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それは絶対的能力の代償  作者: 山本正純/村崎ゆかり(原作)
第八章 アソッド編
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第七十ニ話 遅刻

 待ち合わせ場所へと向かうため、クルスが商店街を駆け抜ける。

 それから三分後、クルスは待ち合わせ場所である商店の前で立ち止まった。その店の前では銀色の髪を腰の高さまで伸ばした幼女が立っている。

「先生。ごめんなさい。約束の時間を十三分程オーバーしてしまいました」

 クルスは、店の前に立つ幼女、アルケミナに謝った。

「遅い」

「こうやって謝っているでしょう」

 クルスは改めてアルケミナに頭を下げる。だがアルケミナは、淡々とした口調でクルスに声を掛けた。

「この十三分間は退屈だった。やっぱり待つのは嫌い」

「だったらファンショップに探しにくればよかったのではありませんか」

「私は待つよりも足止めされる方が嫌い。クルスを探すためにファンショップに行けば、足止めされる可能性が高い。それに待ち合わせ場所を離れたら、すれ違う可能性も出てきて、それでまた時間が無駄になる。それも嫌い」


「今度は時間に遅れないように気を付けます」

 アルケミナはクルスの真剣な顔を見て、言葉を返す。

「それが正解。ところで聞き込みの成果はあったのかを教えて」

「はい。アルカナさんらしき女性がシルフにあるカフェで働いているようです。詳しい店名は分かりません。それとブラフマさんらしき髪を逆立たせた男がルクリティアルの森で狩りをしていたという証言も得ることができました。以上です」

「十三分待たせて、それだけの情報しか得ることができなかったということ」

 クルスはアルケミナに事実を突き付けられ、弁明する。

「ファンショップにいる人々に聞き込みをした結果がこれです。五大錬金術師の行方は、マスコミですら分からないんです。これだけの収穫があっただけでも奇跡ですよ」

「確かにそうだけど、十三分待たせておいて不確かな情報しか得ることができなかったというのが許せない」

「仕方ないでしょう。EMETHシステムの不具合で、五大錬金術師たちを含んだ十万人の被験者たちの身体や精神が著しく変化したのですから。ある者は幼児化。ある者は性転換といった具合に。どんな風に変化したのか分からない状況だから、不確かな情報しかなくて当たり前なんです。ここは一つずつ不確かな情報を検証しましょう」

 クルスの意見を聞き、アルケミナが納得した。

「そう。今からルクリティアルの森に行く」

 アルケミナが唐突に目的地を告げ、クルスが慌てる。

「先生。今からですか」

「サンヒートジェルマンとルクリティアルの森は目と鼻の先。今から行けば日が沈むまでに森を抜けることも可能。もちろんブラフマを森の中で探す時間も考慮してあるから大丈夫。最悪の場合は、森の中で野宿すればいいだけの話。森を抜けた後はシルフに向かう」

「分かりました。行きましょう」

 アルケミナはクルスの言葉を待っていたかのように小さく頷き、森へ向かって一歩を踏み出した。

 


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