇者殺し≫の称号を得ました。

システム:コリンエステラーゼは≪強者単独撃破≫の称号を得ました。

システム:コリンエステラーゼは≪ジャイアント・キリング≫の称号を得ました。

システム:コリンエステラーゼは≪隠蔽≫により≪勇者殺し≫の称号を隠蔽しました。




 ――対象が死んだとき、彼に直近で最もダメージを与えた人に経験点が与えられる。

 こちらはゲーム世界であるシステムの理だ。


 コリンエステラーゼは1点のダメージを与え、勇者を倒した。


「これをあと10人――」


 満足そうにコリンエステラーゼは頷く。


 コリンエステラーゼは自身に経験が集まっていくのを感じた。さすがは勇者だ。一人討伐しただけでレベル80となっている。売春婦のスキル≪魅了≫はうまく効果しているようで、討伐による経験点だけでなく、クラス補正による経験点も追加されている。破格といっても良いほどの経験値量だ。

 それに単独撃破などの称号特典もある。称号がある状態で行う行動には今後補正が付くのだ。討伐はよりやりやすくなるだろう。


 だがカンストするまでの先は長い。レベルが上がるにつれ、要求される経験点は多くなっていく。


 その頬は勇者の血で赫く染まっていた――

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