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それは絶対的能力の代償  作者: 山本正純/村崎ゆかり(原作)
第八章 アソッド編
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第七十一話 アソッドとブラフマ

 数日前、アソッド・パルキルスは見慣れない森の中を歩いていた。

 道なき道に咲く草花や大木の葉っぱが風で揺れる。東の方向から吹く風は、アソッドの前髪さえも揺らした。

 涼しい風を感じつつアソッドは天然の道を歩く。彼女の表情は暗かった。

 その顔付きからは強い不安を感じることができる。分かっていることは、アソッド・パルキルスという自分の名前とテルアカという言葉だけ。

 想像を絶するような不安に襲われた彼女はため息を吐き大木の前で立ち止まる。

「テルアカ」

 アソッドは何度も自分のことを知る手がかりと思われる言葉を呟く。


 すると、西の方向から少女の声を聞きつけ、一人の男が現れた。

 逆立った緋色の髪に吊り上がった目が特徴的な高身長の男は、少女に歩み寄りながら声を掛ける。

「テルアカって言わなかったか? 」

 突然現れた男が問う。それからアソッドは男と顔を合わせた。

「テルアカについて、何か知っているのですか? 」

 アソッドが聞き返すと男は逆立った自分の髪に手を置く。

「五大錬金術師の一人、テルアカが近くにいるのかと思ったが、間違っていたらしいの。ところでお前、随分とルクリティアルの森を舐めているようじゃな。見た所錬金術に使う槌を所持していないようじゃが。あれがないとこの森を抜けることはできんよ。森林浴のつもりだったなら話は別じゃが」

「五大錬金術師」

 アソッドは聞きなれない言葉に首を傾げた。

「錬金術研究の第一人者として世間から崇められている存在じゃ。そいつらのブロマイドは人気で、熱狂的なファンはそれを集めているらしいおい」

「ブロマイドって」

「簡単に言えば写真のような物じゃ。それが欲しかったら、森を抜けた先にあるサンヒートジェルマンって街に行けば良い」

「教えていただきありがとうございます」

 アソッドは頭を下げ、男の元から去ろうとする。だが男は彼女を呼び止める。

「待て。聞こえんかったのか。そんな軽装で森を抜けるのは危険じゃ。それにこの森は結構入り組んでいるから、地図がないと脱出は困難。危険な人食いモンスターさえ住み着いている。サンヒートジェルマンに向かうんじゃったらこれを持っていけ」

 男はアソッドに二本の槌を渡す。男がアソッドに手渡したのは茶色い槌と赤色のレンガ模様の槌だった。

「茶色い槌を叩けば、森の地図が出てくる。煉瓦模様の奴は護身用。万が一モンスターと遭遇しても、それを使えば撃退できる」

「これを受け取ってしまえばあなたが困るのではありませんか」

「わしは大丈夫よ。他にも槌は持っておるし、予備の地図もある。お前とは経験や才能が違う。俺は最強だ」

 男が自信満々に答えると、アソッドは微笑み返した。

「ありがとうございます。あなたとはまた会えるような気がします」

「そうか。わしはしばらくこの森で狩りを続けておるから、また森に戻ってきたら会えるかもしれんの」

 アソッドは逆立った髪が特徴的な男に頭を下げる。そして男から受け取った槌を握り、森を歩き始めた。

 それからアソッドはサンヒートジェルマンで働き金を溜め、テルアカのブロマイドを購入した。

 

 その話を静かに聞いていたクルスから、アソッドが離れていく。

「それではまたどこかでお会いしましょう」

 アソッドが言い残し、ファンショップから立ち去った。

 アソッド・パルキルスと名乗る謎の記憶喪失少女。その不思議な雰囲気を持つ彼女が気になったクルスは、ふと時計を見る。

 約束の時間を既に十分程オーバーしている。

 その事実を知りクルスの顔が青ざめた。

 約束の時間を破ってしまったクルスは慌てて、ファンショップから去った。


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