ゲーム世界の最強チートな勇者vs香川県ネット・ゲーム依存症対策条例(4)
勇者の周りには大きなクレーターが広がっていた。
時間は≪時間停止≫していたから午後5時半から変わらない。
だが、街は跡形もなくなっている。
(なぜだ……)
1日経過する間に、なぜ街が滅びなければならないのか。
またGMコールを勇者はしそうになったが、勇者は寸前になって手を止めた。
どうせろくな解答が返ってくることはないだろう。
そこで勇者は、≪鑑定≫スキルを使用する。
(ソニックブームだと……)
その破壊の正体はソニックブームだ。
音速を超える超音速で飛行する物体が上空を通過した際に衝撃派が発生する現象だ。
≪時間停止≫した後、≪高速移動≫を行ったのだ。
その移動速度は一瞬で100kmを超える。
例えそれが1秒だとしても、その速度は100km/秒である。
どれだけ恐ろしい衝撃派が発生するのか、その結果がこれだった。
街にあった家々は粉々で、跡形も残っていない。
あるのは、クレーターと、その上に広がる瓦礫の山……。
(ともかく移動しないと……)
勇者はその現象に恐ろしくなり、とにかく次の街へと移動する。
1時間に1度爆死しながら。
その足は遅く、次の街にはなかなかたどり着けない。
街と街の距離自体が、自体がファンタジーよろしく何日もかかるのだ。
それに勇者は土地勘がなく、どこに行けば次の街に着くのか分からない。
完全に運任せなのだ。
勇者は次の街に辿り着けることなく、そして午後10時に到達した。
バーン。
何度目かの爆発がおきる。赤い花火だ。
さて、ネット・ゲーム依存症対策条例にはこんな条文がある。
〇第18条2項
保護者は、前項の場合においては、子どもが睡眠時間を確保し、規則正しい生活習慣を身に着けられるよう、子供のネット・ゲーム依存症に繋がるようなコンピュータゲームの利用に当たっては、1日当たりの利用時間が60分まで(学校等の休業日にあつては、90分まで)の時間を上限とすること及びスマートフォン等の利用にあたつては、義務教育終了前の子どもについては午後9時までに、それ以外の子どもについては午後10時までに使用をやめることを目安とすることともに、前項のルールを順守させるよう務めるものとする。
つまり、保護者は午後10時までにゲームをやめされなければならい。
たとえ勇者が、≪死んでも1日で復活≫スキルを有していたとして。
午後10時の24時間後は、午後10時である。
保護者は午後10時までにゲームをやめされなければならい。
勇者は毎日午後10時に復活し、そして死に続けることになる――
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条例では「務めるものとする」という記載がある。
この「務めるものとする」というのはどういう意味を持つのだろうか。
「務めるものとする」という文言は努力規定のことをいう。
要は、務めさえすれば、どれだけ子どもがネット・ゲーム依存症になろうともしったことではない。
しかし、行政はこのような法律を作るくらいだ。
ネット・ゲーム依存症対策には予算が付けられ、毎日、毎日、保護者に対して努力義務を課してくることだろう。
行政は家庭の事業に介入したくてたまらないに違いない。そして自分の価値観を条例によって押し付けるのだ。
その努力の種類にはどのようなものがあるだろう。
それは、輝かしい条例に対して、「なんと素敵な条例なのでしょう。これで子どもがネット・ゲーム依存症にならなくて済みました―」などという素晴らしいコメントが、偉大なる地方新聞に載ることに違いない。
誰がその文章を創作するかは分からない。
香川県ネット・ゲーム依存症対策条例に対する賞賛の声は、さざ波のようにマスコミ等を通じて世界へと広がっていくのだ。
「ネット・ゲームをしなくなって頭の痛痒がなくなりました」
絶対に子どもが書くような文言ではなく、難しい漢字が使われていても、香川県民の子どもはそれだけ優秀だという意味に返されるだけである。
「依存層の対策、素晴らしいと思います。(取り上げたので)子どもがゲームをしなくなりましたー」
同じようなコメントが複数並んでいても、それは県民性ということで理解されることだろう。
パブリックコメントという前例がある。あれは一種のお遍路さん的なものだ。
議員さんが許されて教育委員会や、地方新聞が許されないなんてことはないに違いない。
香川県ですらそうであるに違いないのだ。ならば――
その悪の根源たるネット・ゲーム世界ではどうなるというのか?
女神カーキン、自身の異世界ゲームでの保護者としての『努力』が、始まるのだ。
そんなにネット・ゲーム依存症が嫌ならば現代世界をゲームで満たし一時間を経過させれば依存症の子どもたちなど簡単にーー




