第七十話 アソッドとクルス
クルスは最後にテルアカの熱狂的なファンの少女に全てを賭ける。
その少女は交換会終了後も帰ることなく、赤面しながら、ファイルに収集されたテルアカのブロマイドに見とれていた。
「すみません。少しいいですか?」
クルスは静かな足取りで少女に歩み寄りながら尋ねた。
「いいですよ」
「実は今、テルアカさんを探していまして。熱狂的なファンと思われるあなただったら、彼の居場所が特定できるのではないかと思いました」
「そうですか」
「率直な話。テルアカさんの居場所を知っていますか?」
その質問に少女は途惑う。
「ここに立ち寄るのではないかと思う場所。ファンの間で隠れ家と思われる場所。どこでもいいのですが、心当たりはありますか? 」
クルスは質問を変えて少女に聞く。
「ごめんなさい。私には分かりません」
その少女が頭を下げる。
「こちらこそ変なことを聞いてごめんなさい」
クルスも頭を下げると、少女の口が開いた。
「ところでなぜテルアカ様を探しているのですか? 」
少女からの唐突な質問にクルスは少女と視線を合わせながら答えた。
「僕もテルアカさんのファンなんですよ。だから彼が一か月以上行方不明だと知って、どこで何をやっているのかが気になったということです。好奇心ですね」
「行方不明」
少女が突然呟く。そのことが気になったクルスは首を傾げる。
「テルアカさんはEMETHプロジェクトの一件を受けて行方不明になったのですが、知らなかったのですか?」
「はい」
少女が小さな声で答える。その瞬間、クルスの脳に疑問が浮かんだ。なぜこの少女はテルアカが行方不明になったことを知らないのか。
五大錬金術師があの一件以来行方不明になったことは、周知の事実である。それを知らないということは、報道に無知ということなのか。
何も分からないクルスは少女の言動に戸惑う。するとその少女が彼女に声を掛けた。
「ごめんなさいね。私はテルアカ様の熱狂的なファンではありません。ただ私の真っ白な頭の中に、テルアカという名前があったから彼について調べているだけなのです」
「真っ白な頭って、記憶喪失ですか? 」
クルスが尋ねると少女は静かに首を縦に振った。
「そうです。覚えているのは、アソッド・パルキルスという私の名前とテルアカ様の名前だけ。それ以外は何一つ分かりません。だからテルアカ様は私のことを知る唯一の手がかりなのです。だから私は働いて手に入れたお金を使って、限定イラストのガチャを引いて、彼のイラストをコンプリートしようと思っています。この店のテルアカ様のブロマイドは全て入手しましたので」
「なるほど。そういうことでしたか」
「私のつまらない身の上話を聞かせてしまってごめんなさい」
アソッドはクルスに背を向け、自動ドアの方向へ一歩踏み出す。
「記憶が戻るといいですね」
クルスは去り際のアソッドに声を掛けた。その彼女の声を聞きアソッドはクルスの顔を見て優しく微笑み返した。
「ありがとうございます。あなたとはまた会えるような気がしますよ。そういえば再会できると感じたのはあなたで二人目でした」
「二人目ですか? 」
クルスがアソッドに聞き返す。
「最初にまた会えるって思った人は男の人でした。名前は聞き聳えましたけど」
アソッドはそっと瞳を閉じ、数日前の出来事を思い出した。




